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アイネクライネナハトムジーク(伊坂幸太郎 )

あれもこれも繋がっておもしろい

アイネクライネナハトムジーク
伊坂幸太郎(著)
モーツァルトと同名のタイトルに惹かれて読むことにしました。

六作の短編からなっており、それぞれのタイトルは下記の通り。
『アイネクライネ』
『ライトヘビー』
『ドクメンタ』
『ルックスライク』
『メイクアップ』
『ナハトムジーク』
(伊坂幸太郎さん『アイネクライネナハトムジーク』目次より転記)
それぞれのタイトルからは話の内容を全く想像できません。

面白い小説だと良いけど……と、少し不安な気持ちで読み始めましたが、『アイネクライネ』ですっかり物語世界に没頭することができました。

というのも、主人公が職場で遭遇したピンチがわかりすぎるほど理解できたから。
マーケットリサーチの会社に勤めている佐藤は、仕事で犯したミスの罰として、街頭アンケートを取らされている。

勤務時間外に残業手当なしで。しかも実際にミスをしたのは、自分ではなく先輩社員の藤間だというのに。

冷静で仕事ができる藤間だが、ある日突然妻に出て行かれてしまう。

その動揺からか、藤間はコンピューターのサーバー修復作業中に、情緒不安定になり、机を蹴っ飛ばした。

運悪く、机の隣にあった棚が倒れてハードディスは破損。それを見た佐藤は、焦って思わず手を伸ばし、たまたま持っていた缶コーヒーをこぼしてしまう。

不運にも直前にバックアップを取っていたテープ媒体がコーヒーまみれになり、データが消失してしまった。

幸い、金庫に収められたバックアップデータから九割のデータは復元したものの、ペナルティとして佐藤は上司に街頭アンケートを命じられる。

今時そんなアナログで非効率的なデータ収取をしても意味がないように思うのだが……。

元凶の藤間はあれ以来会社を休んだままだ。

佐藤は一人で街頭アンケートをすることになった。街で声をかけてアンケートに答えてもらうのは思った以上に難しい。しかし一人の女性がアンケートに答えてくれた。

彼女はラッキーガールだったのか、そのあとは比較的順調にはかどった。佐藤にとって、彼女は運命の人なのか?
(伊坂幸太郎さん『アイネクライネナハトムジーク』の「アイネクライネ」を私なりに紹介しました)
私が新卒で就職したのは情報処理の会社でした。

2ヶ月の新人研修の後、システムエンジニアリング部に配属。

システム設計やプログラミングに携わったのですが、残業に次ぐ残業で、毎日ヘロヘロでした。

当時私たち新入社員の間に流れたのは「SE(システムエンジニア)35歳寿命説」。

システム開発の進化が早すぎて、35歳になる頃には習得した技術が使い物にならなくなる、という意味だということでしたが、あまりにも残業が続くので、文字通り35歳で死んでしまうのではないかと、冗談半分で言い合っていたのでした。

そんなある日、どこかの会社のシステムエンジニアが過労でノイローゼになり、コンピュータ端末に火をつけてボヤ騒ぎを起こしたという事件が報道されました。

その話が職場で話題になった時、同僚たちは皆言ったものです。

「アホやな。火ィつけるより、水かけたほうがええのに」

コンピュータに火をつけてもなかなか燃えません。

だけど液体をぶっかけたら、かなりマズい事になるというのが当時の常識でした。(今は知りません)

そのニュースが流れて程なくして同期の男子が、大事なデータが入ったフロッピーディスクにホットコーヒーをこぼすという事件を起こしました。

1986年当時のフロッピーディスクは8インチ。ソノシート(昭和世代の人にしかわからないかも)を薄いプラスチック素材で包んだような形をしていました。

そこにマグカップのコーヒーをこぼしたのですから、データは絶対に消失したに違いないと、私を含む周りの同期は青ざめましたよ。

ところが当の本人はいたってポジティブシンキングなやつでして、ジャキジャキッと周りのプラスチック素材をハサミで切り、中のディスク(ソノシートみたいな)を取り出すと、雑巾で拭き始めたではありませんか。

「ちょちょ、ちょっと!そんな乱暴な!」

磁気媒体には手を触れてはいけないと、新人研修で習ったのに、手どころか雑巾でゴシゴシ拭いていいのか?

ますますデータ損失を確信する私たち。

でも本人は慌てず騒がず、それを元に戻してテープで貼り付け、やおらマシンに入れて読み込ませてみたら、あらまぁ不思議、全データが無傷で読み込まれました。

しかしそれは例外中の例外であり、普通は磁気媒体に液体をこぼすなどもってのほか。

テープ媒体に缶コーヒーをこぼすなんて、主人公の佐藤くんは絶対に焦ったはずです。

そりゃ、データ消失するのも無理はなかろうというものです。

もうお分かりかと思うのですが、私はこの佐藤くんと先輩社員の藤間さんのしでかしたことがあまりにもリアルに想像できて、一気に物語に引き込まれてしまったのでした。

『アイネクライネ』の主人公の佐藤くんが街頭アンケートのおかげで運命の人に出会えたように、この本に収められているのは、男女の出会いや恋にまつわる短編です。

それぞれ単独のお話だと思って読んでいたら、伊坂幸太郎さんらしく、登場人物に繋がりが出てきます。

中には二世代にわたって繋がっている話もあり、「ああ、あの話の中では小さかったアナタが、こんなに大きくなったのねぇ」と、感慨深い人も出てきます。

伊坂さんらしいのは、登場人物の関係性だけではなく、名言や面白い言い回しが散りばめられていること。

第三話『ドクメンタ』の中から一つ紹介しましょう。

『ドクメンタ』は第一話に出てきた藤間さんが主人公です。

「さよなら」のメールだけを残して奥さんが出て行ってしまった、あの藤間さんです。

しばらく会社を休んでいた藤間さんが出社してきたとき、飲みに誘ってくれた課長が言うのですよ。
「いいか、藤間、外交そのものだぞ、宗教も歴史も違う、別の国だ、女房なんて。それが一つ屋根の下でやっていくんだから、外交の交渉技術が必要なんだよ。

一つ、毅然とした態度、二つ、相手の顔を立てつつ、三つ、確約はしない。四つ、国土は守る。そういうものだ。

離婚だって、立派な選択だ。共にやっていくことのできない他国とは、距離を置く方がお互いの国民のためだからな」
(伊坂幸太郎さん『アイネクライネナハトムジーク』P98より引用)
思わず声を立てて笑ってしまいました。

そうか、夫婦関係は外交だと思ったらいいのか!

また、面倒なクレーマーを撃退する方法も紹介されていて、実生活で使ってみたくてたまらなくなりました。

さらっと読んでも面白いですが、最初から心して人物名を覚えておくと、あれもこれも繋がってとても面白く読めると思います。
アイネクライネナハトムジーク
伊坂幸太郎(著)
幻冬舎
妻に出て行かれたサラリーマン、声しか知らない相手に恋する美容師、元いじめっ子と再会してしまったOL…。人生は、いつも楽しいことばかりじゃない。でも、運転免許センターで、リビングで、駐輪場で、奇跡は起こる。情けなくも愛おしい登場人物たちが仕掛ける、不器用な駆け引きの数々。明日がきっと楽しくなる、魔法のような連作短編集。 出典:楽天
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

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ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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