メディコ・ペンナ(蓮見恭子)
主人公たちと一緒に神戸を歩く メディコ・ペンナ
万年筆よろず相談 蓮見 恭子(著) 小説を読んでいる時、読者は無意識に主人公の容姿や背格好などを想像していると思います。同様に、小説の舞台になっている街並みもなんとなく想像しているのではないでしょうか。ある意味では、小説家の紡ぎ出す物語に読者がそれぞれ味わいをつけて読んでいることになります。
もし、実際に自分が知っている町が小説の舞台だった場合、想像ではない実際の風景が見えることになり、小説の輪郭がよりはっきりしてくるのではないでしょうか。 蓮見恭子さんの『メディコ・ペンナ』は神戸三宮が舞台。 実際に行ったことがある場所が多く出てくるため、まるで登場人物と一緒に小説の中を歩いているような気持ちで読むことができました。 野並砂羽は実家を離れて神戸の大学に通っている。
砂羽の父は弁護士で、砂羽が法学部を選んだことで、将来は自分の事務所を手伝うと思ったのだろうか、家を出ることに反対せず、家賃も学費も援助してくれている。 ところが砂羽は父の事務所に入るつもりは最初からなかった。法学部を選んだのも法律関係の仕事をしたかったわけではない。自分で何がしたいのか、よくわからないままとにかく実家を出たかったのが本音だ。 そんな曖昧な気持ちでいるからだろうか、就職活動は全くうまく行っていない。20社以上の採用試験を受けたのに、その全てが不採用だった。筆記試験はパスするのだが、いつも面接で失敗してしまうのだ。 周囲の学生たちが次々と内定をもらっているのに、なぜ自分はダメなのだろう。 今日も面接試験を受けたのだが、手応えはなかった。いや、きっと今回も不採用だろうと思う。 そのまま自宅に帰る気にもならず歩きまわるうちに、旧北野小学校まで来てしまった。廃校になった北野小学校の校舎はそのまま観光スポットにリニューアルされていて、今日も何かイベントが行われているようだ。なんとなく入ってみると行われていたのは「神戸ペンフェア」。会場内には文房具を扱う店が出店している。その中で他とは違う雰囲気の出店があり、こんなポップが砂羽の目に飛び込んできた。「あなたの人生が変わります 万年筆よろず相談」。 万年筆で人生が変わるのか? 半信半疑な砂羽だったが… (蓮見恭子さん 『メディコ・ペンナ』の出だしを私なりにご紹介しました) タイトル『メディコ・ペンナ』とはイタリア語で「ペンのお医者さん」という意味。
万年筆のペン先を調整するお店「メディコ・ペンナ」を舞台に、さまざまな人が人生を変えていく物語です。 このブログでも何回か書いたことがあると思いますが、私は大の文房具好き。そして文房具の王様は万年筆だと思っています。 『メディコ・ペンナ』は万年筆のお店のお話。ただ売るだけではなく、そのペンを使う人に最適なペン先に調整するお店ということで、万年筆好きな私に「茶々吉さんにぴったりの小説がありますよ」と教えてくださる方がいて、読んだのでした。 確かに、万年筆好きな人にはたまらない小説です。 小説の中に、万年筆が出てくる、出てくる。 この小説に登場する万年筆を順不同でご紹介してみましょうか。 比較的廉価なものとしては、ペリカン社のペリカーノ、プラチナ万年筆のプレピー、パイロットのkakuno、ラミーのサファリなど。 数万円以上する高価なものとしては、プラチナ万年筆のセンチュリー、ウォーターマンのエドソン、アウロラ社のオプティマ、モンブランのマイスターシュテュック。私が持っている万年筆の中で最も高価なデルタ社のドルチェヴィータが登場した時は嬉しくて思わずパチパチと手を叩いてしまいましたよ。 嬉しいといえば、もう一つ。 主人公が歩く街並みに馴染みがあること。 小説の冒頭で、砂羽が万年筆のよろず相談所に出会う場所「北野工房のまち」(旧北野小学校)は、イベントの司会で伺ったことがあるため、砂羽が見ている景色がリアルにわかり、一気に小説の世界に溶け込むことができました。 その後も、砂羽が歩くトアロード、訪れる書店(ジュンク堂)や文具店(ナガサワ文具センター)など、知っている場所が舞台になるため、嬉しくなってしまうのでした。 砂羽の友人 美海がしゃべる神戸弁も懐かしい。 というわけで、私はとても楽しく読み終えることができましたが、さて、神戸に土地勘がない方や万年筆にさほど興味がない方がこの本を読んだ場合、面白いのかどうかは微妙なところ。 というのも、「あなたの人生がかわります」というキャッチーな言葉ほどには、登場人物それぞれの人生が激変していないような気もするのです。それぞれが抱えていた問題について実際の描写が少なくて、後で別の人物の語りで説明する部分が多いように思いました。 もしかすると万年筆が好きすぎる私だから、次々に紹介される万年筆に気を取られストーリーを追いきれていないだけかもしれませんけども。 私が不完全燃焼な読後感を持つ理由としてもう一つ考えられるのは、主人公砂羽が自分の人生を変えるために行った行為に納得できてないせいかもしれません。砂羽も万年筆を持っているんですが、それを…… 砂羽が万年筆をどうしたかについてはここでは触れませんが、私ならそんなことはしないと思う。自分を変える方法は他にあると思うなぁ。 今書いてきて気がつきました。 私は砂羽のように煮え切らない、ぐずぐずした人が好きではないのだわ。 だから、大好きな万年筆がたくさん登場する小説なのに、最後のところでモヤモヤしちゃったのかもしれません。 とはいえ、読み終わるとすぐに神戸に飛んで行きたい気分になる小説でした。 近々『メディコ・ペンナ』のモデル(?)である万年筆のお店「Pen and message」に行くつもりです。 【パーソナリティ千波留の読書ダイアリー】 この記事とはちょっと違うことをお話ししています。 (アプリのダウンロードが必要です) メディコ・ペンナ
万年筆よろず相談 蓮見 恭子(著) ポプラ社 「あなたの人生が変わります 万年筆よろず相談」そんな看板を掛ける「メディコ・ペンナ」は、神戸の街の一角にある万年筆のお店である。もしゃもしゃした白髪交じりの頭をした店主は、年齢不詳でぶっきらぼうだが、万年筆の補修を任せたら随一。万年筆の状態から持ち主の悩みや苦しみまで読み解き、静かに答えを導いてくれるのだとか。就職活動がうまくいかず、「メディコ・ペンナ」でアルバイトをすることになった大学生の砂羽は、それぞれの悩みを抱えるお客と触れ合う中で、自分自身の人生の迷いにも向き合いはじめー。万年筆に詰まった“人の想い”、が心に沁みる、疲れた背中を押してくれる物語。 出典:楽天 池田 千波留
パーソナリティ・ライター コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。 BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」 ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HP/Amazon
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