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■なかむらのり子の『こころカラダ茶論』


木村 綾さん(医療法人桜来会 きむらクリニック 副院長)

発信力をもった医師でありたい

木村 綾さん
医療法人桜来会 きむらクリニック 副院長
女性著名人の闘病報道で注目を浴びる乳がん。

現在、日本での罹患は11人にひとりと言われています。特に若年層での発病は、仕事や結婚、出産、育児などのライフサイクルにも影響を及ぼします。

今回は、20~40歳代の患者さんが多く診療に訪れる、きむらクリニック副院長の木村綾先生にインタビューしました。

2017年春に乳腺科を立ち上げられ、乳がん検診はもちろん、乳がん、乳腺疾患、乳腺良性腫瘍のほか、甲状腺疾患や更年期障害といった女性ホルモンに由来する診療も行われています。

乳腺外科医としての立場から、今後目指されている目標などもお聞きしました。
女性医師だからこそ共感できる乳腺外科医という仕事
なぜ、医師という職業を選ばれたのですか?
医師になったのは、医師である母にあこがれたからです。父は法医学の医師、母は小児科医という環境で育ちました。

そういうこともあり、3歳の頃には、母のようになりたいと、医師になることを決めていました。
乳腺科医を選ばれたのは何かきっかけがあったのでしょうか?
学生時代、臨床実習の時に胃癌手術を見学し、手術に興味をもちました。組織をつなぐことで臓器が再び機能するということに感動したのです。

その後研修医の時に、恩師である川崎医大乳腺内分泌外科の前教授・園尾博司先生に乳腺外科へ誘っていただき、女医としてできることが多いと感じ、乳腺外科を選択しました。

当時はまだ乳がんが今ほど注目されている時代ではなかったのですが、女性が活躍できる分野でもあるし、生活リズムも作りやすく、私自身が結婚・出産しても続けていけると思ったことも大きかったですね。
乳腺外科医になられてよかったことは何ですか?
診療では女医を希望する患者さんも多く、女性ならではの立場が生かされていると感じます。

乳がんもそうですが、同じ女性の立場で、授乳中のことや生理前の乳房の痛みなど、いろいろな事を共感して診療を行えますから。

人生のライフスタイルの中で、共感して同じ立場で診られるのは女性としてのメリットだと思います。
自分自身の病気とも向き合った人生の転機
これまでに何か「壁」を感じたことはありましたか?
30歳の時、川崎医科大学で勤務していた時期に大きな病気をして、医師としても働けない時間が、2年ほどありました。その時に化学療法なども体験しています。

その後、大阪府の吹田市民病院で非常勤勤務として仕事を再会することになり、新たな人生を歩み始めたと感じたことがありました。
まさに大きな人生のターニングポイントになった出来事でしたね。
病気もそうですが、病気を乗り越えた後に、30代後半で結婚と出産を経験し、病気をした私が出産できたことは奇跡的だと感慨深かったですね。
患者さんからも学ぶ地域のホームドクターでありたい
印象に残っている患者さんや出来事などあれば、教えてください。
大阪病院勤務時に、元アナウンサー清水健さんの奥様の再発治療を担当させていただきました。

出産直後の検査で、乳がんの転移が進行していることが判明し、ご主人である清水さんとも告知をすべきか、悪い結果を伝えるか伝えないかなど、色々議論して、私自身も多く悩み、最良と思われる治療を模索しました。

予後が3カ月くらいになったときでも、聞く権利、聞かない権利があると考えています。

バッドニュースの時はどこまで聞きたいか、検査結果だけで聞きたいのか、具体的な余命も知りたいのか、患者さんの気持を確認しながら、一緒に進んでいくことを考えます。

こちらが思う以上に全部聞きたいとおっしゃる患者さんもありました。また、患者さんから学ぶことも多いです。

「先生につらいことを言わせてしまって、すみません」とおっしゃる患者さんもいらして、そういう風に思ってくれるのだ・・・と教えてもらうこともありました。

別の患者さんは、婚約中に発症されて、その後結婚されたのですが、治療の時期を検討していた中で、妊娠が判明。妊娠継続できる方法を模索していると、「中絶し治療に専念します」という答えを出されたのです。

不安を抱えながらの妊娠・出産よりも、しっかりと治療した後に、また新しい命を考えたいという患者さんの意思を知り、一概に妊娠継続だけが選択肢ではないと教えられました。
クリニックでは、AYA世代※の患者さんの検診も多いとお聞きしています。
人生において、仕事も楽しく、生涯のパートナーと出会ったり、結婚・出産などのイベントがある時期に、自分だけ病気と向き合わないといけないのは、心身ともにとてもしんどいことだと思います。

AYA世代の女性の患者さんは、乳がんの治療と、妊孕性の保持、出産のタイミングなど、難しい点がたくさんあります。

私も30代で病気をしたときには、普通に結婚して出産することはないのかな・・・と絶望的に感じたこともありました。

そういう体験もあり、若年性乳がん患者さんの治療には、自分の病気治療時と重なり、思い入れが強くなりますね。

※AYA(Adolescent and Young Adult)世代:15歳以上40歳未満のがん患者(治療終了後のがん患者、AYA世代にある小児がん経験者も含む)(厚生労働省)
お仕事をされる中で、いつも心にある「想い」は何ですか?
「がんばらなくていい。でも、乗り越えてほしい。家族や医療者、みんなに甘えて、そして、みんなで乗り越えてほしい」という想いです。

また、身近なホームドクターとして、何でも気軽に相談していただけるクリニックを目指しています。

更年期症状の相談や、体の不調、生理痛、生理前の乳房痛なども、病気ではなくてもしんどい人もいるし、そういった症状のケアもしたいと思っています。

大病院に行くと時間も掛かるし、検査も1日で終わらないこともあり、クリニックレベルでの乳腺科がまだまだ少なく、気軽に検診を受けられる専門クリニックが必要だと感じますね。

働いたり、子育てしていると時間を作ることが難しいので、身近にあり、気軽に足を運べるホームクリニックになれればいいですね。
日本から乳がんで亡くなる患者さんを減らすために
女性医師というだけではなく、信頼できる診療も重要ですね。
女医ということで安心した診療を行うだけでなく、やはり医療の根本は「精度の高い診療」と考えています。

乳房疾患の精密検査(マンモグラフィ・乳腺エコー・細胞診・針生検)には、トップレベルの病理医の先生方と連携し診断しているのもそのためです。

乳腺専門医のいない病院で検査して「大丈夫」と言われたけれど、念のために・・・と来院された患者さんが、実は「大丈夫ではなかった」ことも少なくなく、精度の重要性を痛感することも・・・。

私自身「マンモグラフィ読影認定医AS評価」「乳房超音波講習会A評価」を取得した医師として、「正しく診断して、正しい結果を持って帰ってもらう」ということを心がけて診療しています。
同じお仕事を目指す方に、アドバイスがあれば、ひとことお願いします。
女性医師の活躍の場も増えて、とてもやりがいのある仕事だと思います。

時には、診断や治療方針に悩んだりすることもあると思いますが、医療関係者だけではなく、周囲の様々な出会いに救われることも多いですね。

私自身も、病院で一緒に働く看護師長さんに、育児との両立などを話すことことで、精神的に助けられたことも多々ありましたから。

医師としては、多岐にわたる科があり、同じ科でも専門分野が細かく分かれている時代なので、それぞれの性格や個性にあわせて専門科も選べると思います。私にとって、医師は天職です。
今後の目標を教えていただけますか?
乳がん検診率が低い日本。欧米では検診率が高いため、乳がんでの死亡率が下がっています。

一方、日本では検診率が低いために、発見が遅れ、死亡率は上がり続けているのです。そういったことからも、「早期発見・早期治療」を進めていきたいと思っています。

乳がんになる人は増えても、死ぬことはない社会。そのために地域での啓蒙活動を行っていきたいですね。

今後は、乳がん啓発NPOの設立も視野に入れています。いい意味で、発信力をもった医師でありたいですね。
木村 綾さん
1998年私立川崎医科大学卒業、私立川崎医科大学 乳腺甲状腺外科、市立吹田病院 外科 非常勤、JCHO大阪病院(旧・大阪厚生年金病院)乳腺内分泌外科 医長、2017年きむらクリニック 小児科 乳腺科 開院・副院長就任
日本外科学会外科認定医・外科専門医、日本乳癌学会乳腺専門医、マンモグラフィ読影認定医AS評価、乳房超音波講習会A評価、日本病院総合診療医学会認定医、総合判定講習会 講習修了、アンチエイジング医学の基礎と臨床 講習修了、緩和ケア(PEACEプロジェクト) 講習修了、がん患者さんの性を支援するための研修会 研修修了
医療法人桜来会 きむらクリニック
〒564-0051 吹田市豊津町4-38
HP: http://www.oukikai.jp/
木村綾さんのコラム『健やかに 楽しく 美しく』
(取材:2017年8月 撮影:ナムフォト 楢 侑子)
乳がんは、外科領域です。それも乳腺専門医のいる乳腺外科です。「乳がん検診って婦人科にいけばいいんだよね?」よく聞かれますが、間違いです。

これだけ乳がんに注目が集まっている中でも、正しい情報が周知されていないことに愕然とすることがあります。そういう意味でも、木村先生のおっしゃる「発信」していくことの重要性を感じます。

1階に小児科があるクリニックということもあり、きむらクリニックでは、若い世代の患者さんがママ友を連れて受診に来てくれることもあるのだとか。

ママランチの前に、気軽に相談に訪れるクリニックの存在は、乳がん検診率のアップにも大事なことなのではないでしょうか。「乳がんで死なない」そのためにも・・・。
なかむらのり子
S plus+h(スプラッシュ)代表
コピーライター/プロジェクト・コーディネーター
NPO『I FOR YOU Japan(がん患者サポート団体)』理事
広告代理店、子連れ留学を経て、現職。 自らの乳がん体験から、医療・健康分野の企画取材に尽力。食育、統合医療、代替医療などのほか、教育、文化芸術、旅行とそのフィールドは広い。機動力を活かした企画・コーディネートに定評あり。インタビューする方の人生にスポットを当てる取材を心がけている。

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