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東京ロンダリング(原田ひ香)

ロンダリングの心得が面白い

東京ロンダリング
原田ひ香(著)
先日読んだ『一橋桐子(76)の犯罪日記』があまりに面白かったので、同じく原田ひ香さんの『東京ロンダリング』を読みました。
内田りさ子 32歳。離婚の際、原因がりさ子側にあったので、財産分与はほぼなく、家を追い出された。実家にも帰ることができなかった。

生きていくために、ともかく安い家賃の物件を探したが、身元保証がないりさ子が賃貸契約を結ぶのは難しい。何件も断られた末に行き着いたある不動産屋で、驚くような話を持ちかけられる。いわゆる「事故物件」に住んでもらえないかというのだ。

賃貸物件で自殺者が出た場合や、病死でも独居などのため死後なかなか気付かれなかった場合、次にその物件を貸す時には、事情を説明せねばならない。

しかし、そういう事情の部屋は敬遠されがちで、なかなか借り手がつかなくなる。物件の所有者にとっても、仲介業者にとっても頭の痛い話だ。

りさ子は、そんな事故物件に、半年ほど住んでもらえないかと持ちかけられたのだ。というのも、一度第三者が住んでしまえば、次の契約時にはそれ以前に起こった「事故」について説明する義務がなくなるから。

不動産屋はりさ子に、もし事故物件に住んでくれるなら家賃はいらないという。それどころか、日当まで渡すというではないか。

他に生きる方法が見つからず、りさ子はその話に乗ることにした…… (原田ひ香さん『東京ロンダリング』の出だしを私なりにご紹介しました)
ロンダリングとは、洗濯する、きれいにするという英単語です。出所の怪しいお金を浄化することをマネーロンダリングというのはニュースなどでよく聞きます。

だから私はタイトルを見た時、闇のお金の話かと思いました。

ところがそうではなく、この小説の「ロンダリング」は事故物件の影響をなくすこと。賃貸物件の浄化、という意味だったのです。

一日幾らかの日当を払ってでも、ロンダリングした方が、次の契約がスムーズに運ぶのでしょうが、怖がりさんや、霊感のある人だと 引き受けられません。

私も嫌だな。

だけど、りさ子はもともと霊的なことには無頓着だし、なにせ、お金も住むところもないのですから、引き受けるしかなかったのでしょう。

かといって、困窮している人だったら誰でもロンダリングを任せられるかと言えば、そうではありません。

周囲の住人にロンダリングしていると悟られないよう、さりげない人物、さほど印象に残らない人物でないと。 りさ子が新たな事故物件に入居する時、不動産屋さんから復唱させられるロンダリングの心得が面白い。
「いつもにこやかに愛想よく、でも深入りはせず、礼儀正しく清潔で、目立たないように。そうしていれば絶対に嫌われない」
(原田ひ香さん『東京ロンダリング』 P30より引用)
ロンダリングが終わって引っ越していく時、周囲の住人からすぐに忘れられるための心得です。

りさ子が誰とも関わらず、記憶に残らないようにしているのは実は部屋のロンダリングのためだけではありません。読み進むに従って、りさ子の事情が見えてきます。

りさ子は部屋のロンダリングとともに、自分の心のリハビリ、ロンダリングをしているのかもしれません。

りさ子や、周囲の人物たちが非常に興味深く、最後まで面白く読めました。

ところで、この小説の中に、ものすごく美味しそうな定食屋さんが描かれています。

その定食屋さんの看板メニューは「豚のこしょう焼き」。豚の生姜焼きなら知っていますが、こしょう焼きなんて見たことがありません。

どんな味かしら?

りさ子が食べているのを読むと、本当においしそう。

原田ひ香さんは、どこかの定食屋さんで実際に召し上がったことがあるのかしら?

もしそうなら、そのお店を教えて欲しいです。
東京ロンダリング
原田ひ香(著)
集英社
内田りさ子、32歳。訳あって夫と離婚し、戻る家をなくした彼女は、都内の事故物件を一か月ごとに転々とするという、一風変わった仕事を始める。人付き合いを煩わしく思い、孤独で無気力な日々を過ごすりさ子だったが、身一つで移り住んだ先々で出会う人人とのやりとりが、次第に彼女の心を溶かしてゆくー。東京の賃貸物件をロンダリング“浄化”する女性の、心温まる人生再生の物語。 出典:楽天
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の
『読書ダイアリー』

ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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