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大名倒産(浅田次郎)

神は自ら助くる者を助く

大名倒産
浅田 次郎(著)
ハズレのない作家さん 浅田次郎さんの『大名倒産』上下を読み終えました。
丹生山松平家三万石を継いだばかりの若き殿様 松平和泉守、幼名 小四郎。名前の通り四男だ。父である先代は隠居生活に入っている。

四男である小四郎が跡取りになったのは色々と事情があった。聡明だった長男が死亡。次男は手先が器用なだけの大うつけ、とても家督は継がせられない。三男は心優しい性格で、病の床に。

そこで、小四郎に白羽の矢が立ったのだが、小四郎は先代がお手をつけた女性に生まれた子で、長い間、自分に徳川家の血が流れていることも知らずに育っていた。

兄が二人も存命中なのに、自分が継いでいいのか、悩みながら松平和泉守となった。実は、先代の父はこの代替わりにあたり、小四郎に隠していることがあった。

藩の借金が莫大な額に膨れ上がり、とても返済の目処が立たず、かくなる上は計画的に藩を倒産させることにしたのだ。

わざと、将軍に「改易」=お家お取りつぶしを命じてもらおうという魂胆。その際、責任を負って腹の一つも切らねばならないが、それには庶子である四男坊がうってつけと、小四郎に継がせたのだ。

そんなこととは知らない小四郎は、藩の財政事情を知り暗澹となるが、決してあきらめない。どうすれば藩を「倒産」させずにすむのか模索していくのだった。
(浅田次郎さんの『大名倒産』の さわり部分を私なりに紹介しました)
この小説は上巻と下巻で世界観が違います。

まず上巻では藩に関係する人たちが一通り描かれるのですが、これがもう、笑いっぱなし。

特に手先が器用、美意識に優れているけれど、おバカさんである 兄 新次郎のくだりが面白すぎました。

父親だけでなく、家臣たちにも「ばか」だと思われ、人間らしい扱いを受けていない新次郎。

しかし小四郎は、その兄に授けられた天賦の才能を見出します。

この辺り、ゲラゲラ笑いながらも、兄を思う弟の心と、初めて人間らしく扱ってくれた弟に対する兄の思いが描かれており、ちょっぴり涙ぐんでしまったりもします。

そこが浅田次郎さんらしいんです。

さて、下巻。

先代の父親は小四郎を侮っていました。

自分の計画通り「倒産」できると思っていたのに、小四郎には親に似ぬ清らかな心と責任感があったのです。

先祖から受け継いだお家を潰してはならない、また、美しい領土やそこに住む領民を守っていきたい、そんな気持ちでいっぱいなのです。

小四郎を補佐するのは、寺子屋で共に学んだ幼馴染たち。全員が健気。

するとどうでしょうか。

人間界を見守り、時に力を貸してきた七福神たちが小四郎の味方をすることに。

下巻では、七福神それぞれのキャラクターが描かれ、もうファンタジーの世界です。

でも、私は神様の登場を意外と自然に受け止めることができました。小学生の頃、塾の先生にこんな言葉を教えてもらったことがあるので。

「神は自ら助くる者を助く」

一生懸命努力する人を、神様は助けようとするんだよ、と。

塾の先生が教えてくれた言葉の中の「神様」が「七福神」とイコールとは思いませんが、七福神の心を動かすのはやはり、人間の努力する姿なのだろうと納得できました。

心ならずも小四郎を助ける羽目になった貧乏神もおかしくて可愛い。

最後に。

物語の終わりに、ほとんど悪役だった先代に対して、書かれた言葉がやはり浅田次郎さんらしくて大好きです。

浅田次郎さんは本当に人間がお好きなのだな、そして性善説でいらっしゃるのだなと思います。

時代小説であり経済小説でもある『大名倒産』でした。
大名倒産
浅田 次郎(著)
文藝春秋
泰平の世に積もりに積もった大借金に嫌気のさした先代は縁の薄い末息子に腹を切らせて御家幕引きを謀る。そうとは知らぬ若殿に次々と難題が降りかかる!笑いと涙の経済エンターテインメント、始まり、始まりー 出典:楽天
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池田 千波留
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ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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