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日没(桐野夏生)

先が気になって仕方ない

日没
桐野 夏生(著)
桐野夏生さんの『日没』を一気読みしました。329ページある作品の、冒頭30ページくらいで既に「これはヤバい小説だ」と思いましたよ。

現代語の「ヤバい」は「すごく良い」という肯定的な意味も含みますね。ですが私のいう「ヤバい」は昭和時代の「ヤバい」です。
女性作家マッツ夢井は昨年、レイプやフェチなど思い切った性愛を描いた作品を出版した。世間一般の常識やタブーを超えて人間の本質を描き出したかったのだ。自分ではかなり力を込めて書いたつもりだったが、まだまだ力不足だったと感じている。

そんなある日、マッツ夢井のもとに、大きな青い封筒が届いた。差出人は「総務省文化局・文化文芸倫理向上委員会」で、書面は「召喚状」だった。

総務省文化局・文化文芸倫理向上委員会に、マッツの読者から訴状が届いているので、事情を聴取するための審議会に出席するようにとのこと。言葉は比較的丁寧だが、有無を言わさぬ調子で「出頭せよ」と通達してきたのだ。しかも簡単なものではないらしく、宿泊の準備もしてくるようにと書き添えらえれている。

想像するに、読者から作品に対してクレームが来ているということらしい。気合を入れて書いた新作が過激すぎると非難されたのだろうか?

訳がわからないまま、スマートフォンと充電器、下着の着替えとパジャマ、現地で読む本を持って指定された駅に向かうマッツだった。

指定された駅から、さらに車に乗せられてついた場所は房総半島の先端あたり。「療養所」と呼ばれる施設だった。

所長からの説明によると、「文化文芸倫理向上委員会」では文芸作品を社会に適応した作品かどうかチェックしているらしい。過激な性愛や暴力表現のある小説は社会に適応していないとみなされる。この「療養所」は、そんな社会不適合作品を生み出す作家を更生させる場所だったのだ。

マッツが思わず反論すると「減点」を言い渡される。減点1につき、滞在が1週間延びるのだという。到着してすぐに減点7を食らったマッツは最短でも7週間滞在せねばならないことになる。

これは一体どういうことなんだろう、なんとかしてここから出たい。そう思うマッツだったが……。
(桐野夏生さん『日没』の出だしを私なりに紹介しました)
この小説は怖いです。

召喚状を受け取った段階では、どういうことなのか訳がわからず、放置しておくともっとこじれるだろうという思いで指定の場所に出かけてしまう主人公の気持ちはよくわかります。

だけど、連れて行かれた「療養所」は ほぼ刑務所。

まず、収容者は名前ではなく記号で呼ばれるようになります。アイデンティティの剥奪ですね。

その上私語は禁止で収容者同士が話したら「共謀罪」に問われる可能性もあるのです。

そもそも収容者どうしが顔を合わせることがないように管理されています。

食事は、現代の日本では考えられないほどひどいもので、時に昼ごはんを抜かれたりします。

はっきり言って刑務所以下。

外部に連絡を取ろうと思っても、スマートフォンは圏外。

徐々に精神が不安定になってきます。

そういう状態で「正しい作品を書くように」と指導されるのですが、そもそも作家は悪を描いたとしても、悪を奨励しているわけではありません。推理小説で殺人事件を書いたとしても、著者が殺人を肯定しているわけではないことくらい誰だってわかることだと思います。

しかし、それを「社会不適合」と断じて「更生させる」ということに薄寒い思いがしました。

人間が人間らしい扱いを受けないでいると、どのようになっていくのか、桐野夏生さんの描写は容赦がありません。人によったら途中で読むのをやめてしまうのでは、いえ、途中でもう読めなくなるのではないかと思うくらい。

私はマッツがどうなってしまうのか、それを見届けたい一心で読み進めましたが、最後のページを読み終わった時は思わず「うーん」と唸ってしまいました。

先が気になって仕方がなく、明け方4時までかかって読み終えたのですから、面白い小説なのは間違いありません。面白いのですが、どんな人にでもお勧めできるかというと、難しい。感情移入が激しい人は精神状態が悪くなってしまう気がします。

桐野夏生さんはとんでもない作品を書かれたものですねぇ。
日没
桐野 夏生(著)
岩波書店
小説家・マッツ夢井のもとに届いた一通の手紙。それは「文化文芸倫理向上委員会」と名乗る政府組織からの召喚状だった。出頭先に向かった彼女は、断崖に建つ海辺の療養所へと収容される。「社会に適応した小説」を書けと命ずる所長。終わりの見えない軟禁の悪夢。「更生」との孤独な闘いの行く末はーー。 出典:楽天
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池田 千波留
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