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中野京子『怖い絵』シリーズ

『その闇を知ったとき、名画は違う顔を見せる。』

中野京子『怖い絵』シリーズ
7月22日から始まり8月30日には入場者15万人を突破した大人気の美術展、「怖い絵」展に行ってきました。キャッチコピーは『その闇を知ったとき、名画は違う顔を見せる。』

会場は兵庫県立美術館です。とっつきにくくて敷居が高いと思われがちな美術館を「親しみやすい市民の応接間」にしようと奮闘されているアクティブな美術館です(詳しくは、おすすめの一冊2017年6月掲載、蓑豊『超<集客力>革命』をどうぞ)。

『怖い絵』展は、中野京子さんのベストセラー『怖い絵』シリーズで紹介されている名画を含む、西洋のさまざまな「怖い」絵を集めた企画展です。

中野さんが「怖い絵」の解説本を書くきっかけとなった作品は、ダヴィッドの「マリー・アントワネット最後の肖像」(『怖い絵』所収)です。

豪奢な暮らしで国庫を破綻させたフランスの元王妃が、いまやザンギリ頭で手を後ろにくくられ、荷馬車でギロチン台へと運ばれていく姿をスケッチしたものです。

花のような美しさを誇った元王妃のほおのたるみや肉体の衰えを容赦なく描きとめたこの絵に、中野さんは、次々代わる時の主流派に与した変節漢ダヴィッドの「悪意」を読みとりました。

「怖い絵」といっても、悪魔や人殺し、戦争といったわかりやすいものだけではありません。

現代の私たちには考えられないような残酷な風習や習慣が反映されている「怖い」絵もあれば、ダヴィッドのスケッチのように人の心の闇の部分やよこしまな気持ちを露わにしているという点で「怖い」絵もあります。

「とにかく絵を見て何かを感じてみましょう」という日本の美術教育に中野さんは疑問を呈します。

西洋の絵画には、神話や宗教、絵が描かれた時代の背景を知らないと寓意がわからないモチーフ、題材がたくさん出てきます。その意味を知ることで、絵は俄然、面白くなります。

例えば、今回の展覧会の目玉作品であるドラローシュの「レディ・ジェーン・グレイの処刑」(『怖い絵 泣く女編』 所収)。ミルクのような白い肌の若い女性が今しも斧で斬首されようとしている絵です。

彼女はいったい誰なのか。なぜこんな若い女性が処刑されようとしているのか。なぜ横で気を失いかけている女性がきらびやかなネックレスを手にしているのか。斧を持った処刑人の腰に差したナイフの用途は?

ジェーン・グレイの短い生涯の背景や絵画に描かれたものの意味を知ると、この絵に込められた悲劇がよく理解でき、彼女の美しさがさらに際立って見る者に迫ってくるのです。

ところで中野さんの解説は、怖い絵の話をしているのに、思わず笑ってしまう表現が盛りだくさんです。例えば、ジェーン・グレイの絵であればこんな風です。
”それにしても、この絵に描かれた処刑人には違和感を覚える。(中略)この気の抜けたポーズは何なのか。腕のほどまで疑われるではないか。(中略)

全体に本作は、感傷に溺れすぎているのが難である。ふたりの男性の醸し出す憐憫の情だけで十分なのに、侍女たちのオーバーアクションが目立つ。(中略)

彼女らが叫んだり呻いたりするものだから画面がやたらと騒がしい。(中略)せめてもっと後方の薄暗がりでひっそり歎いているか、いっそこのふたりを塗りつぶし、ジェーンのマントだけを脇に添えたらどうだったろう。” 
『怖い絵』シリーズは、まさに「西洋史や美術史、神話や伝承を面白く学ばせてくれる教養書」(小説家の宮部みゆきさん談、『怖い絵のひみつ。』所収)なのですが、文庫版では絵のサイズが小さくて細部がわからないものが多いのが難点です。

読者は、このサイズ、ましてや印刷物ではよくわからない、実物を見てみたいと思われるでしょう。そんな方はぜひ美術館巡りをしてみてはいかがでしょう!

今回の展覧会は展示される作品数も多く、解説パネルには、「え、どういうこと?」と思わせるような気の利いたキャッチフレーズも付けてあります。絵は怖いけど、楽しい展覧会ですよ。

中野さんの著書を読んでから行くもよし、会場の音声ガイドで主な作品の解説を聴いて絵の見方を知るもよし、あとから著書を読んで復習するのもよいかと思います。

ただし、休日はたいへんな人ですので、時間には余裕をみられることをおすすめします。兵庫展は2017年9月18日まで、東京・上野の森美術館は2017年10月7日から12月17日までです。
怖い絵 泣く女編
中野 京子 (著)
角川書店
名画に秘められた人間心理の深淵――憎悪、残酷、嫉妬、絶望、狂気を鋭く読み解き、圧倒的な支持を得てロングセラー中の「怖い絵」シリーズ。出典:amazon
profile
橋本 信子
同志社大学嘱託講師/関西大学非常勤講師

同志社大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程単位取得退学。同志社大学嘱託講師、関西大学非常勤講師。政治学、ロシア東欧地域研究等を担当。2011~18年度は、大阪商業大学、流通科学大学において、初年次教育、アカデミック・ライティング、読書指導のプログラム開発に従事。共著に『アカデミック・ライティングの基礎』(晃洋書房 2017年)。
BLOG:http://chekosan.exblog.jp/
Facebook:nobuko.hashimoto.566
⇒関西ウーマンインタビュー(アカデミック編)記事はこちら



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