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家をせおって歩く かんぜん版 (村上慧)

あー、早く近所に来て欲しいわぁ

家をせおって歩く かんぜん版
村上慧(著)
私がパーソナリティを担当している大阪府箕面市のコミュニティFMみのおエフエムの「デイライトタッキー」。その中の「図書館だより」では、箕面市立図書館の司書さんが選んだ本をご紹介しています。

今回ご紹介するのは、村上慧さんの『家をせおって歩く かんぜん版』です。

私は「図書館だより」で紹介する本は、必ず自分も読むと決めています。図書館司書さんのコメントを代読するだけのコーナーにしたくないのです。

ですので、図書館司書さんのコメントをいただく前に、まず著者とタイトル名だけをご連絡いただくことが多いです。今回もそうでした。

『家をせおって歩く』とはどういう本なのか。

私はてっきり、”背負う”は比喩で、地元で有名な旧家の”名前を背負って生きていく”話かなと想像していました。

しかし、実際に本を手にし、表紙を見て絶句。

比喩なんかじゃなかった!

この人、本当に家をせおって歩いたんだわ!!

「家」は著者である村上さんのお手製。

材料は、発泡スチロール板、角材、ベニヤ板、布ガムテープ、木工用ボンド、そして模様を描くための油性マジック。材料費は合計2万円ぐらいですって。

家の大きさは奥行き120㎝、幅80㎝、高さ150㎝、失礼ながら人間用の犬小屋を連想してもらったら、良いのではないかと思います。

とはいえ、これは犬小屋ではなく、村上さんの「家」。

鍵がかかる玄関ドア、窓、窓には飾りの施された手すり、表札はもちろん、郵便受けや神棚までしつらえられています。

屋根瓦だってちゃんとあるんですよ。発泡スチロール製のものを瓦と呼んで良いかは迷うけど。

しかし「家」に住むのであれば、最低限の家財道具が必要なはず。

村上さんは45リットルのリュックサックに、寝袋、着替え、洗面道具、文房具、パソコンや携帯電話、預金通帳にお財布など、仕事をしながら生きていくのに必要な道具を詰めて背負い、その上から家をかぶるような形で移動しているのです。

移動手段はほとんどが徒歩。写真で見ると、小さな白い家に足が生えていて、トコトコ歩いているように見えます。

可愛い!

しかし、この家は風にめっぽう弱く、自然の風だけではなく、ダンプカーなどが横を通ったりしても、あおられ、飛びそうになるんですって。

そりゃそうですよね、発泡スチロールなんですもの。しかしその軽さが発泡スチロールの良いところ。断熱性があるのも大切なことなんですって。

村上さんは移動しつつ、夜、この家を置かせてもらえる場所を探します。お寺、ご家庭のガレージや庭先、玄関先、閉店後のカフェの中etc.

2014年4月から2015年3月までの「家を置いたところ」全集ページの写真は面白すぎて、何度もなんども見返してしまいました。

また「家」を置かせてもらうだけではなく、そこでご馳走になることもしばしば。いただいたお料理のページも、地域色が濃くて、面白いです。

大阪市の家庭の、たこ焼き器でアヒージョを作っている写真には思わず笑ってしまいました。たこ焼き器でアヒージョを作るのは、我が家だけじゃなかったんだなぁ。

それにしても、初めて訪ねた町でインタフォン越しに、「家」を置かせてくれませんかと頼むなんて、なかなか勇気が必要なのではないでしょうか。

村上さんはいつも、不安と期待でドキドキするんですって。

そして、断られることもあるけれど、頼めばどの町にも必ず協力者がいるというのが日本が平和な証だなと思いました。

村上さんは、寒い時期は南へ、暑い時期は北へと歩いて、二度も日本一周を果たしているのだとか。

いえいえ、日本にとどまらず、韓国やスウェーデンにも行き、珍しがられたり、親切にしてもらったりしています。

想像してみてください。ある日の夕方、インタフォンが鳴ることを。応対のためにモニターを見て、そこに白い小さな家が写っていたら、と。

我が家では、もし村上さんがやってきた場合、どこに「家」を置いてもらうか、すでに夫婦で話し合って決めました。

あー、日本何周目でも良い、早く近所に来て欲しいわぁ。

この本を読んで、たったこれだけの物と場所で、人間は生きていけるんだと、衝撃を受けました。

なんという身軽な生き方でしょうか。

文字通り、”立って半畳寝て一畳”ではないですか。(実際は奥行きが120㎝しかありませんので、壁の下部に猫用のドアみたいなものが取り付けてあり、寝る時にはそこから足がにゅっと出た状態です。厳密には寝て一畳とは言えないかもしれません)

ところで、この本は児童書だからでしょうか、そもそもなぜ家をせおって歩き始めたのか、どうやって生計を立てているのかが書かれていません。

気になる!!

もしかしたら、村上さんの別のご著書、『家をせおって歩いた』にはちゃんと書かれているのかも。村上さんが我が家にお越しになる前に、読んでおかなくっちゃ。

【追記】
みのおエフエムのスタッフ、野間耕平。拙著『パーソナリティ千波留の読書ダイアリー』の表紙と裏表紙のイラスト(私のアイコン)を描いてくれた人です。

楽器もできる、イラストも、そして回文も日本一という彼は、冬場になるとイグルー(イヌイットの氷の家)を作ったりもします。

著者 村上慧さんと同じニオイがするオトコにこの本を見せたところ大喜び。「うぉー、リアルかたつむり、リアルやどかりだ!」

いつかイグルーとのコラボをお願いしたいとのこと。やって下さいましな、私がツーショット撮りに行きますわ。

野間さんから村上さんの「家」に唯一望むのは「屋根瓦が赤かったら、もっと可愛いのにナァ」やはり目の付け所が違うワ。
家をせおって歩く かんぜん版
村上慧(著)
福音館書店
みなさんは、どんな家に住んでいますか? アパート? マンション? それとも一軒家? アーティストの村上慧さんは、発泡スチロールで作った小さな白い家をせおって歩いて、日本各地を移動しながら生活しています。さらに、このくらしをするために韓国やスウェーデンへも行きました。お風呂はどうするんだろう? トイレは? 食事は? どんな寝心地? 何だか大変そう、でも楽しそうな、小さな家とのくらしを紹介します。 出典:楽天
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の
『読書ダイアリー』

ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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