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■なかむらのり子の『こころカラダ茶論』


吉村 千恵さん(大阪赤十字病院 呼吸器内科副部長)

“連携”無くして、自分の求めている医療はできない。

吉村 千恵さん
大阪赤十字病院 呼吸器内科副部長
男性の2人に1人、女性の3人に1人ががんにかかるといわれる現在、肺がんは男性の死因のトップ、女性でも上位になっています。

今回は、呼吸器内科医としてがんサポートチームをはじめとする様々な取り組みを実践し、“連携”をキーワードに、患者さんの役に立ちたいという強い想いで医療に取り組んでいらっしゃる、大阪赤十字病院の吉村千恵先生にお話をうかがいました。
伯母の背中が導いた“医師”という道
呼吸器内科医としての日常業務以外にも、多くのお仕事をされていますが、具体的な内容を教えてくださいますか。
呼吸器内科医としての日常業務は、外来を担当。病棟担当医(指導含む)は毎日となります。

そのほか、気管支鏡検査、呼吸器内科カンファレンス・医局会、ぜんそく・COPD教室、看護師・理学療法士との病棟リハビリカンファレンスなどがあります。

特に力を入れている地域連携では、大阪吸入多職種連携の会、上本町呼吸器カンファレンス(呼吸器内科と地域医師との連携の会)、薬薬連携の会などを行っています。

がんサポートチームメンバーとして、多職種カンファレンスを実施するほか、赤十字医師として、阪神大震災、東日本大震災、熊本大震災にも出向きました。
なぜ医師を目指されたのでしょうか?
幼少期に実母を亡くし、母親代わりに育ててくれた伯母が血液内科医であり、その働く背中を見て育ってきましたので、「医師になる」ということは子供の頃からほぼ決めていたと思います。

女性が職業も持つということも、伯母を通して自然なことだったと思います。
現在、呼吸器内科・副部長としてご活躍ですが、ポジションへのきっかけは?
呼吸器内科・副部長になれたのは「勤務医をやめずに続けたから」だと思います。

そのほかの事がらは自然な成り行き。どのことも効率よく患者さんの役に立ちたいと思ったことがベースにあると思います。
連携することでつながる医療情報
患者さんファーストで考え続けた結果、「地域連携パス」を考え出されたのですね。
呼吸器内科では、特に吸入薬の使用方法の指導が大変なのですが、病院内では薬剤師などと手分けしてやっていました。

その後、院外処方箋になってからは、その手法が分断され、吸入手技のクオリティを担保することができなくなったのです。

そこで、クオリティをいかに、確保するかを考えました。それまでは、効率良く、なおかつ患者さんの満足の得られる方法を常に考えてきた中で、「病診連携(病院と地域開業医との連携)」を考えました。地域の呼吸器内科の先生を捜して繋いできたのです。

しかし、患者さんにアンケートを取ると、かかりつけ医に求めていることは技術面ではなく、生活のことや、身近なことの相談ができることを求めていることがわかりました。

病気のことは大きな病院へ、身近な毎日のことはかかりつけ医へ、という選択を患者さん自身が自由に選んでいたのです。

それがわかってからは、まずは患者さんたちにかかりつけ医を決めてもらい、呼吸器が専門でない先生だったとしても、いかにスムーズに説明するかということに視点を変えました。病院側が工夫すればいいと考えたんですね。それが「地域連携パス」です。

地域の先生には、企業の発行しているポケットガイドラインなどを利用して、技術面や専門知識面をフォローし、病院には、「かかりつけ医紹介窓口」を設置してもらうことで、患者さんが地域に帰ってからも、それまでと同じクオリティ、満足のいく治療を受けられるよう働きかけました。制度をわかりやすく作ったという感じです。
病薬連携では、「服薬情報提供書」を連携ツールとして活用されたそうですね。
院外処方では、薬局との連携が重要になってきます。疑義紹介(薬局から病院への問い合わせ・確認)で、薬局さんから「患者さんが薬がたくさんあるから今日は要らないとおっしゃっている」と言う連絡が入ることがあります。

病院としては、なぜそのような状況になっているのか、患者さんから聞いたフィードバックが欲しいのに、それを返してもらう手段がなかったんです。患者さんのために何とかしないといけないという思いがありました。

そんな中、2008年に薬剤師会での勉強会で、連携する連絡票があればやってもらえるか聞いたところ、100%近い方がやりたいと答えてくださったのです。そのことを受けて、薬剤師の先生方との患者さん情報共有ツールとして、元々あった「服薬情報提供書」を双方向用に改変して導入しました。

情報共有の量も増え、この仕組みがとても効果的だったため、口コミで全国に広まり、現在では標準的に使用されるようになっています。これがきっかけで、集まった先生方と「NPO法人吸入療法のステップアップをめざす会」も結成されました。
がんサポートチームのメンバーでもいらっしゃいますが、どのような活動でしょうか。
2006年「がん対策基本法」ができた際に、当院でも緩和医療の勉強のためにがんサポートチームを結成。呼吸器内科医として参画しました。

院内活動のひとつとして、「ピースプロジェクト※」の前身となった「EPEC」という講習会に参加したのがはじまりです。毎週院内の多職種間でがんサポートのカンファレンスを行っています。

※「すべてのがん診療に携わる医師が研修等により、緩和ケアについての基本的な知識を習得する」ことを目標としている緩和ケア継続教育プログラム。
まさにチーム医療ですね。
元々当院はがん拠点病院として、看取りまでの取り組みや体制がありましたし、呼吸器内科の医師として5大がんの中のひとつである肺がんを診るので、参加しました。

現在、専用病棟はありませんが、ホスピスをどうしていくかも検討課題です。病院の命題としては、すべての医師に緩和知識を統一化することなので、講習会に医師にどうやって参加してもらうかも話し合われます。

日々のコンサルについては、病棟の「リンクナース」と呼ばれる看護師たちと連携し、患者さんの声を上げいただき、それについてカンファレンスするようなこともしています。

地域の市民の方々との連携も大事にしています。出張ぜんそく教室やノルディックウォーキングポール体験会など、老人福祉センターなどへ出て行って開催しています。

地域にいかに貢献できるか、メーカーさんの力も大きく、資材などの提供でお手伝いしてもらうことで、活動を広めることができますので、さまざまな連携が重要だと感じますね。
常にベースにあるのは「役に立ちたい」という想い
お仕事をされる中で、いつも心にある「想い」は何ですか?
患者さんのためになっているかどうか、人のためになることなのか、ということにはいつも気を配っています。

自分が楽しく、周囲も楽しく、そして効率よく。結果としてちゃんと患者さんの役に立つことができれば自分が嬉しく楽しめるなと。この輪がぐるぐる回れば全て上手くいくのではないかと思います。
これまで「壁」にぶつかったときは、どのように乗り越えてこられたのでしょうか?
古い医局制度の中で、周囲に理解してもらう難しさを感じたことがありました。それも、自分への評価を気にしないことで問題はなくなりましたね。

自分への評価を気にせず行動することは難しいことですが、気にしているのは自分だけかなと割り切り、大義を忘れずに行動すればほとんどのことは乗り切れました。
今後、お仕事で実現したいことがあれば教えてください。
私は“連携する”ことが好きなんですね。連携無くして、自分の求めている医療はできません。医師不足で、効率良く仕事をやっていかなければならないときに、病院内での他職種の医療者との連携はもちろん、地域の開業医の先生方との地域連携を行い、いかに効率良く運ぶかといったことが必要だと認識したことがありました。

きっかけは、ひとりの同僚の退職でした。同僚が担当していた患者さんを全部引き継いで受け持てるかという問題が発生したときに、いかに連携し、いかに効率良く仕事をするかを実感したのです。

連携の輪を広げ、ひとり一人が少しだけ専門性を提供し連携すれば、私も周囲も楽しくさざ波のようにさらに連携が広がっていくと思います。

日本全体にそのさざ波が広がれば、今抱えている問題の少しは自然と解決して行くような気がしています。それを仕事を通じてやって行ければ良いと思っています。

これは被災地に行った際に実感したことですが、地域の連携、多職種の連携は普段からやっていないと、いざというときにも大事になってきます。
ひとりでは何もできない。だから、つながる、連携する。
長いキャリアの中で、印象に残っている患者さんはいらっしゃいますか?
私が連携が大事だと思った背景には、患者さんのことばがあるのです。今はがん対策基本法ができてずいぶんやりやすくなりましたが、連携がない時代の治療は大変だったこともありました。

個人の情熱と体力でやりきってきた部分も大きいです。 そして、患者さん方も個人の力で乗り切ってこられたともいえます。

「連携がんばって欲しい。先生が道を開いていって」とおっしゃってくださった患者さんもいらっしゃいました。そのことばが、今のチーム医療に向かう気持のベースになっています。
お仕事をする女性として、ワークライフバランスをどのように実現されていますか?
難しい話ですが、周囲の協力、家族の協力なしにはバランスはとれません。私のバランスが崩れると家族のバランスが崩れる。私がしっかりしているつもりでも弱いところにバランスの崩れが出てきます。

脳外科医の夫も超多忙なのですが、譲れないことを伝えたり、弱音をしっかり吐いて、できないことはできないと家族に言えるようになって、バランスがようやくとれているのだと思っています。

職場の同僚に対しても同じ気持ちです。さりげなく、いつも多くの事柄を助けていただいています。

仕事を続けていくのは難しいことも多いですが、後進の女性たちが私の背中を見て、「吉村先生が働きながら子育てもしているんだから、私にもやれるかも」と思ってくれればいいなと思いますね。そのためにもがんばれるだけ続けていきたいですね。
これから医師を目指す方に、どんなアドバイスをしますか?
私もそうでしたが女性医師は、「ひとりで全部できる。やりたい」と思いがちです。難しい試験も何度も乗り越え、多くの税金や私費もかかり、その上で得た、ならせていただいた職業です。誰でもできる仕事ではありません。

そういう様々なことに感謝して、自分がやりたいことに優先順位をつけて多くの人に助けられながら天命を全うしてほしい。「ひとりでは何もできない、忘れないで。」ということが私からのアドバイスです。
吉村 千恵さん
関西医科大学卒業、大阪赤十字病院 内科部研修医・平成6年 大阪赤十字病院 内科部レジデント・平成7年 大阪赤十字病院 呼吸器科部レジデント・平成8年 関西医科大学 1内科 大学院・平成12年 大阪赤十字病院 呼吸器科部スタッフ・平成18年 大阪赤十字病院 がんサポートチームメンバー・平成22年 大阪赤十字病院 呼吸器科部 副部長。現在に至る。平成26年よりNPO法人吸入療法のステップアップをめざす会 監事/平成28年より日本呼吸ケアリハビリテーション学会代議員。
日本内科学会認定医 指導医/日本呼吸器学会専門医 指導医/日本アレルギー学会専門医/呼吸ケア指導士(初級)その他所属学会(日本緩和医療学会、日本感染症学会、日本結核病学会、日本肺癌学会、日本緩和医療薬学会、日本呼吸ケアリハビリテーション学会、日本呼吸器内視鏡学会)
メディア掲載 :「チームでチェック!吸入手技のミスは防げる」(日経メディカル9月号) / 「喘息管理で困ったら吸入ステロイドは鼻から呼出」(日経メディカル2016/4/21) / TURNUP 第3号 (2012年3月1日 発行) / Primaria創刊号(2013年7月発行)
大阪赤十字病院  大阪市天王寺区筆ヶ崎町5番30号 http://www.osaka-med.jrc.or.jp/
(取材:2017年5月)
私自身のがん体験から、チーム医療の重要性は体感していました。医療者だけではなく、患者本人もチームメンバーです。

医師と患者、医師と医療者、そして地域の方々との連携は、患者本人だけではなく、その家族の力にもなると感じます。

吉村先生の「患者さんの役に立つために何ができるか」という想いに感動したインタビューとなりました。そして、ライフワークバランスにおいても、「ひとりでは何もできない」。人生にも“連携”が大切だということですね。
なかむらのり子
S plus+h(スプラッシュ)代表
コピーライター/プロジェクト・コーディネーター
NPO『I FOR YOU Japan(がん患者サポート団体)』理事
広告代理店、子連れ留学を経て、現職。 自らの乳がん体験から、医療・健康分野の企画取材に尽力。食育、統合医療、代替医療などのほか、教育、文化芸術、旅行とそのフィールドは広い。機動力を活かした企画・コーディネートに定評あり。インタビューする方の人生にスポットを当てる取材を心がけている。

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