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四十九日のレシピ(伊吹有喜)



 
四十九日のレシピ
伊吹有喜(著)
出版社:ポプラ社(2010)【内容情報】(「BOOK」データベースより)熱田家の母・乙美が亡くなった。気力を失った父・良平のもとを訪れたのは、真っ黒に日焼けした金髪の女の子・井本。乙美の教え子だったという彼女は、生前の母に頼まれて、四十九日までのあいだ家事などを請け負うと言う。彼女は、乙美が作っていた、ある「レシピ」の存在を、良平に伝えにきたのだった。家族を包むあたたかな奇跡に、涙があふれる感動の物語。(出典:楽天ブックス
あらすじは…
***
熱田乙美という71歳の女性がこの世を去って2週間。
夫である良平と娘の百合子が、乙美を思い出し忸怩たる思いをかみしめている時に
ガングロ(作中では別の表現です。もはや死語だけど一言で表現できるので…)で
髪は黄色、銀色のアイラインを施した娘が訪ねてきた。

彼女は乙美がボランティアで絵手紙を教えていた福祉施設の生徒で
乙美から もし自分が死んだら、家の片付けや旦那さんのご飯や法事など、
細々したことを四十九日まで面倒みてほしいと頼まれたと言うのだ。
そして、四十九日は明るくて楽しい大宴会にして欲しいと言う願いも託されたと。
良平と百合子は様々な思いを抱えつつ、四十九日の大宴会を目指すことになる…
***

ここからはさらにネタばれあります。
ご注意を。

まず、主人公二人、良平と百合子が、亡くなった乙美を思い出して
なぜ忸怩たる思いをしているのか。
乙美は、良平の先妻が亡くなったあと、娘の百合子が五歳の時に再婚した相手。

百合子は、自分が初めて乙美に会って
この人が新しいお母さんになるのだと紹介された時に
自分がしたことを思い出して唇を噛む思いを味わっている。
その時 乙美がしてくれた心づくしを今なら理解できるのに…

あの日から三十三年間、つかず離れず温かい目で見てくれた乙美に
いつもそっけなくしてきたことも悔やまれてならない。
嫌っていたのではなく、素直になれなかっただけなのに。

そして、乙美が亡くなったいま、夫婦の問題に直面し、
聞いてもらいたいことがある、
教えてほしいことがある…と涙する。

良平はというと、乙美と最後に交わした会話を思い出しては
後悔している。
乙美が亡くなる日の朝、どこの夫婦や家族にもあるような些細な出来事があり
それに対し、思わず怒鳴り、すげないことをしてしまった…
最後に見た乙美は寂しそうな顔だった。
夫婦として過ごした時間の中には楽しいこともいっぱいあったはずなのに
亡くした後、よみがえってくるのはその寂しそうな顔。

ああああ、たまらん。
百合子も良平も、私自身を見るようで。
読みながら、こういうことあるなぁ、私も心しないと
一生後悔するなぁと二人と一緒に切ない思いをかみしめました。

二人は、乙美の四十九日の大宴会に際して、何をしようか考えた末
模造紙に乙美の年表を作成し、
それを展示して参列者に見てもらうことにするのだけれど
空白を埋める段になって、書くことがないことに気がつくのです。
自分たちがいかに母を、妻を知らなかったのかを知らされ再び愕然。

その空白を埋めるために、乙美が絵手紙を教えていた福祉施設を訪ね
生前の彼女のいろいろな一面を知ることになり、
それが読んでいて、本当の供養のように感じられ
こちらまで救われる気持ちになります。

そしてこの小説のもう一つの軸は
百合子が直面している夫婦の危機。
こちらも考えさせられること多し。
ただ、かなりの修羅場になる割に、
最後はあっけなく解決。
「え~、そんな都合のいい結末で良いの?」と
思わないでもなかったけれど、
ま、いいか。めでたしめでたしで。

そしてガングロ黄髪、シルバーアイラインの少女、井本の正体が実は…
というファンタジックな示唆も面白い。

理詰めで読んだら「そんなバカな!」と思うけれど
なんとも言えない温かさが気持ち良い小説です。

お勧め度は★★★★☆
星が一つ欠けたのは、やっぱり百合子と旦那が直面していた問題が
途中までドロドロだったのに、お手軽に数行で片づけられたのが原因。
こちらがブルーになるくらいのめり込んで読んだのにサ、ってことで。

【おまけ】
友人が「夏に本が読みたくなるのは"夏の100冊"の宣伝のせいだ」という趣旨の
メールをくれました。
まったく同感。
広告(洗脳かも)おそるべし。

池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、
ナレーション、アナウンス、 そしてライターと、
さまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BLOG ⇒PROページ

著書:パーソナリティ千波留の読書ダイアリー
ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。
だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。

「千波留の本棚」50冊を機に出版された千波留さんの本。
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