コロナと潜水服(奥田英朗)
世にも不思議で温かいお話 コロナと潜水服
奥田英朗(著) 私がパーソナリティを担当している大阪府箕面市のコミュニティFMみのおエフエムの「デイライトタッキー」。その中の「図書館だより」では、箕面市立図書館の司書さんが選んだ本をご紹介しています。
今回ご紹介するのは、奥田英朗さんの『コロナと潜水服』。 奥田英朗さんはハズレの少ない作家さんだと思っています。そしてこの作品も、面白くてあっという間に読み終えました。 この本には5つの短編が収められています。 まずタイトルだけをご紹介すると、『海の家』、『ファイトクラブ』、『占い師』、『コロナと潜水服』そして『パンダに乗って』。 それぞれの話に相互関係はなく、登場人物も重複しません。 ただ、それぞれの登場人物が「とても不思議な体験をする」ということが共通点です。 私もこれまで何回か霊的な体験をしたことがあるので、こういうこともあるかもね、と思いながら面白く読みましたよ。 どの話も、ぞくっとするような体験が描かれているのですが、読み終わった時に気持ちが明るく温かくなるように描かれているのがとても素敵です。 ある程度ネタバレしますので、ここから先を読むかどうかはご自分で判断してくださいね。 5つの中で私が最も好きなのは『パンダに乗って』。 動物のパンダの話ではありません。 小さな会社を起こして、長年頑張ってきた直樹は、自分へのご褒美にセカンドカーを買うことにした。イタリアの自動車メーカー フィアットの初代パンダ、しかも赤色を。
フィアットの初代パンダは1980年代に世界で流行した人気モデルで、直樹は、若い頃に欲しくて欲しくてたまらなかったのだ。 しかし日本ではイタリア車はあまり人気がない。しかも初代パンダの中古車はほとんど流通していない。 ようやく新潟の中古車販売会社が所有していることがわかり、契約。わざわざ新潟まで取りに行き、ドライブしながら東京に帰ってくることにした。 ところがカーナビが、当初の目的地とは全然違う場所に案内し…… (奥田英朗さんの『コロナと潜水服』 「パンダに乗って」の出だしを私なりに紹介しました) 以前、書いたことがあると思うのですが、私も以前、カーナビに設定した目的地とは全く違う場所に何度もなんども連れて行かれたことがあります。
それはニュースで見た、虐待死させられた男の子の「念」だったと理解しているのですが、このパンダに搭載されたカーナビは、車の元の所有者のゆかりの地へと案内するのです。 私の場合は、ゾッとする体験でしたが、直樹の体験は、心が温かくなる結末が待っています。 私も読んでいて「良かったね、良かったねぇ」と何度も思いました。 他の短編もそう。 冒頭の『海の家』は小説家が主人公です。 家庭内に勃発したあることがきっかけで、主人公は葉山の古民家を借り、しばらく一人暮らしをすることに。
ところが一人のはずなのに、家の中で子どもの足音が聞こえる。実はその家には…… 単なる幽霊話ではありません。
読み終わった時にはきっと、その「幽霊」を愛おしく思うことでしょう。 私もその「幽霊」に会ってみたいなぁ。 そして『ファイトクラブ』ではリストラ勧告に従わず、閑職に追いやられた男たちが、暇を持て余して始めた「部活」に「コーチ」が現れます。 これも単なる不思議話ではありません。 家族を養うため、会社の仕打ちに耐えてやりがいのない職場にしがみついていた男たちがどんどん強くなっていく姿にエールを送りたくなるお話です。 こんなに読後感の良い不思議話は珍しいです。 ドキッとする表題作『コロナと潜水服』がどういうお話なのかは実際に読んでみてください。 ところで、この短編集には、1970年代80年代の音楽がいくつも紹介されていて、その曲を実際に聞くことも楽しみの一つ。 ローリング・ストーンズ、ジャクソン・ブラウン、Wham!!、そしてザ・ポリスなど。 紙媒体の本にだけ、巻末に作中の登場曲リストが掲載されています。 【余談】 イタリア車フィアットといえば、大地真央さんを思い出します。月組トップスター時代に乗っておられたのですよ。 当時大学生だった私は、親のお古のフォードのムスタングに乗っておりました。そしてある日、狭い道で真央ちゃんとすれ違ったのです。 それは現在の手塚治虫記念館横の細い道。 向こうから来る紺色の車も左ハンドルで、お互い、こすらないよう慎重にゆっくりゆっくりすれ違い、最後にお互いに手をあげて挨拶を交わす段になってやっと気がついた! 「ああああああ!ま、ま、ま、真央ちゃん?!」 あの、ふっと口元を緩めて手をあげてくださった真央ちゃんのなんと きれいだったことよ! 最初から真央ちゃんの車だと知っていたら、腕が震えて車体をこすってしまったかもね。 真央ちゃんの車はフィアットのリトモだと聞いた気がするけど、もしかしたパンダだったかもしれない。 そんなことを思い出しつつ読んだ「パンダに乗って』でした。 コロナと潜水服
奥田英朗(著) 光文社 ある理由で家を出た小説家が、葉山の古民家に一時避難。生活を満喫するも、そこで出会ったのは(「海の家」)。早期退職の勧告に応じず、追い出し部屋に追いやられた男性が、新たに始めたこととは(「ファイトクラブ」)。人気プロ野球選手と付き合うフリー女性アナウンサー。恋愛相談に訪れた先でのアドバイスとは(「占い師」)。五歳の息子には、新型コロナウイルスが感知できる?パパがとった究極の対応策とは(「コロナと潜水服」)。ずっと欲しかった古いイタリア車を手に入れ乗り出すと、不思議なことが次々に起こって(「パンダに乗って」)。コロナ禍の世界に贈る愛と奇想の奥田マジック。紙の本にだけ、作中の登場曲が楽しめるSpotifyのプレイリスト付き!! 出典:楽天 池田 千波留
パーソナリティ・ライター コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。 BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」 ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HP/Amazon
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