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スコーレNo.4(宮下奈)

後半、面白さが加速する

スコーレ No.4
宮下奈都(著)
私がパーソナリティを担当している大阪府箕面市のコミュニティFMみのおエフエムの「デイライトタッキー」。その中の「図書館だより」では、箕面市立図書館の司書さんが選んだ本をご紹介しています。

今回ご紹介するのは、宮下奈都さんの『スコーレNo.4』。
中学一年生の津川麻子は、祖母、両親、妹二人の六人家族。骨董品屋の長女だ。

一つ年下の妹 七葉は、綺麗な顔立ちをしていて、思ったことははっきりと口にする。好きなものは好き、欲しいものは欲しい、と。

下の妹は小学校に入学したばかりの六歳。末っ子らしく屈託無く明るい。それに比べると自分は、思ったことをストレートに口に出すことができない。

好きな人ができても、そっと心で思うだけで、最後は諦めてしまう。妹のように美人だったら、積極的になれるのだろうか?
(宮下奈都さん『スコーレNo.4』の出だしを私なりに紹介しました)
私は、「どうせ、私なんて」が口癖の人が苦手です。

その「私なんて」は、謙遜とは似て非なるもので、「いや、そんなことないよ」という言葉を期待されているのでは、と思ってしまうのです。

そういう口癖の人に限って、努力をしていないことが多いし。

「だって私、●●さんみたいに綺麗じゃないモン。どうせ私なんて……」

キーッ!

なぜ他人と比較して卑下せねばならんのだ!

私は私、あなたはあなた。北川景子さんや綾瀬はるかちゃんになれるはずがない。

だったら基準は自分に置いて、自分史上、一番輝く私を目指せばいいではないの!!

私はどうかと言うと、多分、根拠なく自己肯定感が高いのだと思います。

悪いところ、至らないところはいっぱいあるけど、そんな自分が好きなのよ。

私より綺麗な人、賢い人は世の中にいっぱいいるのは知っています。

そんな人たちと自分を比べてイジイジしている時間もったいないワ。

さて、このスコーレNo.4の主人公 津川麻子は自己肯定感が低いです。

「どうせ私なんて」とまでは言わないけれど、常に、妹 七葉を意識して、七葉にはかなわないと思っています。

私は本を読むのがかなり早いのですが、最初、この小説をなかなか読み進めることができませんでした。

全然、気持ちが乗らない。3日で30ページしか読めないなんて初めて。

どうしてこんなに先に進めないのだろうと思ったら、そうか、麻子には全く自信がなく、ウジウジしているのが見ていられないのだ、とわかりました。

そこで、あえて主人公に感情移入せず、サラサラと読むようにしたら、後半から俄然面白くなってくるではありませんか。

ああ、途中で放り出さなくてよかった。

この小説は4つの短編からなっていて、それぞれ麻子の中学、高校、大学、就職の4段階が描かれています。

就職してからの麻子の成長ぶりが目覚ましくて、面白いんです。

麻子は、七葉と距離を置きたくて、大学進学と同時に一人暮らしを始めます。

そして卒業後も家に帰らず、そのまま一人暮らしを続け、大手の貿易会社に就職するのです。

しかし麻子が配属されたのは、輸入専門の高級靴店。販売店で取扱商品の勉強をしてから本社に戻ってこいということ。

靴なんか好きじゃないのに。得意な英語を生かすために、貿易会社に勤めたはずなのに。

気がつけばお客様の足元にかがんで靴を勧めている自分に何をしているんだか、と思っている麻子。

まだこの辺りはウジウジしております。

が、ある日ふと気がつくのです。自分は見ただけで靴の値段がわかることに。

高級靴の素材、デザイン、縫製などを見るだけで値段がわかる、それは靴の目利きができるということ。

おまけに、商品のディスプレイも、「もっとこうするべきじゃないか、こんなふうに商品を並べたらいいのでは?」とアイデアが湧き上がってきます。

それは麻子が幼い頃から父親の骨董品店に入り浸り、骨董品を眺めていたことと無関係ではありません。

麻子の父は、娘たちにこんなことを言っています。
ものを見る目は育つんだよ。持って生まれたものなんてたかが知れている。あとはどれだけたくさんいいものを見るかにかかってるんだ。
(宮下奈都さん『スコーレNo.4』 P 17より引用)
麻子は「靴」そのものに興味はなかったのだけれど、材質の良さ、デザインの素晴らしさを見る目を持っていたわけです。

それがだんだんと周囲に認められ、職場で力を発揮できるようになると、麻子の自己肯定感が少しずつ上がっていきます。特に靴の買い付けのため海外出張した時の麻子はカッコいい!

そして麻子は徐々に、仕事に喜びを感じ、仕事を通して多くの人と繋がっていることにも気がつきます。

「靴」をデザインする人、素材を作る人、縫製する人、運ぶ人、売る人…様々な人が働いて、やっとお客様のもとに届く。

自分はその輪の中にいて、自分なりの関わり方で「靴」を愛しているのだと。

この「靴」の部分に、他のものを当てはめても成り立つのではないかしら。

世の中は色々な人の力で成り立っているのだから、なんの力もないように見える私(あなた)も、知らないところで誰かの力になっているのかも知れません。

自分を認めて、自分を好きになるって本当に大切だと教えてくれる小説です。

そして、人生で経験することに無駄なことは一つもなく、実りの時期が早い人もいれば、遅い人もいる、そんなことも改めて教えてもらいました。

【余談】
麻子の下の妹、紗英のことを祖母が「お豆さんだよ」という場面があります。末っ子で小さいから、特別扱いをしてあげようという意味です。

私が小さい時は、そういう子のことを「ごまめ」と呼んだものなのですが。夫に聞いてみると夫も「ごまめ」派。もしかして関西は「ごまめ」で関東は「お豆」なの?
スコーレ No.4
宮下奈都(著)
光文社
自由奔放な妹・七葉に比べて自分は平凡だと思っている女の子・津川麻子。そんな彼女も、中学、高校、大学、就職を通して4つのスコーレ(学校)と出会い、少女から女性へと変わっていく。そして、彼女が遅まきながらやっと気づいた自分のいちばん大切なものとは…。ひとりの女性が悩み苦しみながらも成長する姿を淡く切なく美しく描きあげた傑作。 出典:楽天
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池田 千波留
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コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
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ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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