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をんな紋~あふれやまぬ川(玉岡かおる)

をんな紋
あふれやまぬ川
玉岡かおる(著)
『をんな紋』三部作の完結編です。

読み終えたあと、ヒロインたちが可哀想でならず涙ぐんでしまいました。
『をんな紋 はしりぬける川』から さらに年月が経ち、昭和19年。柚喜の娘 千代は手先が器用で、感性も豊か。洋裁学校で学んだ技術で、ちょっとしたコートくらい簡単に作れる。しかし、すぐに決着すると思われていた戦争が長引き、雲行きが怪しくなってきている。おしゃれは罪悪とされ、せっかくの技術を披露する場もない。また、縁談もまとまらず「女紋」を付けた道具を持って嫁入りするのはいつの日か。

そんな千代が密かに心を痛めているのは兄・紘一の嫁・氷菜(ひな)のこと。大恋愛、すったもんだの末に結ばれた兄夫婦。子どもも二人生まれ、幸せなはずなのに、氷菜に何か落ち度があると、兄は、こっぴどく叱りとばすようになった。いったいこの夫婦はどうなっているのだろう。

一方、千代の母親で氷菜にとっては姑の柚喜はわかっている。紘一が氷菜につらくあたるのは、そうすることで柚喜を制し、それ以上叱ることができないようにしているのだと。また、氷菜もそれをよく理解していることもわかっている。そんなにも信頼し合っている息子夫婦を心から喜べないのは二人の結婚の経緯をいまだに許せないから。

「家」を守り盛り立てるために常に胸を張り、冷静に、正しく生きて来た柚喜にとっては何年経っても心にわだかまりが残ることだった。やがて戦況が逼迫してきて、紘一を始めとする4人の息子たちもさまざまな形で戦争に巻き込まれていく。そして、歯車が狂ったかのように、柚喜が築いてきた理想的な「家」も壊れていくのだった…
女性が「家」に縛られて生きていた時代のお話ではあるけれど心情などは現代とさほど違うわけではないので、ヒロインたちの気持ちを思うと辛いです。

それぞれが自分の立場で一生懸命生きているのになぜそうなってしまうのだろう。

ちょっとしたボタンのかけ間違いを途中で直すことができなかったものか…。

人間は、衣食住が足りていても、夢がないと生きていけないのですね。

そして人生においては「常に正しいこと」が正しいとは限らないこともこの小説は描いています。

頑なに「自分が正しい」と信じて行動するところなど、私は柚喜と性格が似ているので、彼女がたどる運命が不憫でたまりませんでした。

正しいことをしてきたのに、どうしてこうなるのか。

どこをどう変えていたら皆で幸せになれたんだろう?

あ、結末を暗示してしまった。

これ以上書くと、ネタバレしてしまうので、あとは是非 読んでください。

途中でやめられないくらい、面白いです。

余談になりますが、物語の冒頭に宝塚大劇場が出てきます。

戦争中も『翼の決戦』など、戦意高揚目的の作品を上演することで公演を続けてきた宝塚歌劇団。

しかし戦争も末期になり、ついに宝塚大劇場が封鎖される日がきます。

千代が、その最後の公演を観劇後、お仲人さんと顔合わせをする手筈になっている、というシーン。

この場面には関西の文化と、戦争でどんどん生きづらくなる時代背景、それを良しとしない関西人の心意気などが盛り込まれています。

兵庫県を舞台にした小説ならではの挿話だと面白く読みました。

さまざまなタイプの女性たちがたどる運命はもちろん、戦争によって人生が変わってしまう男性たちの姿も胸に迫ります。

重ねて書きますが、この本は現在のところ、書店では買えません。図書館で探してくださいね。

兵庫県を舞台にした小説ではありますが、綿々と綴られた女性たちの生きざまは誰が読んでも何か感じるものがあるはず。

角川書店様、くどいようですが、どうぞ再版をお願いします!

そしてもう一つお願いしたいのがドラマ化。

できればCMを挟まないNHKに、じっくりと作ってもらいたいです。

柚喜役は、同じ 玉岡かおるさんの『お家さん』ドラマ化の際、主役のお家さん・鈴木ヨネを演じた天海祐希でいかがでしょう?
をんな紋
あふれやまぬ川
玉岡かおる(著)
角川書店(2002)
母から娘へと受け継がれ、嫁しても変わることのない「をんな紋」。女が自分を殺し、家のために生きねばならなかった時代、この小さな紋が彼女たちの矜持を支えていた。何があろうとも女たちの絆と誇りは侵されることなく、永遠に守られると…。時は昭和十九年に移り、太平洋戦争は混迷の一途にあった。播磨の一地方で、大店のお家はんとして平穏に暮らす柚喜、そしてその家族の人生も、激流の只中に巻き込まれていく。女三代の血脈を描いた『をんな紋』感動の完結編。 出典:楽天
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の
『読書ダイアリー』

ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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