ノースライト(横山秀夫)
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![]() 家をめぐり様々な人が交錯する ノースライト
横山秀夫(著) 私がパーソナリティを担当している大阪府箕面市のコミュニティFMみのおエフエムの「デイライトタッキー」。その中の「図書館だより」では、箕面市立図書館の司書さんが選んだ本をご紹介しています。
今回ご紹介するのは、横山秀夫さんの『ノースライト』です。 一級建築士の青瀬稔。インテリアプランナーの妻との間に女の子が生まれた。
夫婦揃って驚異的に忙しかったバブル期が過ぎると、一気に仕事が減り、青瀬はリストラされる前に自ら離職してしまう。 自分ほどの腕があれば再就職など簡単にできると思っていたが、すぐにそれが間違いだったとわかる。 仕事が減ったのは妻も同じである。しかも子育て中で、無理に仕事をこなすこともできない。夫婦の心はすれ違い、離婚してしまう。 当時保育園児だった娘は今や13歳。月に一度の面会日に、無邪気を装いながら、父親に配慮しているのがわかる。娘は両親が再び家族になって欲しいと願っているのだ。 青瀬は知人の設計事務所に拾ってもらうことができた。そこでは自分の建築士としてのプライドを捨て、言われるままに図面を作る毎日を過ごしていた。半ば自暴自棄だった。 そんなある時、一軒家の設計建築の依頼を受ける。依頼者は自分の希望を言わない。ただ、青瀬に向かって「あなたの住みたい家を作ってください」としか。 その依頼を受け、青瀬は渾身の設計をし、自分でも満足できる家を建てることができた。しかもその家は『平成すまい100選』に選ばれ、青瀬の代表作となった。 その家を設計したことで誇りを取り戻した矢先、気になることが起こる。 せっかくの新築物件に依頼主が住んでいないようなのだ。そもそも一度も入居していなかったらしい。連絡を取ろうとするが、電話も通じない。 一体何があったのか?!青瀬は、現地に向かう。 (横山秀夫『ノースライト』の出だしを私なりにまとめました) 理想の家、理想のすまいとはどんなものでしょう。
それはきっと、人それぞれに違うことでしょう。 この小説を読んでいると「自分が住みたい家」「理想の家」について考えさせられます。 小説の中で青瀬は、「理想の家」とはその人の現在だけではなく、子供の頃からの思いが込められるものだと考えています。 そして青瀬にとって「理想の家」「住みたい家」の象徴はノースライト、北からの光でした。 青瀬の父親は腕の良い建築職人で、全国のダム建設に携わっていたのです。 家族全員で引っ越すので、青瀬は一つ所に長く住んだことはありません。 ただ、どこの飯場もよく似ていて、いつも、北向きの小さな窓からさす淡い光の中、遊んだり勉強したりしていたのです。 そのせいでしょう。青瀬が施主から「あなたの住みたい家を作ってください」と言われた時、心に浮かんだのは北からの光でした。 でも、普通の住宅は南東からの光を取り入れるのが一番とされており、南側に大きな窓があるのが普通のこと。 だから住宅が密集している地域では、北側に大きな窓を作ることはできません。裏側の家から丸見えになってしまうからです。 しかし、青瀬が依頼を受けた家の建築現場は、信濃追分。他に何も建っていない場所で、北側に大きな窓を作ることが可能です。 しかもその北の窓からは雄大な浅間山が見え、採光だけではなく、景観の観点からも大いに意味があるのでした。 私は子どもの頃から不動産のチラシが大好きでした。とにかく間取り図を見るのが好きなのです。 青瀬が設計した家も、小説の中の架空の家なのに、私には、間取りも外観も実際に見えるような気がしました。 良い家だなぁ、中に入ってみたいなァと。 その家をめぐり、現在と過去、様々な人が交錯します。 心にジンとしみる結末は、同じく横山秀夫さんの『半落ち』がくれた感動を思い出させてくれました。 行方不明になった施主がどこに行ったかの謎解き以上に、人間関係や、人の生き方に感銘を受けます。 ほのかな明るさ、それこそ「ノースライト」を感じさせる結末でした。 ノースライト
横山秀夫(著) 新潮社 一級建築士の青瀬は、信濃追分へ車を走らせていた。望まれて設計した新築の家。施主の一家も、新しい自宅を前に、あんなに喜んでいたのに…。Y邸は無人だった。そこに越してきたはずの家族の姿はなく、電話機以外に家具もない。ただ一つ、浅間山を望むように置かれた「タウトの椅子」を除けば…。このY邸でいったい何が起きたのか? 出典:楽天 ![]() 池田 千波留
パーソナリティ・ライター コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。 BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」 ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HP/Amazon
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