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ソクラテスの弁明(ブラトン)

周囲に迎合しない、孤高の生き方に憧れる。

ソクラテスの弁明
ブラトン (著)
なぜ、音楽に惹きつけられるのか?

そこに何があるんだろうか?

そう問い続けるうち、古代ギリシャに起源をもつ、“リベラルアーツ”に辿り着きました。

リベラルアーツには7つの科目があるのですが、そこに音楽が含まれています。

関連する書物の中で、古代ギリシャの哲学者ソクラテスの言葉に出合い、衝撃を受けました。

『音楽だけが、魂の内奥にまでも入り込み、優雅さを授け、心を引き締め、正しい魂の在り方へ導いてくれる―あらゆる芸術の中で、音楽こそが最上級のものである』

確か、こんな文章だったように思います。

音楽に強く魅かれる理由が腹に落ちたようでした。

そんなことがあって、ソクラテスに興味を持ったのです。

「ソクラテスの弁明」は、誤った教えを民に説いたとされ、裁判にかかり、死刑宣告を受けたソクラテスが自分の行いについて弁明する、と言った内容です。

もちろん濡れ衣を着せられたのですが、死刑を恐れないソクラテスはその理由について、こう語ります。

(本文よりP.42)
死を恐れるのは、自ら賢ならずして賢人を気取ることに外ならないからである。

しかもそれは自ら知らざることを知れりと信ずることなのである。

思うに、死とは人間にとって福の最上なるものではないかどうか、何人も知っているものはないしかるに人はそれが悪の最大なるものであることを確知しているかのようにこれを怖れるのである。

しかもこれこそまことにかの悪評高き無知、すなわち自ら知らざることを知れりと信ずることではないのか。
死は恐れるものではない。

死刑を宣告されようとも、自分は言うべきことを言う。

これがソクラテスの生き方です。

生死を分ける重大な局面においても、平静を保ち、はっきりと考えを伝える。

支えとなるのは、自らが考え続ける哲学だったのかもしれません。

シェイクスピアの“リア王”に登場する、王の末娘コーデリアと重なります。

財産欲しさに、偽りの忠誠心を並べる長女と次女、真実を告げたコーデリアは、王の怒りを買い、勘当されてしまう…。

しかし後に王は、コーデリアを通して覚醒していくのです。


覚醒と聞いて鮮やかに浮かぶ音楽があります。

ベートーヴェンのピアノ三重奏曲「幽霊」作品70‐1です。

幽霊という題に驚くかもしれませんが、シェイクスピアの“マクベス”から着想を得た、と言われるのが興味深いところです。

一楽章冒頭、鮮やかに弾けるパッセージは、ベートーヴェンが「目を覚ませ!もっと本質を見ろ!」と、大声で呼び掛けているようです。

それまでの貴族中心社会から一般市民へと開かれていく時代、音楽の在り方も、大きく変化を遂げました。

王侯貴族のためではなく、もっと身近な、市民による市民のための音楽。

ベートーヴェンの自己表現は革新的でした。

物申す時、波紋が広がるのは当たり前。

それを怖れずに突き進むベートーヴェンに、ソクラテスの姿が重なります。

周囲に迎合しない。

孤高の生き方に憧れます。
ベートーヴェンのピアノ三重奏曲「幽霊」
ボザール・トリオ
ソクラテスの弁明
ブラトン (著)
岩波書店
自己の所信を力強く表明する法廷のソクラテスを描いた「ソクラテスの弁明」、不正な死刑の宣告を受けた後、国法を守って平静に死を迎えようとするソクラテスと、脱獄を勧める老友クリトンとの対話よりなる「クリトン」。ともにプラトン(前427‐347年)初期の作であるが、芸術的にも完璧に近い筆致をもって師ソクラテスの偉大な姿を我々に伝えている。 出典:amazon

植木 美帆
チェリスト

兵庫県出身。チェリスト。大阪音楽大学音楽学部卒業。同大学教育助手を経てドイツ、ミュンヘンに留学。帰国後は演奏活動と共に、大阪音楽大学音楽院の講師として後進の指導にあたっている。「クラシックをより身近に!」との思いより、自らの言葉で語りかけるコンサートは多くの反響を呼んでいる。
HP:http://www.mihoueki.com
BLOG:http://ameblo.jp/uekimiho/
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