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をんな紋~はしりぬける川(玉岡かおる)



 
をんな紋~はしりぬける川
玉岡かおる(著)
出版社:角川書店 (2001)【内容情報】(「BOOK」データベースより)家のため郷里のため、芹生の家に嫁いで二十年。柚喜は夫に物足りなさを感じつつも、商家のお家はんとして、四男一女の母として、平穏な日々をおくっていた。そんな中、実家からもたらされた知らせが柚喜の日常に思いがけない波紋を起こす。かつて思いを寄せあい、今は妹の夫である壮児が、思想犯として特高警察に検挙されたという。荘児をめぐる過去の確執に姉妹は苦悩し、激しい修羅の場へ導かれていく…。川の流れに翻弄されながらも懸命に生きる女たちを描く、『をんな紋』第二部(出典:楽天ブックス
先週紹介した『をんな紋 まろびだす川』の続編で、
一気呵成に面白くなってくるのが『をんな紋 はしりぬける川』。

***
70人もの小作人を要する青倉家の総領娘だった柚喜(ゆき)。
母の津多は、夫亡き後、周囲の男性に負けないよう
一生懸命に張り合って、70人もの小作人を要する青倉家を持ちこたえてきた。
それらは全て柚喜が婿を迎えて継ぐはずだったのに…。

あの日から20年。
青倉の家のため、他家に嫁いだ柚喜は四男一女、
五人の子供に恵まれた。
明石の女子師範学校卒業の柚喜は、
学校で教えていた時のように、
我が子にも厳格な教育を施した。
その甲斐あって、地域でも評判の兄弟に育っている。
特に長男の紘一は、体力知力共に優れているだけでなく
思いやりがあり、家族の誇りだ。
いつも背筋を伸ばし、「なせばなる」「頑張りなはれ」と
こどもたちを叱咤激励する柚喜は、自分にも厳しい。
常に襟をただし、正しいと信じた道を進んでいるのだ。

柚喜は嫁いで以来、実家に帰らないでいる。
何かあるときには、夫に行ってもらい、
自分は絶対に帰らないと決めているのだ。
20年前の出来事が、まだ柚喜の中では終わっていないのだった。

しかしそうも言っていられない事件が起こった。
家を継いだ妹・佐喜の夫が、思想犯として捉えられたという。
一族から思想犯を出すなど、とんでもないこと。
ましてや、我が子5人はこれから就職もし、
結婚もしなくてはならないのだ。
力を尽くしてこの火の粉を払わなければ…
柚喜は実家に向かう。
***


前作で、それぞれの生き様が描かれたヒロインの柚喜、佐喜、ハル。
20年経ち、今度は彼女たちの子どもが
それぞれの人生を歩んでいます。

時代は大正が終わり、昭和にさしかかってはいるものの、
配偶者によって運命が左右されている登場人物を見ると、
まだまだ女性が自由に生きていける時代ではなかったのだなと思います。

嫁げば、持参したもの全ては婚家のもの。
もし離縁した場合、持ち出すことは許されません。
ただし「女紋」をつけてあったものだけは別。
嫁が居なくなれば、他人の紋に過ぎないのだから
「持って帰りなはれ」ということでしょう。
「女紋」は、女性の財産権を守る知恵でもあったのですね。

とは言え、不自由なのは女性だけではありません。
家を継げる長男以外は、どうやって身を立てていくのか悩まねばならず、
場合によっては結婚すらできないのです。

いや、たとえ長男であったとしても、
思想的な自由は縛られていて、
通称アカ狩りで非人道的な扱いを受けることも。
これから戦争に向かっていく、そんな時代の匂いも感じました。


登場人物たちが、さまざまに交錯し、
物語は加速していきます。
物語の後半に驚愕の秘密が暴露されてからは
最後まで息をつく暇がありません。

また、物語の面白さとは別に、
女性が子どもを産み、育てることの
すさまじさ、意義深さを感じました。
私は残念ながら、子どもに恵まれませんでしたが、
お子さんがいらっしゃる女性なら、
もっと深いものを感じる小説なのではないかしら。
特に男の子がいらっしゃるお母さんは
紘一のことで柚喜と同じ気持を味わうでしょう。

これ以上書くと、どうしてもネタバレしてしまうので、
あとは読んでください。
昨日も書きましたが、多分本屋さんでは出会えません。
図書館で探してくださいね。
ああ、こんないい小説なのに。
角川書店様、再版をお願いします!


第3話『をんな紋 あふれやまぬ川」については また来週。

池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、
ナレーション、アナウンス、 そしてライターと、
さまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
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