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神さまの貨物(ジャン クロード グランベール)

託された命の輝き

神さまの貨物
ジャン=クロード・グランベール(著)
深い森の奥に住んでいる木こりの夫婦。毎日生きていくのが精一杯の貧しい暮らしだ。そんな暮らしでも、妻はずっと子どもを熱望、子どもをお授けくださいと、神に祈り続けてきた。

しかしその願い虚しく、妻が身ごもることはなかった。それなのに妻はずっと、何かの奇跡が起こって子どもを授かれるのではないかと思っている。

最近の妻の楽しみは、貨物列車の通過を見送ることだった。

何が乗っているのか、妻は知らない。一度その貨物列車の窓から、紙切れが落ちてきたことがあった。妻はその紙を拾ったが、文字を読めないので、ぎっしりと書き込まれた内容を理解することはできなかった。

そんなある日、今度は貨物列車の窓から、綺麗な布に包まれた何かが落とされた。雪の上に落ちたその包みを拾った妻は驚き、そして喜んだ。それは赤ん坊だったのだ。

妻は「列車の神様」がついに、自分に赤ん坊を下さったのだと信じ、感謝した。そしてその子を育てることを決意する。

木こりの夫はそれに反対したが、妻の固い決意を翻すことはできなかった……
(ジャン=クロード・グランベールさんの『神さまの貨物』の出だしを私なりにまとめました)
『神さまの貨物』は、まるでおとぎ話のような語り口ですが、内容はとても深く、厳しいです。

時代は第二次世界大戦の後半。妻が見送っていた貨物列車の「荷物」は、強制収容所に送られるユダヤの人々だったのです。

息もつけないようなその貨物列車の中、双子の赤ん坊を授かったばかりの父親が双子のうちの一人を窓の外に放りなげます。

母親は怒り嘆きますが、父親は自分たちの未来の暗さを感じとっていました。

せめて一人だけでも生き伸びるチャンスをと、我が子を走る列車から投げ落としたのでした。

一方、赤ん坊を拾った木こりの妻はせっかく神様がくれた赤ちゃんを、何があろうと守り育てると決意します。

しかし木こりの夫は、貨物列車が何を運んでいるのか知っていました。

そこから落ちてきた子どもに関わることが、いかに危険なことであるかも。

木こりの妻は、赤ちゃんを育てていけるのか?

赤ちゃんを投げた父親と他の家族はどうなってしまうのか?

易しい言葉で紡がれた物語は、読み終えるのにさほど時間はかからないでしょう。

でも、戦争に翻弄される登場人物たち、一人一人に思いを寄せると、安易にページを繰ることができません。

この小説には、戦争の悲惨さと、その対極にある命の輝きが描かれていました。

赤ちゃんを助け、生かそうとする人々。非力に見える赤ちゃんが彼らをそうさせるのです。小さな命にはすごい力があるんだな、と思いました。

守られた小さな命の輝き。哀しみと同時に希望を感じる小説でした。
神さまの貨物
ジャン=クロード・グランベール(著)
ポプラ社
明日の見えない世界で、託された命を守ろうとする大人たち。こんなとき、どうする?この子を守るには、どうする?それぞれが下す人生の決断は読む者の心を激しく揺さぶらずにおかない。モリエール賞作家が書いたこの物語は、人間への信頼を呼び覚ます「小さな本」として、フランスから世界へ広まり、温かな灯をともし続けている。 出典:楽天
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の
『読書ダイアリー』

ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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