夢のつかみ方、挑戦し続ける力(早霧せいな )
夢を持っている人に 夢のつかみ方、挑戦し続ける力
早霧せいな(著) 元雪組トップスター チギちゃんこと早霧せいなさんに惹かれて読みました。『夢のつかみ方、挑戦し続ける力』。
「14歳の世渡り術」は中学生以上大人までを読者層に見立てた河出書房新社の書き下ろしシリーズ。 アニメ、パティシエ、野球など職業に関するものもあれば、文章教室、英語、プログラミングといった学習系、緊急医療や法医学など、中学生には縁遠いのではと思うようなものまで、幅広いジャンルの書き下ろしで、ラインナップを見るだけでも面白いのです。 注目のシリーズにこの夏(2019年)加わったのが、チギちゃんの『夢のつかみ方、挑戦し続ける力』。 宝塚歌劇団という特殊な世界を目指したきっかけ、宝塚音楽学校受験、入団後の悩みや迷い、そしてトップ時代、退団した現在までが語られています。進路に迷っているかもしれない中学生に向けて、丁寧に優しく語っているのが印象的です。 チギちゃんが「宝塚歌劇」の存在を知ったのが、偶然にも14歳の時なのですって。 長崎に住んでいたチギちゃん。まだインターネットが普及していない状態だったので、宝塚歌劇団に入るにはどうすればいいのか、情報収集が難しい上に、相談相手もいないし、両親は宝塚に入れるわけがないと、本気で考えてくれない。 不安だらけのチギちゃんは、未来の自分に手紙を書きました。 「元気に暮らしていますか?」から始まるその手紙には、宝塚に入ってトップスターになりたいこと、でもどうすればその夢が叶うのかわからないこと、だけど、これから調べて頑張ることが綴られています。 まるでアンジェラ・アキさんの歌『手紙 拝啓十五の君へ』みたいですが、チギちゃんの手紙に書かれた日付は、そのリリースより12年も前です。 チギちゃんはその手紙をずっと大切に持っていて、折に触れて読み返していたそうで、本には現物の手紙の写真が掲載されていて、この本のために作ったエピソードでないことがわかります。 私がこの手紙の中で最も気に入った一文を引用しますね。10年後の自分に向かって言っている言葉です。 もし、あなたがまだ宝塚をめざしているか、入っているのなら、自分をほめてください。そして、と中であきらめているか、他の事をしているのなら、あなたはこのことを一生こうかいすると思いますよ。
(早霧せいなさん『夢のつかみ方、挑戦し続ける力』より引用) 未来の自分に「後悔するよ!」と、おどしているのが、可愛らしいではありませんか。
宝塚歌劇をご存知の方なら、音楽学校入学がゴールではなく、そこから厳しい修練が始まることを知っておられますね。 幼い頃からバレエや歌を習っていた同期生と、助け合いつつもライバルとして競り合わねばならないこと。 入団後は、かっこいい男役のダンスシーンに選ばれたい、とか、少しでも台詞のある役が欲しい、とか、新しい夢や目標が生まれ、それに向かって頑張っていったチギちゃんの姿には感動を覚えました。 この本はもしかしたら宝塚歌劇を全く知らないかもしれない中学生が読んでも分かるように、宝塚独特の用語やシステムの説明を交えて書かれています。 逆にいうと、あまりにもマニアックな話は避けている印象です。 このエピソードをもっと深く語って欲しい、と思う箇所も多く、宝塚ファンにはちょっと物足りないかも。 ただ、このシリーズの主眼はそこではないのでしょう。 自分が将来どうなりたいか、何をやりたいか、迷っている中学生の指針になること、そして夢が決まったら、どうモチベーションを保ち続ければいいのか、そういう部分を伝えたいのだと思います。 ちなみに、チギちゃんが14歳で宝塚を知ったきっかけは、通信教育の付録。 タカラジェンヌという職業があることが紹介されていたのですって。 具体的に現役のタカラジェンヌにスポットを当てた記事を読み、「これだ!」と思ったそうです。 その時誌面で紹介されていた現役タカラジェンヌは真矢みきさん。(現在の真矢ミキ。あえて当時の芸名を使わせていただきました) みきちゃんの存在がトップスター「早霧せいな」を産んだのかと思うと、思わず身震いしてしまいました。 チギちゃんはその経験から、自分の発言や行動が、別の誰かの夢を作っているかもしれないと、いつも意識していたそうです。 いやー、さすがチギちゃん! 2018年11月に、ストレッチのともみ先生(立ともみさん)に松竹座『るろうに剣心』に連れて行っていただき、終演後の楽屋でチギちゃんとツーショットを撮っていただいた事を思い出しました。 チギちゃんは本当に感じの良い人でした。ともみ先生も「チギは絶対に人の悪口を言わない」とおっしゃっていましたっけ。 そういう人柄が伝わってくる一冊です。 サブタイトルの「14歳」は気にせず、何歳であっても、夢を持っている人にお勧めします。 池田 千波留
パーソナリティ・ライター コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。 BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」 ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HP/Amazon
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