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戦場の秘密図書館 シリアに残された希望(マイク トムソン)

『本を読むことで人間の知恵は花開く』

戦場の秘密図書館
シリアに残された希望
マイク トムソン (著), 小国 綾子 (訳)
この数か月、仕事で、学業で、楽しみで、暇つぶしで本を読もうにも、新型コロナの影響で図書館が開いてないという事態に困った方も多かったことと思います。私もそうでした。最近、図書館が再開してどんなにありがたく感じたことか! ということで、今月のおすすめは、図書館に関するノンフィクションにしました。

前々回、世界の最先端を走るフィンランドの図書館事情をご紹介しました。住民の文化活動や交流、スキルアップ、生活支援のための多様な試みがたいへん魅力的でした。

今回は、内戦下のシリアで、瓦礫から救い出した本を集めて極秘で図書館を作ったというお話です。フィンランドとはまったく異なる政治状況ですが、シリアの秘密図書館もまた、住民の精神活動を支え、いつか訪れる新しい時代に向けた国づくりのために学ぶことをやめない人たちの熱い思いが満ちています。

2010年、北アフリカのチュニジアで起こった反政府デモをきっかけに、北アフリカから中東にいたる地域の国々で、相次いで民主化運動が起こりました(「アラブの春」)。1970年代からアサド大統領父子による独裁政治が続いていたシリアでも、2011年、民主化を訴える声が高まっていきます。

首都ダマスカス近郊の町ダラヤでも民主化を訴えるデモが住民の共感を呼び、広がっていきました。このデモは平和的なものでしたが、政権はこれを「テロ」だとして厳しく弾圧します。活動家が拘束され、拷問によって殺され、政府軍による住民の大虐殺が起こりました。

人びとは近郊の町などに避難し、ダラヤの人口は、数週間で約8万人から8千人ほどに激減しました。政府は町を完全に包囲して、補給路を断ちます。それから4年もの間、住民は救援もないなかで、政府軍の空爆にさらされながら、地下室で耐乏生活を送りました。

そのようななか、爆撃で崩れた家屋から本を取り出し、いつか持ち主に返せるまで保管しようとする若者たちが現れます。彼らは暗闇のなか、身を挺して手作業で本や本棚を掘り出し、秘密の地下室に運び込みました。ほこりを落とし、持ち主の名前や住所をひとつずつ記入し、本棚にきちんと分類整理していきました。

彼らは、可能な限り持ち主に連絡を取って、図書館で使わせてほしいと申し入れたそうです。また持ち主がかつて並べていた状態に本を保つことで、その家の人たちに敬意を示すよう心がけました。

この密かな救出活動を知った住民からの本の提供も相次ぎ、秘密の図書館には1万数千冊の本が集まりました。イスラム教徒が多い町ですが、キリスト教の本も救出しました。「自分たちの知性や世界への理解をみがきたければ、異なる意見にふれ、自分の頭で考える必要がある」と考えたからです。

図書館整備は、大学で教育を受けた若者たちが中心になって進めましたが、それまであまり本を読まなかった若者や少年たちも、次第に本に夢中になっていきます。本の貸し借りだけではなく、読書会や講座も頻繁に開かれました。図書館は、地域の知的コミュニティセンターとなっていったのです。

図書館は危険な地区にあったので、やってくるのはほとんどが男性でしたが、別の地区の地下室で子どもたちに勉強を教える若い女性もときどきやってきて、子どもたちのために本を借りていきました。それらの本は、明日の命も知れない状況に生きる子どもたちの心をひととき癒したのでした。

反政府軍の兵士たちも、数冊ずつ借りて、前線に「ミニ図書館」をつくりました。彼らは自分が借りた本を読み終えると、交換しあい、同じ本を読み終えると議論をかわしました。攻撃がないときには、前線で日常的に読書会が開かれていたといいます。

ダラヤは包囲されていたので、テレビを始め、外界とのつながりが断たれていました。そのような状況のもとでも人々は本を必要としたのです。本を読むことで、ダラヤの人びとは、精神の安定を保ち、より良い未来への土壌を耕そうとしたのです。

ある青年は次のように言っています。「本は雨のようなものじゃないかなって。雨の降りそそぐ土地に草木が育つように、本を読むことで人間の知恵は花開くんです」

ダラヤは4年にわたる包囲を経て陥落します。最後まで町に残った人々は、政府側との交渉の末、別の町に移ることに合意しました。図書館はその後、政府軍兵士によって発見され、本は蚤の市で売りさばかれてしまいました。

しかし若者たちは、移住先で再出発します。彼らは、ライトバンを手に入れ、2千冊の本を積んだ移動図書館に仕立てて、村落を回りました。本だけではありません。ときには、専門家や社会活動家、教師や医師たちも乗せて、訪問先でミニ講演会や英会話教室、楽しいイベントを開いています。

シリアはいまだ予断を許さない状況です。若者たちが移動図書館を走らせているイドリブ県もロシアによる爆撃を受けています。本を通してシリアの人びとの希望を育む若者たちの活動が何とか無事に継続することを願います。

なお、本書は、イギリスBBCの特派員記者が、長期にわたって秘密図書館の若者たちにインターネットを介して取材して書きあげました。フランスのジャーナリスト、デルフィーヌ・ミヌーイ氏によるルポルタージュ、シリアの秘密図書館~瓦礫から取り出した本で図書館を作った人々)(東京創元社/2018年)も併せておすすめします。
戦場の秘密図書館
シリアに残された希望
マイク トムソン (著), 小国 綾子 (訳)
文溪堂 (2019)
シリア内戦下の町ダラヤ。政府軍による完全封鎖。日常的な空爆、食料・物資の絶対的不足…そんな絶望的な状況の中、明日への希望をつないだのが、図書館、本だった。戦場となった町の地下につくられた秘密図書館を守りぬいた若者たちの感動のノンフィクション。 出典:amazon
profile
橋本 信子
同志社大学嘱託講師/関西大学非常勤講師

同志社大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程単位取得退学。同志社大学嘱託講師、関西大学非常勤講師。政治学、ロシア東欧地域研究等を担当。2011~18年度は、大阪商業大学、流通科学大学において、初年次教育、アカデミック・ライティング、読書指導のプログラム開発に従事。共著に『アカデミック・ライティングの基礎』(晃洋書房 2017年)。
BLOG:http://chekosan.exblog.jp/
Facebook:nobuko.hashimoto.566
⇒関西ウーマンインタビュー(アカデミック編)記事はこちら

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