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四肢奮迅 (乙武洋匡 )

かわいそうからカッコいいへ

四肢奮迅
乙武洋匡(著)
1998年『五体不満足』で乙武洋匡さんを知った時の衝撃は今でも鮮やかに思い出せます。

表紙から伝わってくる、障害の重さと笑顔の明るさに私の気持ちの中の釣り合いが取れなくて、しばらく本屋さんで表紙を見つめて立ち尽くしました。

もちろん買って、一気に読み終わった後、こんなにも伸びやかに成長できた乙武さんの家庭環境に大きな感銘を受けたのでした。

それから約20年。乙武さんに関する報道はプラスのことだけではなく、マイナスなこともありました。

そんな乙武洋匡さんが義足で歩くことに挑戦している、と知ったのは今年(2019年)1月のこと。

お笑いのキングコング西野さんのオンラインサロン経由で「乙武洋匡の義足プロジェクトを応援したい!」というクラウドファンディングが行われていると知ったのです。

トップページに掲載されている写真を見て鳥肌が立ちました。

初めて見た乙武さんの直立姿勢。

脚だ!乙武さんに脚がある!!

すでにクラウドファンディングは締め切られていますが、ページは閲覧できますので、もし良かったらご覧になってください。⇒【SILKHAT】乙武洋匡の義足プロジェクトを応援したい!

誤解を恐れずに申しましょう。

最新のメカニズムで作られた義足で立つ乙武さんを見て思ったのは

「人造人間キャシャーンみたいや。カッコいい!!」。(すみません、古くって)

この「かっこいい」と言うのは素晴らしいことだと思うのです。

これまで障害をお持ちの方が「私はかわいそうなのではない」「私は障害があるけれど、不幸せではない」と言う意味のことをおっしゃっているのを何度も聞きました。

逆に言うと、障害をお持ちの方の多くが「かわいそうね」と言われたり、思われたりしているということ。

もちろん人間同士、いたわりの気持ちは大事だけれど、「哀れみ」はちょっと違うような気がするのです。

でも義足姿の乙武さんを見た人、特に子どもたちが「カッコいい!」と思うなら、障害をお持ちの方とそうでない人たちの今後が大きく変わる気がします。

お気の毒な人、おかわいそうな人、ではなく、逆に憧れられるくらいの存在になれば。

そういうことで、私は乙武さんの義足歩行応援のクラウドファンディングに即座に参加させてもらいました。

それから半年以上経った11月、乙武さんの『四肢奮迅』が講談社から出版されました。プロジェクトのスタートから、歩行訓練までの経過が書き記されています。

いかがですか、この表紙。『五体不満足』と同様か、それ以上のインパクトではありませんか?

私が「カッコいい!」と思った義足ですが、本当に、技術の粋を集めたもののようです。

実は乙武さんは幼少の頃、義足歩行の訓練もなさったことがあるそうですが、技術的にまだまだな点が多く、何よりも重たくて負担が大きく、好きになれなかったのだそう。

今回のプロジェクトで、乙武さんも技術の進歩に目をみはる思いだったようです。

乙武さんは、自分自身が「歩く」ことよりも、「乙武さんが歩く」ことで、多くの人が希望を持ってくれることに、意義を見出してこのプロジェクトに乗り出しました。

しかし、やり始めてすぐに「歩く」ことの難しさに直面したとのこと。

事故や病気で脚を失い、義足になった人には、歩いた経験があります。

普通はそのイメージを頭に描きながら義足歩行の訓練をするわけです。

しかし、乙武さんはそもそも歩いたことがありません。ですから、感覚がつかめないのです。

それは義手についても同じ。イメージだけではありません。

もともと使用していなかった脚や股関節、腕の付け根部分の筋肉は固く萎縮しており、なかなか思うように動かせません。

乙武さんの感じた痛みやもどかしさ、そして転倒への恐怖などは、想像はしても、本当には理解できないと思いました。

その辛さは、もしかしたら自分のためだけに歩こうとしていたら耐えられないものかもしれません。

自分が頑張ることで、多くの人が元気になるかもしれないと思えばこそ、途中でやめずに続けられたのではないかしら。

そして辛いのは体のリハビリだけではありません。義手や義足での訓練を続けるうちに、両手両足がないが故に、これまで自分にできなかったあれこれが実感されたのだそうです。

それまでは全く意識していなかった「持ち得なかった能力」に気づかされ、ちょっとマイナス思考になりかけたというあたりは、当事者にしかわからない感情だと思いました。

とはいえ、辛い場面ばかりではなく、ふっと笑える場面も。それは足のサイズや身長を乙武さんが「決める」場面。

普通、体のサイズは自分で決められるものではありません。義足だからこそ、自分で決めることができるわけで、乙武さんも思わず声を出して笑ってしまったそうです。

また、義手義足の性能の高さのお話で、驚くようなことが書かれていました。

パラリンピックの選手の中には、残っている自分の足を切って、両方義足にしたいと思う人がいるのだとか。

その方が記録が伸びるかもと思うのですって。それぐらいマシンとしての義足が優れているということなのでしょう。

乙武さんの義足プロジェクトはまだまだ道半ばです。毎日のトレーニングもまだまだ続くはず。

この本を読んで、乙武さんのまさしく「四肢奮迅」の様子に触れると、自分も頑張らなくてはという思いが湧き上がってきます。障害をお持ちの方もそうでない方もぜひ読んでいただきたい。

私は最初に、乙武さんをカッコいいと思う子どもが増えれば、障害をお持ちの方とそうでない人の関係が変わると書きました。

でも、最終的には、殊更にカッコいいとも思わない、「それって普通やん」と思う世界が望ましいと思っています。

どこかで、歩く乙武さんとすれ違った時に、驚くでもなく、褒め称えるでもない普通のトーンで「こんにちは」とあいさつし合えるような世界が。
四肢奮迅
乙武洋匡(著)
講談社
両手両足のない乙武洋匡が歩く!「乙武義足プロジェクト」の全貌ー苦しくて、苦しくて、楽しい。「歩く」とはこんなにも大変なことだったのか。 出典:楽天
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の
『読書ダイアリー』

ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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