HOME  Book一覧 前のページへ戻る

まほろ駅前多田便利軒(三浦しをん)



 
まほろ駅前多田便利軒
三浦 しをん (著)
出版社:文藝春秋(2012)【内容情報】(「BOOK」データベースより)東京都南西部最大の町・まほろ市の駅前で便利屋を営む多田と、高校時代の同級生・行天。汚部屋清掃、老人の見舞い、庭掃除に遺品整理、子守も料理も承ります―。多田・行天の物語とともに、前作でお馴染みの星、曽根田のばあちゃん、由良、岡老人の細君が主人公となるスピンアウトストーリー七編を収録。(出典:amazon
三浦しをんの作品を読むのは
「風が強く吹いている」 「神去なあなあ日常」に続いて3度目。
読み始めたときは、短編の連作形式だし、登場人物のトボケ加減などから、
先に読んだ2作より軽い作品だと思いました。

読み終わってみたら、いやいや軽いどころか。
思わず正座しそうになる 深いものを含んでいました。
文章はさらっとしていて、気持ちがよく、全然重苦しくはないのに。
そのさじ加減、バランスのとり方、さすがに第135回直木賞受賞作。

ではあらすじを。
***
まほろ市は東京のはずれに位置する東京都南西部最大の町。
駅前で便利屋を営んでいるのが多田啓介。
そこに、高校時代の同級生、行くあてもない行天春彦が転がり込む。

便利屋の仕事は多種多様。
養護老人ホームに入っている老婆の息子に依頼されての
「お見舞い代行」。
旅行に出かける飼い主から依頼されたチワワ預かり。
小学生の塾の送迎。
納屋の整理…

一見ありふれた依頼のはずが、警察まで絡んでくるのはなぜ?!
多田・行天コンビが 危なっかしくも問題を解決していく…
***

まほろ市…
変わった名前の市だなぁ、と調べてみたのですが架空の市でした。
が、土地勘のある人であればすぐに「ああ、あそこか」とわかる、
モデルになった土地があるみたいです。
残念ながら関西人の私にはわかりませんが。

そして行天。
こちらも変わった苗字ですが、山崎豊子「沈まぬ太陽」も
行天くんでした。
もしかしたら関東にはよくある名前なんでしょうか?

読み始めてすぐには まずそんなところが気になりました。

さて、ここからはネタバレの危険大です。
これからこの本を読もうと思っていらっしゃるかたは、
ここで読むのをやめてくださいね。

この作品の面白さは、便利屋に仕事を依頼してくる人たちが
抱えている問題の意外な根の深さ、闇の展開です。
短編全部に言及するときりがないので、
「三 働く車は、満身創痍」について。
この章では、小学生の男の子を塾に通わせている母親から、
送迎を依頼されます。
最初は「教育ママゴン」からの依頼だと思っていたら、
その逆、母親は子どもに関心がないことがわかってきます。
子ども自身も、そのことをはっきりわかっていて、いたって平静。
でも母の関心をかいたかったのか、ちょっとした冒険心からか
とんでもない「仕事」を引き受け、抜き差しならない状況へと
追い込まれていきます。
それこそ命が危ないような。
多田・行天コンビがその問題を解決しますが、その事件がきっかけで
親は子どもの大切さを知り、子へ愛情をそそぐようになる…

というような、読者がほっとするような結末を、著者は用意していません。
事件が解決し、小学生の日常が戻ってきても、親の、子どもへの無関心は変わらず。
そもそも、そんな重大な危機が子どもに迫っていたことすら気が付いていないのかも。
両親が、子どもが望む形で愛してくれることは今後もないであろう、
とまで淡々と書き込んであります。
ところが、こう締めくくるのです。

「だけど、まだだれかを愛するチャンスはある。与えられなかったものを、
今度はちゃんと望んだ形で、おまえは新しくだれかに与えることができるんだ。
そのチャンスは残されてる」

なんだか涙がでそうな言葉です。

そして読み進むにつれて、多田も行天も 喪失感を抱えながら
生きていることがわかります。
彼らが何を失ったのか、何を持っているのか、チラチラと
垣間見せながら最終章まで。
そして最後に…

「今度こそ多田は、はっきりと言うことができる。幸福は再生する、と。
形を変え、さまざまな姿で、それを求めるひとたちのところへ何度でも、
そっと訪れてくるのだ」

途中胸につまる部分もありますが、最後に希望の光が見える、そんな作品です。

池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、
ナレーション、アナウンス、 そしてライターと、
さまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BLOG ⇒PROページ

著書:パーソナリティ千波留の読書ダイアリー
ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。
だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。

「千波留の本棚」50冊を機に出版された千波留さんの本。
『私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。』購入サイトはこちらAmazonでも購入できます


OtherBook

千波留の本棚

尼崎城がますます身近に

殿、恐れながらブラックでござる(谷口雅美)

千波留の本棚

泣いて笑って共感できる

ポンコツ一家(にしおかすみこ)

千波留の本棚

ノーストレスの人生を

ストレスゼロの生き方( Testosterone)




@kansaiwoman

参加者募集中
イベント&セミナー一覧
関西ウーマンたちの
コラム一覧
BookReview
千波留の本棚
チェリスト植木美帆の
[心に響く本]
橋本信子先生の
[おすすめの一冊]
絵本専門士 谷津いくこの
[大人も楽しめる洋書の絵本]
小さな絵本屋さんRiRE
[女性におすすめの絵本]
手紙を書こう!
『おてがみぃと』
本好きトークの会
『ブックカフェ』
絵本好きトークの会
『絵本カフェ』
手紙の小箱
海外暮らしの関西ウーマン(メキシコ)
海外暮らしの関西ウーマン(台湾)
海外暮らしの関西ウーマン(イタリア)
関西の企業で働く
「キャリア女性インタビュー」
関西ウーマンインタビュー
(社会事業家編)
関西ウーマンインタビュー
(ドクター編)
関西ウーマンインタビュー
(女性経営者編)
関西ウーマンインタビュー
(アカデミック編)
関西ウーマンインタビュー
(女性士業編)
関西ウーマンインタビュー
(農業編)
関西ウーマンインタビュー
(アーティスト編)
関西ウーマンインタビュー
(美術・芸術編)
関西ウーマンインタビュー
(ものづくり職人編)
関西ウーマンインタビュー
(クリエイター編)
関西ウーマンインタビュー
(女性起業家編)
関西ウーマンインタビュー
(作家編)
関西ウーマンインタビュー
(リトルプレス発行人編)
関西ウーマンインタビュー
(寺社仏閣編)
関西ウーマンインタビュー
(スポーツ編)
関西ウーマンインタビュー
(学芸員編)
先輩ウーマンインタビュー
お教室&レッスン
先生インタビュー
「私のサロン」
オーナーインタビュー
「私のお店」
オーナーインタビュー
なかむらのり子の
関西の舞台芸術を彩る女性たち
なかむらのり子の
関西マスコミ・広報女史インタビュー
中村純の出会った
関西出版界に生きる女性たち
中島未月の
関西・祈りをめぐる物語
まえだ真悠子の
関西のウェディング業界で輝く女性たち
シネマカフェ
知りたかった健康のお話
『こころカラダ茶論』
取材&執筆にチャレンジ
「わたし企画」募集
関西女性のブログ
最新記事一覧
instagram
facebook
関西ウーマン
PRO検索

■ご利用ガイド




HOME