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姑の遺品整理は、迷惑です( 垣谷美雨)

意外にも心温まる

姑の遺品整理は、迷惑です
垣谷美雨(著)
タイトルを見た瞬間、固まってしまいました。

本音100パーセント、すごすぎませんか?

幸いなことに私は遺品整理の経験がありません。

実家も、夫の両親も健在だからです。

でも、遺品整理が大変なことは、昨年叔父が亡くなった時にわかりました。

妻に先立たれ子どもがいなかった叔父の遺品整理を姉である母がすることになったからです。

叔父が、幼かったとはいえ戦争を経験しており、物を捨てられない人だったことと、家のことを任せ切っていた奥さんが1年前に亡くなっていたこともあり、狭い家が物で溢れかえっていました。

それはもう大変で、母は半ばノイローゼになっていました。

専門業者に頼んだものの、何を捨てて何を残すか、決めるのは母の役目です。

介護施設に寄付できたタオル類や食器を除くと、ほぼ全て捨てることになったのですが、母にとって、まだ使えそうなものを「捨てる」と決意すること自体がとんでもないストレスだったのです。

実の弟の遺品整理でもそのありさま。それが姑の遺品整理となったら、どんなことになるのやら。

想像するだけでも恐ろしく「迷惑」なことでしょう。

小説とはいえ、全てが作り事ではないはず。

詳しく知りたいぞ。

しかし、こんなタイトルの小説を読んでいることがお義母さんの耳に入ったら……

さぞかし気分が悪かろう。

いやいや、お義母さんだけではなく、うちの親も気分が良くないかもしれない。

生前から遺品整理の心配をするなんて、と。

そんな葛藤はあったものの、読んでしまいましたわ。

だって現実として、自分が先立たない限り、いつか必ず経験しなくてはならないことだもの。
望登子は50代半ば、全国チェーンのジュエリーショップでパートを始めて約20年になる。

夫は学生時代の友人だ。子どもは独立し、現在は夫と二人暮らしで、金銭的にも時間的にもようやく一息ついた。

姑の多喜は、七十代後半になっても、エレベーターのない団地の4階に住み続けていた。

ちょっとお節介焼きだけど元気が取り柄だった姑は、脳梗塞であっという間に亡くなった。

葬儀の翌週から、望登子は遺品整理に取り掛かる。

住む人が居ようと居まいと、解約しない限り家賃8万円を毎月払わねばならないからだ。

少しでも早く家を空っぽにして解約したいのだが、一人息子である夫は手伝ってくれない。

姑は「捨てられない人」だったようで、押し入れにもタンスの中にも物が詰まっていた。

パートの合間を縫い、家から一時間半かけて一人遺品整理に出かける望登子……
興味深すぎて、一気に読んでしまいました。

業者を頼んで丸投げしてしまえば良いという友人が居るものの、望登子は自分でやろうとします。

見積もりをとってその金額に驚愕したこともあるけど、根が真面目で優しいところがある人なのですよ。

夫にとって大事なものもあるかもしれない、と思うのですね。

とはいうものの、あまりの物の多さに、思わず声に出して悪態をつくところなど、ああ、私も同じことを言いそうだなぁと親しみを覚えました。

望登子が悪態をつきたくなるのは、実母と比べてしまうからでもあります。

望登子の母親はきっちりとした人で、病を得た時、自分で物の始末をし、遺品整理の必要などない状態で亡くなったのです。

それに比べて、姑はなんという大変な作業をさせることか!

でも遺品整理を続けるうちに、近所の人からいろいろなことを教えてもらい、知らなかった姑の一面を知ることになります。

物が溢れるのも「もったいなくて捨てられない」だけが原因ではないとわかってきます。

この理由には、私も驚きつつ納得。

聞いてみないとわからないものですねぇ。

読むのをためらうほど衝撃的なタイトルの割に、読後感がほんわかしているのは、垣谷美雨さんの持ち味だと思います。

読み終わったとき、遺品整理はとてつもなく大変だけど、その方と本当にお別れする儀式のようなものかもしれないと思いました。

しかし、私が亡くなったとき、残された人にこんな大変な思いをさせてはイカン!

断捨離だ、断捨離!!
姑の遺品整理は、迷惑です
垣谷美雨(著)
双葉社
独り暮らしの姑が亡くなり、住んでいたマンションを処分することになった。業者に頼むと高くつくからと、嫁である望登子はなんとか自分で遺品整理をしようとするが、あまりの物の多さに立ちすくむばかり。「安物買いの銭失い」だった姑を恨めしく思いながら、仕方なく片づけを始める。夫も手伝うようになったが、さすが親子、彼も捨てられないタイプで、望登子の負担は増えるばかりであるー。誰もが直面する問題をユーモラスに描いた長編小説。 出典:楽天
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の
『読書ダイアリー』

ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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