女の子は本当にピンクが好きなのか(堀越英美)
多角的な視点から組み立てられたピンクをめぐる考察 女の子は本当にピンクが好きなのか
堀越英美(著) "よもや自分の娘がピンク星人になってしまうとは。"
本書の著者、堀越英美さんは、長女が3歳を前にピンクにしか興味を示さなくなり、愕然とします。女の子の色はピンクなんて押しつけはせずに、自由にいろいろなものを選ばせようと思っていたのに!
保育園や幼稚園に通う年齢の女の子たちは、どうやらピンクに夢中になるようです。女児向けグッズや女児向け幼児雑誌もピンクだらけ。 1973年生まれの堀越さんの幼児時代は、ここまでピンク一色ではありませんでした。女の子向けのファンシーグッズやアニメのキャラクターの服装は、赤と白の組み合わせが主流でした。 そもそも、なぜ自分はピンクにこんなにもやもやしてしまうのだろう。私は、ピンクから何を読み取っているのだろう、という女児の母としての素朴な疑問から本書は生まれました。 1章では、フランス、アメリカ、日本を中心に、ピンクが女の子の色となった歴史を概観します。例えばヨーロッパでは、17世紀以降、染色技術の進歩により、ピンクが衣類に使われるようになります。ただし男女の区別なく着用していたといいます。 20世紀初頭、欧米の男児の衣服が「男らしく」なりました。小児心理学が登場し、母子密着、父親との同一化の失敗などを克服するため、早期から男児の性別アイデンティティを育むことが奨励されるようになり、小さな男の子がズボンを履くようになったのです。 しかし、ピンクが女性の色と認識されていくのは、第二次世界大戦後のアメリカからです。喪服を連想させる黒、戦時中の作業着(ジーンズ)を連想させる青を脱ぎ捨て、愛国心や血なまぐささから最も遠いと受けとめられるピンクがブームになりました。この頃からピンクは女性性と結びつけられるようになり、とりわけ女児の玩具はピンクまみれになっていきます。 2、3章では、欧米におけるアンチ・ピンク運動が紹介されます。色に限らず、玩具の男女別をやめようという働きかけがメーカーを動かした例などが紹介されていますが、一方で、女性が排除されがちだったSTEM(理系)の要素を取り入れた女児用玩具が開発され、ヒットした例なども紹介されています。 4、5章では、女性の社会進出が進まない日本社会において、ピンクが意味するものを考察します。日本では、ピンクが女子カラーとして広く定着するのは、1990年代以降のことです。かつて日本では、ピンクはエロティシズムと結びつけられていたため、女子と結びつくのが欧米よりも遅れたのではないかと堀越さんは推測しています。 90年代半ばに、世界20か国の若者を対象に行われた調査によれば、日本では、ピンクを女性、献身、家庭というイメージと結びつける人が多かったそうです。この傾向は日本独特なのだそうです。 母性や献身といえば、女性がよく選択する職業にも期待されるイメージです。ホワイトカラー、ブルーカラーにちなみ、女性の仕事と見なされがちな職種全般を「ピンクカラー」と呼ぶそうです。ピンクカラーの職種では、賃金が低く抑えられる傾向があります。 では、女性たちはなぜピンクカラーに進むのか。その理由は、それ以外の選択肢に考えが至らない、男性の多い職業に進むにはある程度の覚悟が必要になる、女性が多い仕事なら、女のくせに生意気だと男女双方から嫌われるリスクが低い、家事育児と両立しやすいようにみえるから、と堀越さんは考えます。 もちろん、ピンクカラーを目指すことが問題なのではありません。多くの女性が低賃金に甘んじざるを得なくなるということが問題なのです。 6章では、ピンクやかわいいものが好きな男性に対する抑圧の問題を考察します。男性もまた、ステレオタイプを押し付けられています。そうした男性に対する抑圧を意識して減らしていくことが、女性への抑圧を減らすことにつながると堀越さんは考えます。 たくさんの文献と多角的な視点から組み立てられたピンクをめぐる考察を、軽快でユーモアあふれる文章で一気に読ませます。へええ、なるほど、そういえば、と、共感、発見、気づきが得られる一冊です。 女の子は本当にピンクが好きなのか
堀越英美(著) (河出文庫/2019) どうしてピンクを好きになる女の子が多いのか? 一方で「女の子=ピンク」に居心地の悪さを感じるのはなぜ? 子供服から映画まで国内外の女児文化を徹底的に洗いだし、ピンクへの思いこみをときほぐす。 出典:amazon 橋本 信子
同志社大学嘱託講師/関西大学非常勤講師 同志社大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程単位取得退学。同志社大学嘱託講師、関西大学非常勤講師。政治学、ロシア東欧地域研究等を担当。2011~18年度は、大阪商業大学、流通科学大学において、初年次教育、アカデミック・ライティング、読書指導のプログラム開発に従事。共著に『アカデミック・ライティングの基礎』(晃洋書房 2017年)。 BLOG:http://chekosan.exblog.jp/ Facebook:nobuko.hashimoto.566 ⇒関西ウーマンインタビュー(アカデミック編)記事はこちら |
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