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美人薄命(深水黎一郎 )

老婆が主体なのに『美人薄命』

美人薄命
深水黎一郎(著)
作家玉岡かおる先生の講演会の常連同士として 仲良くさせていただいているかたから勧めていただいた小説 深水黎一郎さんの『美人薄命』。

面白すぎて、途中で止められず、寝不足に。 しかも、最後は涙、涙。 おいおい泣きながら読みました。
”磯田総司は大学で社会学部人間科学科に在籍している。進級テストであり、卒論の中間報告の意味合いを持つ三年生の学期末レポートでは「老人福祉」を取り上げた。と言っても、本音を言うとさして興味があったわけではない。

連日のようにマスコミで取り上げられているので、手っ取り早く問題提起ができると判断してのこと。

しかし、新聞やネット記事を適当にコピペして作ったレポートがゼミの指導教授に突き返されることは予想外だった。

こんなお粗末なレポートでは卒論テーマとして認められないばかりか、四年生への進級も許せないというのだ。そんなに厳しい教授だとは思ってもいなかった。

一浪して大学に入った総司は、ここで進級できないと二浪扱いとなり、ただでさえ厳しい就職戦線で一層不利になる。

フィールドワークでレポートを充実させ再提出すると約束して、なんとか進級させてもらうことに。

総司がフィールドワークの現場として選んだのは、独居老人に無料で手作りお弁当を配るボランティア団体。週二回、弁当を配達することになった。もちろん無報酬で。

母親に借金して買ったバイクで弁当を配る総司は、さまざまな老人と出会うことになった。

その中の一人、内海カエは84歳。背は曲がり、片方の目は完全に視力を失っているのがわかる。残された目も、もうあまり見えていないようだ。

カエは第二次世界大戦で許婚を亡くしたのだという。その後、大変な苦労をしても耐えてこられたのは、その男性の面影をずっと慕っていたからなのだ。

弁当を届けるたびに、親しくなっていく二人。甘い気持ちで始めたボランティアだったが、カエの話を聞くうちに、総司は変わっていくのだった……” 
(深水黎一郎『美人薄命』の前半を私なりにまとめたました)
私は子どもがいないので、この小説に登場する独居老人はみな、将来の私だと思いながら読みました。

できるなら、私も、カエさんみたいなお婆ちゃんになりたいなァ。自分の流儀を持っていて、ユーモアがあるお婆ちゃんに。

私が今年読んだ小説の中で、ベストかもしれないと思っているフレドリック・バックマン『幸せなひとりぼっち』の主人公、偏屈爺さんオーヴェが東の横綱なら、カエさんは西の横綱です。

ああ、カエさんに会いたい!もう一度会いたい!!

と思ったら、文庫本の解説に、深水黎一郎さんの作品『ジークフリートの剣』の序章にカエさんが登場していると書かれています。

『ジークフリートの剣』の方が先に世に出た作品のようですが、順番なんか関係ないワ。さっそくポチッと注文しました。これでカエさんにもう一度会える。

私は深水黎一郎さんの作品を読むのはこれが初めてでした。この作品は軽いタッチで読みやすいです。

老婆が主体なのに『美人薄命』というタイトルであることや、それぞれの章題「全ての道は老婆に通ず」「老婆は一日にしてならず」などに思わず笑ってしまうことでしょう。

でも内容は戦争(特に特攻)、老人福祉問題、ボランティアなどとても奥深いです。

難しいこと、深刻なことを、小難しく書くことはもしかしたら簡単なことではないでしょうか。でも難しい文章で書かれていたら、せっかくの問題提起がどれほどの人に届くでしょうか。

この小説なら、多くの人の心に届くことは間違いないと思います。何よりこんなにも愛おしく、慕わしい登場人物を生み出した深水さんを心から尊敬します。

『美人薄命』を読むと、全ての人の人生に意味があると思えます。涙しながらも読後感の明るい小説として、おおいにお勧めします!!私にこの本を紹介してくれた方に、感謝!

さて。もしこの本をこれからお読みになる方で、小説の後半について、少しも知りたくないとおっしゃるかたは、ここから先を読まないようになさってください。よろしくお願いします。

私はこの小説を恋愛小説だと思って読みましたが、文庫本の裏表紙には「長編純愛ミステリー」と書かれていました。

実際に、2014年の「このミステリーがすごい」では12位になっています。つまり「意外な結末」があるわけです。

小説は、総司を主体とした部分と、旧字体で書かれたカエの半生の部分で構成されています。カエの人生の、なんと薄幸なことか。ああ、つらい。読むのがつらい!

ところが、しばらく読んでいるうちに私の中でなんとも言えない違和感が生まれて来ました。

読むのが辛くなるほどの半生を送ってきたはずの「カエ」と総司との会話からにじみ出るカエお婆ちゃんのイメージが一致しないんです。

これ、本当に同じ人なのかなぁ?どんな体験をしたら、こんなに人格が変わるんだろう?そんな疑問を抱きながら読み進めました。

大きなネタバレになりますが、カエお婆ちゃんは亡くなります。亡くなった後でわかる、あんなことやこんなこと。ああ、そういうことだったのか!だから印象が違っていたのね。

ちょっと不思議なところがあり、ユーモアのセンスもあるカエさんが、本当のカエさんだったんだ!大泣きしながら、私はますますカエさんが好きになりましたよ。

ということで、順番が逆だけど、もう一度カエさんに会うために『ジークフリートの剣』を読みます!
美人薄命
深水黎一郎(著)/ 双葉文庫
孤独に暮らす老婆と出会った、大学生の総司。家族を失い、片方の目の視力を失い、貧しい生活を送る老婆は、将来を約束していた人と死に別れる前日のことを語り始める。残酷な運命によって引き裂かれた男との話には、総司の人生をも変える、ある秘密が隠されていた。切なさ溢れる衝撃の結末が待ち受ける、長編ミステリー。 出典:楽天

池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の『読書ダイアリー』
ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon



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