アフリカのソマリア国境付近でヘリコプターが墜落した。
捜索救助にあたったのは日本の陸上自衛隊第1空挺団の精鋭たち。
墜落現場は岩場で、機体は微妙なバランスで岩に引っかかった状態だった。
一目見て生存者がいないことを確信した救助隊は、腰を据えてかかろうとした。
その時、突然女性が3人、駆け込んできた。
氏族間抗争で、住んでいた村が襲われ、壊滅状態だという。
かろうじてここまで逃げてきたた3人の一人アスキラは
スルタン(氏族長)の娘だという。
襲いかかった氏族は、残虐で、女こども老人であっても容赦はしない。
ましてやスルタンの娘を見逃すつもりはなく、
執拗に追いかけてくるという。
かくまえば抗争に巻き込まれることは必至。
「元々自衛隊がこの地に派遣されたのは海賊対処のため。
また、今の任務は墜落機体の発見と生存者の救助のみ。
匿って戦闘に発展するわけにはいかない」という意見と、
「命の危険にさらされている人間を見捨てるわけにはいかない」が
きっぱり別れた中、隊長は人命保護を決断する。
そこに、追っ手がやってきた。
いきなり銃を乱射してくる相手には話し合いなど望むべくもない。
自衛隊員たちの目の前ですでに仲間が二人撃たれて倒れた。
考えている余裕はない。
そこから自衛隊員たちは、望まぬ戦闘を始めるしかなかった。
人数・武器数など圧倒的に不利な状況で、
戦いながら自衛隊本拠地へと逃げていく隊員たち。
通信手段もない中、彼らは拠点までたどり着けるのか。
アスキラを最後まで守れるのか?
そもそも、自衛官は人を殺していいのか、殺せるのか?!
とまあ、こういうお話なのです。
約350ページのうち、ざっと計算して300ページほどが戦闘シーン。
敵が持っている武器、自衛隊員たちが携行している武器が多彩で、
軍事マニアにはたまらないだろうと思います。
過酷な自然の中(砂、熱、川)繰り広げられる死力を尽くした戦い、
といえば綺麗だけれど、要するに殺し合いです。
目を背けたくなるかと思いきや、
筆者の筆が乗りに乗っていて、ついつい、読んでしまいます。
これはすごいと思いました。
でも私には、読みながら湧き上がる感情があり、
「これは何かに似ている、なんだろう」と不思議でした。
読み終えた時、わかりました。
映画か格闘系のゲームで感じるのと同じ気持ちだったのだ、と。
『ダイハード』や『バイオハザード』や『ターミネーター』シリーズ、
自分でプレイしたことはないけれど、
ゲーム『ストリートファイター』と似ているのではないかと思うのです。
ハラハラどきどき、時々ピンチ、最後は爽快…。
集団的自衛権がこれまでになく身近な問題になっている今。
「読了後、その問題を突きつけられるだろうか」とも思っていました。
でも、最後のページを閉じてみると、そんなことはありませんでした。
読後感は、こちらが当惑するほどサバサバした感じです。
大岡昇平『野火』、
遠藤周作『海と毒薬』、
野坂昭如『火垂るの墓』。
(アニメ化されたメルヘンな『火垂るの墓』ではない、
やりきれない結末の原作ね)
この3つはまったく違う観点から戦争を描いています。
どれも読んだ後しばらくは人と喋るのもつらく感じられました。
本当に、戦争の悲惨さをこちらに投げかけてくれる作品です。
『土漠の花』も取り上げている内容自体は全部深刻な問題のはず…。
上の作品と比べるのはおかしいけれど、
なぜ、こんなにもサバサバしていられるんだろう、私。
本当に、当惑しきりです。
この小説にはヒューマニティも盛り込まれているけれど、
私にはそれは「盛り込んだ」としか読めませんでした。
(もちろん、その場面ではぐっとは来たけれど)
2015年本屋大賞にノミネートされるも、5位。
上橋菜穂子『鹿の王』に100点近く水をあけられたのは
失礼ながら わかる気がします。
(『鹿の王』をまだ読んでいないのに断言しちゃう)
あくまでもこの小説はエンターテイメント作品。
そう思えば納得がいき、おおいにお勧めできます。
本当に面白いんですよ。一気に読めます。
場面転換が早くて、
ドラマティックな場面(絵になる背景)が満載。
これは「読む映画」として満点の作品だと思いました。
すでに映画化の話が決まっているような気もします。 |
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター
コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、
ナレーション、アナウンス、 そしてライターと、
さまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
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著書:パーソナリティ千波留の読書ダイアリー
ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。
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「千波留の本棚」50冊を機に出版された千波留さんの本。
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