HOME  Book一覧 前のページへ戻る

ニサッタ、ニサッタ(乃南アサ)

ニサッタ、ニサッタ
乃南 アサ 名(著)
出版社:講談社(2009)【内容情報】(「BOOK」データベースより)最初の会社を勢いで辞め、二番目の会社が突然倒産し、派遣先をたて続けにしくじったときでも、住む場所さえなくすことになるなんて、思ってもみなかった。ネットカフェで夜を過ごすいま、日雇いの賃金では、敷金・礼金の三十万円が、どうしても貯められない。失敗を許さない現代社会でいったん失った「明日」をもう一度取り返すまでの物語。(出典:amazon
出版されたのは2009年10月。
書店に積まれているのを見て「変わったタイトルだなぁ」と
思っていました。
ニサッタって、なによ、と。
声に出して「ニサッタ、ニサッタ」と言ってみると
何となく自分が相撲の行司さんになった気分。
とりあえず、図書館に予約。
かなり待って順番が回ってきました。

ニサッタ。
表紙をめくると、書いてありました。意味が。
アイヌ語で「明日」という意味だそうです。

ではあらすじを。
***
主人公は片貝耕平、24歳。北海道の高校卒業後、東京へ。
大学を卒業して入社した会社を、つまらないことで簡単に
辞めてしまい、再就職した会社は、社長の夜逃げで倒産…。
そこから耕平の苦難が始まる。
不景気な時代に正社員としての就職が難しく、派遣会社に
登録するものの、プライドが高く怠け癖もあるため、
どの派遣先でも長続きしない。
耕平自身が悪い面もあるけれど、ここ一番頑張ろうと
思った時に限って、とてつもなくついていないのだ。

消費者金融に手を出し、借金返済のため行き着いたのは、
住み込みで働く新聞販売店。
そこで地道に働いて、借金も返済、やっとこれから…
というときに又もや運命のいたずらで…。
耕平はついに東京生活をあきらめて、北海道の実家に帰る。
父親が女性を作って出て行ってしまった実家に残っているのは、
年老いた祖母と母と姉。
そこで耕平は再生できるのか…??
****

ここから先、ちょっとネタバレあるかも。
読む前に絶対終末を知りたくないかたは、
ここでストップしてください。

「ニサッタ、ニサッタ」はかなりの長篇です。
その大半は、耕平の転落人生。
ディテールにいたるまで みっちりと書き込まれています。
最初は「アータ、もうちょっと足もとを見てしっかり生きなさいよ!」と
耕平に呆れながら読んでいるのですが、だんだんと気の毒になってきます。
あまりにもタイミングが悪くて。

耕平の身に次から次へとふりかかる問題の数々。
ヘタをすると、そんなに次々起こるわけない、と
小説世界がうそ臭くなりそうです。
が、「ありえるかも」と思わせられるのは、乃南アサの
しっかりとした取材と筆力によると思います。
今の日本、一歩間違えたら私だって耕平みたいに転落する可能性もあるだとう
と薄ら寒い気持ちにもなりました。
乃南アサはミステリ作家として地位を確立していますが、
この小説は社会小説で、その分野でも立派に書いていけるのだということが
わかります。

就職難、ネットカフェ難民、消費者金融の問題、労働環境問題だけでなく、
先住民問題、沖縄の問題などなど、現代社会をこれでもかと書き込んでいます。
ただそれを問題提起の形ではなく、耕平をはじめとする登場人物たちのなかに
織り込んでいるのがすばらしい。

見通しが甘く結局いつも失敗をしてしまう耕平。
物語終盤でやっと、ささやかながら明るい未来が見えたとき、
またしても自業自得な大きな落とし穴が。
これは救いのない話なのか、とやりきれなくなったときに、
耕平のおばあちゃんが耕平に語りかけます。

「明日のことなんか、誰にも分かりっこねえもんだ。
いっくら考えたって、どうなるもんでもねぇ。
だからなあ、もうこわくてたまらんと思うときはねえ、
まずは今日やることだけ考えてりゃあ、いい」
(乃南アサ「ニサッタ、ニサッタ」より)

今日があるから明日がある、今日だけ、今日だけと頑張れば
自然と明日がやってくる、
その繰り返しの先に希望がある…。

最後はちゃんと救われました。

お勧め度は★★★★☆

私の中では、一つだけ「この問題を入れたのは欲張りすぎじゃないかな、
この小説にどうしても必要だったのかな」と疑問に思うことがあるので、
☆ひとつだけ減らしました。

池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、
ナレーション、アナウンス、 そしてライターと、
さまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BLOG ⇒PROページ

著書:パーソナリティ千波留の読書ダイアリー
ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。
だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。

「千波留の本棚」50冊を機に出版された千波留さんの本。
『私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。』購入サイトはこちらAmazonでも購入できます


OtherBook

千波留の本棚

芸の道とは、なんと厳しく果てのないも…

国宝(吉田修一)

千波留の本棚

とぼけたわんこに癒される

迷犬マジック(山本甲士)

千波留の本棚

本当のことをわかってもらえない悲しさ

ヨーレのクマー( 宮部みゆき)




@kansaiwoman

参加者募集中
イベント&セミナー一覧
関西ウーマンたちの
コラム一覧
BookReview
千波留の本棚
チェリスト植木美帆の
[心に響く本]
橋本信子先生の
[おすすめの一冊]
絵本専門士 谷津いくこの
[大人も楽しめる洋書の絵本]
小さな絵本屋さんRiRE
[女性におすすめの絵本]
手紙を書こう!
『おてがみぃと』
本好きトークの会
『ブックカフェ』
絵本好きトークの会
『絵本カフェ』
手紙の小箱
海外暮らしの関西ウーマン(メキシコ)
海外暮らしの関西ウーマン(台湾)
海外暮らしの関西ウーマン(イタリア)
関西の企業で働く
「キャリア女性インタビュー」
関西ウーマンインタビュー
(社会事業家編)
関西ウーマンインタビュー
(ドクター編)
関西ウーマンインタビュー
(女性経営者編)
関西ウーマンインタビュー
(アカデミック編)
関西ウーマンインタビュー
(女性士業編)
関西ウーマンインタビュー
(農業編)
関西ウーマンインタビュー
(アーティスト編)
関西ウーマンインタビュー
(美術・芸術編)
関西ウーマンインタビュー
(ものづくり職人編)
関西ウーマンインタビュー
(クリエイター編)
関西ウーマンインタビュー
(女性起業家編)
関西ウーマンインタビュー
(作家編)
関西ウーマンインタビュー
(リトルプレス発行人編)
関西ウーマンインタビュー
(寺社仏閣編)
関西ウーマンインタビュー
(スポーツ編)
関西ウーマンインタビュー
(学芸員編)
先輩ウーマンインタビュー
お教室&レッスン
先生インタビュー
「私のサロン」
オーナーインタビュー
「私のお店」
オーナーインタビュー
なかむらのり子の
関西の舞台芸術を彩る女性たち
なかむらのり子の
関西マスコミ・広報女史インタビュー
中村純の出会った
関西出版界に生きる女性たち
中島未月の
関西・祈りをめぐる物語
まえだ真悠子の
関西のウェディング業界で輝く女性たち
シネマカフェ
知りたかった健康のお話
『こころカラダ茶論』
取材&執筆にチャレンジ
「わたし企画」募集
関西女性のブログ
最新記事一覧
instagram
facebook
関西ウーマン
PRO検索

■ご利用ガイド




HOME