アウシュヴィッツの図書係
アントニオ・G.イトゥルベ作者名(著)
出版社:集英社(2016)【内容情報】(「BOOK」データベースより)アウシュヴィッツ強制収容所に、囚人たちによってひっそりと作られた“学校”。ここには8冊だけの秘密の“図書館”がある。その図書係に指名されたのは14歳の少女ディタ。本の所持が禁じられているなか、少女は命の危険も顧みず、服の下に本を隠し持つ。収容所という地獄にあって、ディタは屈することなく、生きる意欲、読書する意欲を失わない。その懸命な姿を通じて、本が与えてくれる“生きる力”をもう一度信じたくなる、感涙必至の大作!(出典:楽天) |
この夏、第二次世界大戦中の
ユダヤ人迫害について描かれた自伝的小説
エリ・ヴィーゼルの『夜』を読んだとき、
合わせて読まなくてはと思っていた
『アウシュビッツの図書係』を
ようやく読むことができました。
『夜』の主人公が少年だったのと反対に、
『アウシュビッツの図書係』の主人公は少女です。
***
1944年のアウシュビッツ・ビルケナウ強制収容所には
ナチス将校たちが知らない「学校」があった…。
ビルケナウ収容所には、
ユダヤ人迫害の事実を隠蔽するため、
特別な区域「家族収容所」が作られていた。
国際機関が査察に来た場合、見せるためのものだ。
通常、労働力にならない子どもは
早々にガス室送りなので、
収容所に多くの子どもがいるのは極めて珍しいことだった。
しかし、その特別区でさえ、
入所の際、所持品が没収されるため、
普通の生活なら当然あるべきものがほとんどない。
特に禁じられているのは書籍だが、
ここでのリーダー アルフレート・ヒルシュは、
苦心の末、8冊の本を入手していた。
『世界地図』や『モンテ・クリスト伯』、
パスツールを描いた『微生物の狩人』など
まちまちな分野の本。
それらをテキストに、それぞれ知識のある大人が、授業をしていた。
また、本がなくても、自分が覚えている物語を
語って聞かせる「生きる本」ともいえる人もいた。
それがビルケナウ強制収容所の中の「学校」だった。
自分たちの故郷で幸せに暮らしていた頃、
好んで本を読んでいなかった子どもたちも、
ビルケナウに来てからは本が大好きになった。
また、勉強なんて嫌いだった子どもたちも、
ここビルケナウでは一生懸命に学んでいた。
本や勉強は、たとえひとときでも
現実の厳しさを忘れさせてくれるから。
世界の地理や生物の授業、語られる物語を聞いているうちは、
想像力を飛ばして、どこにでも行けるから。
チェコ出身のユダヤ人少女エディタ、
通称ディタは本が大好きだった。
だからこの「学校」で、1日の終わりに大切な本を回収し、
床下に隠す任務の図書係を買って出た。
二度と入手できないであろう大切な本たちは、
すでにボロボロな状態。
それをなんとか修繕するのもディタの仕事だ。
しかし、気まぐれに行われるSSたちの検閲があり、
本を持っているところを見つかれば、
間違いなく処刑されるであろう、
命がけの仕事でもあった。
まだ14歳のディタにとって容易ではない仕事だったが、
彼女は決して役目を投げ出そうとはしない。
なぜなら「図書館は今や薬箱」だから。
そして
「もう二度と笑えないと思ったときに、
ディタに笑いを取り戻させてくれたシロップを、
ちょっぴり子どもたちの口に入れて」あげたかったから。
(かっこ部分は本文 P280より引用)
***
この小説は、1929年プラハ生まれのユダヤ人女性
ディタ・クラウスの実話をもとにして書かれています。
ディタとともに収容所で過ごした人物については、
仮名に変えているものもあります。
一方、ルドルフ・ヘス、アドルフ・アイヒマン、
ハンス・シュヴァルツフーバー、ヨーゼフ・メンゲレなど、
アウシュビッツに勤務していたナチスのSSたちは実名で、
その行いも非常に具体的に書かれています。
読んでいて息が詰まりそうになる箇所も多々あり。
しかし、ディタが物語の世界に羽を広げてくれるおかげで、
読者もなんとか救われて、次のページに進めるのです。
平和な現代日本においても、
読書は、現実から離れしばし夢を(悪い夢の場合もあるけれど)
見るひとときをくれます。
ましてや、文字通り地獄のような生活の中では、
どれほどの力をくれたことでしょう。
ディタは過酷な収容所内でなんとか生き延び、
やはりアウシュビッツから生還した青年と結婚し、
80過ぎるまで生き、子や孫にも恵まれました。
だからこそ、後世の人間が、
かつてあったこの世の地獄を知ることができるのです。
また、そこから学ぶことができるのです。
もちろんディタの向こう側には、
生きたくても生きることができなかった、
多くの魂があることも忘れてはならないのだと、
『アウシュビッツの図書係』は教えてくれるのでした。
ちなみに、先に読んだ『夜』と『アウシュビッツの図書係』は
同じ境遇を描きながらも、
読者に与える重苦しさ、暗さが全然違います。
『アウシュビッツの図書係』は、
時々クスッと笑ってしまう箇所があるんです。
多分それは、主人公ディタの性格によるものだと思います。
もしどちらか一冊を…とおっしゃるなら、
『アウシュビッツの図書係』を読まれる方が、
精神的に苦しくないと思います。
おせっかいですが、ひとこと添えさせていただきました。 |
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター
コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、
ナレーション、アナウンス、 そしてライターと、
さまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
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著書:パーソナリティ千波留の読書ダイアリー
ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。
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