保育園義務教育化(古市憲寿)
今の日本はあまりに母親だけに育児の責任を負わせすぎている 保育園義務教育化
古市 憲寿(著) ちょっと過激なタイトルだと思う人もあるでしょう。が、ぜひ手に取ってみてください。
テレビでも活躍中の若手社会学者、古市憲寿さんの最新刊です。社会全体で子どもたちを支え、子どもたちみんなが良い環境で良い教育を受けられるようにしましょうと提言する痛快な本です。 タイトルはあえてキャッチーに、挑発的にしてあります。でも「保育園vs.幼稚園」だとか「兼業主婦vs.専業主婦」といった枠で論じているわけではありません。0歳から保育園に預けなさいと頑迷に主張しているわけでもありません。 就学前教育を「義務」と定めることによって一定水準の保育園環境を整えるように国に対して義務付けられる、そして「義務」であれば親は職の有無にかかわらず0歳からでも気兼ねなく預けられるという意図がこめられているのです。 それというのも現代の日本社会はあまりに母親だけに育児の責任を負わせすぎているからです。お母さんたちを人間扱いしていない。子どもを預けて働く母親や、子育て以外のことを楽しもうとする母親をまるで人でなしであるかのように非難する。そんな社会はおかしいという問題意識から古市さんは「保育園義務教育化」を提唱するのです。 母親が子育ての主役であるという考え方が広まったのは、ここ一、二世代ほどのことです。「専業主婦」という存在が出現したのは大正時代で、「母性」という言葉もその頃登場したそうです。それが1960年代の高度経済成長期にモーレツ企業戦士を支えるためのライフスタイルとして広まることで、母親が子育てを一手に担う生活スタイルが倫理の衣装をまとうようになったのです。さらにそれが日本の伝統だと意識されるようになったのです。 ところで、子どもは3歳まで家庭で育てるべきだという「3歳児神話」に合理的根拠はないそうです。国でさえ、「社会的な支えも受けながら多くの手と愛情のなかで子どもを育むことができれば、母親が一人孤立感の中で子育てするよりも子どもの健全な発達には望ましい」と1998年の『厚生白書』で書いているくらいです。 さらにプロによる適切な教育は早いほど効果的であるという研究があります。アメリカでは、就学前にプロによる良質な教育を受けた子どもたちと、そのような機会がなかった子どもたちを約40年に渡って追跡調査する実験が行われました。 調査対象はどちらも教育機会に恵まれない貧しい地区に生まれた子どもたちです。40歳の時点で、両グループを比較したところ、良質な就学前教育を受けた人たちは学歴、経済的状況、犯罪率などで明らかに良好な状況にあることがわかりました。こういう実験をするのですね! 注目したいのは、そうした幼児期の良質な教育は、IQや学力テストといった点数で測れる力だけではなく(それらは短期間でほかの子どもに追いつかれたそうです)、「非認知能力」、つまり社会性、意欲や自制心、忍耐力、立ち直る力をつけることに多大な効果があったという研究結果です。まさに今、教育に求められている生きるための力、社会人としての力ですね。 幼児期からの良質な教育に国を挙げて投資することで、自分たちの子どもだけでなく、その周囲の子どもも、社会のほかの子どもたちも、安全に豊かに幸せに生きていけるようになる。お母さんたちが孤立感を持ちながらすべてを背負って疲弊しなくてもよい。女性だけがキャリアを寸断するということなく仕事も家庭生活も子育ても楽しめる。そしてみんなで子どもを見守り育んでいける。そんな機会が保障される社会で子育てしたいですよね。 保育園義務教育化
古市 憲寿(著) 小学館(2015) もしも保育園が義務教育化されたなら…子どもの学力は向上し、児童虐待は減少し、景気まで回復する!?良質な乳幼児教育は、将来の年収や治安までも変える。少子化対策への閃光の一手を社会学者が提言!!描き下ろしパラパラ漫画も。 出典:amazon 橋本 信子
同志社大学嘱託講師/関西大学非常勤講師 同志社大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程単位取得退学。同志社大学嘱託講師、関西大学非常勤講師。政治学、ロシア東欧地域研究等を担当。2011~18年度は、大阪商業大学、流通科学大学において、初年次教育、アカデミック・ライティング、読書指導のプログラム開発に従事。共著に『アカデミック・ライティングの基礎』(晃洋書房 2017年)。 BLOG:http://chekosan.exblog.jp/ Facebook:nobuko.hashimoto.566 ⇒関西ウーマンインタビュー(アカデミック編)記事はこちら |
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