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英雄三国志〈4〉出師の表(柴田錬三郎)

『三国志』の面白さはこの軍師の存在にある

英雄三国志〈4〉出師の表
柴田 錬三郎 (著)
「軍師」をご存知ですか?

戦国時代などに将軍を補佐する役として登場しますね。

どうやって戦えば勝てるか。

表舞台に登場する時もあれば、裏方に徹する時もある。

実は『三国志』の面白さは、この軍師の存在にあると思っています。

前回のコラムに登場した曹操(そうそう)、前々回の劉備(りゅうび)。

二人はそれぞれ「魏」、「蜀」の国を治めていきますが、天下を取るために知恵を授けてくれる先生=軍師を重んじました。

今回は劉備の軍師、諸葛亮孔明(しょかつりょうこうめい、以下孔明と記す)についてお話ししたいと思います。

孔明は猛々しい男たちとは少し違います。

一言でいうと、頭脳派。

膨大な知識を素に抜群の軍師力を発揮します。

神秘的な美しさと品格を備えた堂々たる姿。

11歳で父親を亡くし、放浪の旅に出た孔明は大陸を歩いて風土を知り、殺りくや飢餓をくぐり抜けました。

さて話は戻って劉備に仕えることになった孔明ですが、最大の敵である曹操をどう攻略するか?

それには隣国の孫権(そんけん)を取り込み、対決させて利を取るしかありません。

丁度その頃、孫権は悩んでいました。

曹操軍と戦うのか、あるいは降服するのか。

そこへ孔明が現れ、孫権の心を巧みに操るのです…!

(本文より)
(孫権)「曹操に呑併(どんへい)の意がある上は…これと、戦うべきか?和平をもとむべきか?」…

「この孔明には、はばかりなく申し上げたい一言がありますが、おそらく、申し上げても、将軍は、おきき入れなさいますまい」

「きこう!」孫権は、大きく目をみはって、孔明の顔を食い入るようにみつめた。

「では、申し上げます。…ねがわくは、力を合わせて、呉越(ごえつ)の衆を以て、曹操に当り、これと戦って頂きとう存じます。しかし、その勇気と決断力をお持ちなくんば…曹操におつかえなさるのが上策と存じます」…

孔明は、さらに語を継いだ。

「いま、将軍には、降服の屈辱に堪えられず、とはいえ、決戦にのぞむ決意もさだまらず、むなしく、これらの衆謀士に疑惑の目を向けて、日を重ねて居られるならば、禍(わざわい)は、明日にも起りましょう」

「軍師!足下の言が正しければ、劉予州(りゅうよしゅう)は、なぜに、曹操に降らないのか?」

…「劉備玄徳は、王室の裔(すえ)、英才は一世にぬきん出て、その在るところ、民はこれを慕うて居りますが、事の成らざるは、天運がまださきにあるからであります。いずくんぞ、身を屈して、人の下に膝を折りましょうや!」
自分の弱さをズバリ指摘され、激しい激情を抑えることができない孫権。

すぐにその場を立ち去ってしまいます。

しかし、これも孔明の計算なのです。

孫権の周囲からは

「なぜ、君主の気持ちを逆なでするようなことを言うのか!?」

と責められますが、孔明は表情を変えずにこう言います。

「孫権は心が狭い…。曹操を破る作戦があるのに、それを聞いてこなかった。だから話さなかっただけです」

側近は慌てて孫権の元へ走ります。

気を取り直して再び孔明の話を聞く孫権。

そして最後にこう言うのです。

(本文より)
「…軍師!余の肚(はら)は、きまった。…教えて欲しい。どうして、この大難をきり抜けたらよいか、乞う――どうか、教示して欲しい!」

孫権は、ふかぶかと頭を下げた。
どうでしょう!

ここは私の好きなシーンで、「軍師」ってこんな役割なんだ、ということがよく分かりました。

平安の世をつくるため、生涯を懸けて力を尽くした孔明。

社会に貢献し続ける姿に、「私もこうありたい」と強く感じます。

さて、そんな孔明の思いに重なる音楽があります。

カタロニア民謡、「鳥の歌」です。

この曲は20世紀最大のチェリスト、パブロ・カザルス(1876-1973)によって演奏されました。

チェロという楽器の可能性を引き出し、バッハの無伴奏チェロ組曲を世に蘇らせた、チェリストにとっては神のような存在です。

スペイン人のカザルスにとって「鳥の歌」はふるさとの歌。

この曲の演奏前、彼はこう言ったそうです。

『生まれ故郷の民謡を弾かせてもらいます。鳥の歌という曲です。カタロニアの小鳥たちは、青い空に飛び上がると、ピース、ピース(平和、平和)といって鳴くのです。』

孔明、カザルス、そして現代を生きる私たちも、平和を願う気持ちに変わりはありません。

二人からのメッセージを胸に生きていきたい、そう思っています。
鳥の歌
-ホワイトハウス・コンサートbr> Original recording remastered
パブロ・カザルス(アーティスト)
英雄三国志〈4〉出師の表
柴田 錬三郎 (著)
集英社 (2004)
蜀に刃向かう南の孟獲に対し、孔明は連戦連勝を続けた。孟獲は七度捕えられ、七度釈放されて平伏し、蜀への永遠の服従を誓った。南の平定に成功したものの胸を病んだ孔明は、余命いくばくもない。劉備逝き、関羽、張飛亡き今、乾坤一擲、魏討伐を決意する。孔明は皇帝劉禅に「出師の表」を献じるが、その内容は忠義心あふれるものだった。蜀の命運を賭けた戦いが始まる。 出典:amazon
profile
植木 美帆
チェリスト

兵庫県出身。チェリスト。大阪音楽大学音楽学部卒業。同大学教育助手を経てドイツ、ミュンヘンに留学。帰国後は演奏活動と共に、大阪音楽大学音楽院の講師として後進の指導にあたっている。「クラシックをより身近に!」との思いより、自らの言葉で語りかけるコンサートは多くの反響を呼んでいる。
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