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太宰治の辞書(北村薫)

太宰治の辞書
北村薫(著)
生れて墨ません、と言えば太宰治。

「字が変ですよ」というお声が聞こえてきそう。

いえ、誤変換ではないのです。

青森のご当地銘菓の商品名が「生れて墨ませんべい」。

2009年、太宰治生誕100周年に、南部せんべいと太宰治、いか墨をコラボレートして企画されたんだそう。

なかなか やりますなぁ。(生れて墨ません、で検索するとすぐにヒットします)

この「生れて墨ませんべい」も登場する 北村薫『太宰治の辞書』は北村薫の《私》シリーズ最新作です。

『空飛ぶ馬』『夜の蝉』『秋の花』『六の宮の姫君』『朝霧』に登場した《私》。

当時学生だった《私》もいまや中学生男子の母親になっている。

仕事は編集者。

水を飲むように本を読む《私》にこれ以上ふさわしい職業はないでしょう。

その《私》が、本の中に潜む謎を徐々に解き明かしていきます。

解体(?)される本は、芥川龍之介『舞踏会』と太宰治『女生徒』。

私などのような乱暴な読者にはそれが謎であるとも気がつかないことをひょいと取り出す《私》。

その謎を解く道すがら、三島由紀夫や萩原朔太郎、『ボヴァリー夫人』など国内外の作家や名作のうんちくもふんだんに散りばめられていて北村薫って本当に博学だなぁ、と楽しめるのでした。

そうか、三島由紀夫は太宰治が嫌いだったのか、え?「生れてすみません」は太宰のオリジナルじゃなかったの?!などなど。

また本の中の謎解きのための《私》の行動には「はぁ、こんな風に調べれば良いのか」と感心するばかり。

この本を大学時代に読んでいたら、もっとましな卒業論文が書けたかもしれない。

ちなみに私が卒論で取り組んだテーマは坂口安吾の『紫大納言』『夜長姫と耳男』『桜の森の満開の下』です。

私は自分が本好きだと思っていたけれど、私の本に傾けている熱量などたかが知れている。

世の中にはこんなにも本を愛する人が居るんだなぁ。

私ももっと本を愛するよ!
もっともっと本を読みたい!

そう思わせてくれる北村薫『太宰治の辞書』でした。

《私》といえば、忘れてはならない《落語家の円紫さん》が最後にちょっとだけ登場するのはファンサービスかも知れません。

余談ですが、デビュー作『火花』が第153回芥川賞の候補に挙げられている(※注)

ピースの又吉直樹氏が『太宰治の辞書』に登場します。

NHKのテレビ番組内で太宰の魅力について語るという状況から見て実際にあった番組だったのかもしれません。

又吉さんによると太宰の魅力は「一行でひきつける」ところだとか。

うむ。確かに!

例えば『人間失格』の「恥の多い生涯を送ってきました」など冒頭の1文で読者はどっぷりとその世界にはまってしまいますものね。

さて、北村薫は又吉直樹のことを「ピースの又吉直樹」と書かずに「読書好きで知られる又吉直樹さんが」と書いています。

私はここに又吉直樹に対する好意を感じました。

現時点で(2015年7月11日)芥川賞の行方はわかりませんが、作者のバックグラウンドなどは考慮せず、純粋に作品が評価されて決定されますように。

そして、まだ私は『火花』を読んでいないので、早急に読む必要があります。

いや、その前にとりあえず芥川龍之介、三島由紀夫、太宰治も再読したい。

ああ、あれも読みたい、これも読まねば!

もっと時間を!!

注)執筆時点でのこと。 ご存知のように又吉直樹氏の『火花』は第153回芥川賞を受賞しました。
太宰治の辞書
北村薫(著)
新潮社(2015)
水を飲むように本を読む“私”は、編集者として時を重ね、「女生徒」の謎に出会う。太宰は、“ロココ料理”で、何を伝えようとしたのか?“円紫さん”の言葉に導かれて、“私”は創作の謎を探る旅に出るー。時を重ねた“私”に会える、待望のシリーズ最新作。 出典:楽天
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の
『読書ダイアリー』

ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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