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楽園のカンヴァス(原田マハ)/アンリ・ルソー 楽園の謎(岡谷公二)

アンリ・ルソーに魅せられた人たち

楽園のカンヴァス
原田 マハ (著)

アンリ・ルソー 楽園の謎
岡谷 公二 (著)
この夏、4年ぶりに海外に行ってきました。旅のお供の本を選ぶのも楽しみの一つ。ほどほどに読み応えがあって、でも重すぎない(重量も中身も)ものをと、本屋さんであれこれみつくろいました。

目に入ったのが、原田マハさんの『楽園のカンヴァス』。絵画に造詣の深い原田さんの代表作で、私も大好きな画家アンリ・ルソー(1844-1910)の絵がテーマの小説です。今回訪れるチェコのプラハ国立美術館にはルソーの自画像が展示されていて、再会を楽しみにしていましたので、ぴったりです。

『楽園のカンヴァス』は、ルソーの遺作『夢』に酷似した絵の真贋を2人の専門家が判定するという筋立てです。若き日本人研究者の女性と、名門ニューヨーク近代美術館の男性キュレーターが、伝説的な美術コレクターに極秘で呼び出されます。7日間、手がかりとなる、ある本を1章ずつ読みながら、最終日に真贋判定とその理由を競い合うというミステリー仕立ての小説です。

ルソーの人となりや作品への批評がどのようなものであったかが物語のなかに織り込まれ、主人公2人の口を借りて、原田さん自身のルソーへの高い評価が伝わってきます。どこからどこまでがフィクションなのか判然としなくなっていく展開にひきこまれ、一気に読み終えてしまいました。

帰国後、ルソーにさらに浸りたくなって、岡谷公二さんの『アンリ・ルソー 楽園の謎』を読みました。ルソーの生家を訪ねる旅から始まり、同時代人の書き残した文章や、後世の批評などもふんだんに引きながら、豊富な図版とともにルソーの生涯をたどります。

ルソーは、パリの小役人でしたが、40歳ごろから絵を描き始めます。まったくの独学で、官展には落選続きでした。そこで、誰でも出品できる展覧会にせっせと作品を出しますが、デッサンも遠近法もなっていないルソーの絵は、子どもの絵のようだと観衆の笑いを誘います。けれども、本人はどんなに嘲笑されても意に介さず、絵を描き続けます。

なかなか認められずにいたルソーですが、ピカソや詩人のアポリネールといった先鋭的な感性の持ち主たちは、その天才性を見抜きます。1908年には、ルソーを励ます夜会がピカソのアトリエで盛大に開かれます。晩年、ルソーの絵は評価が高まっていき、画商に買い取られるようになります。ところがルソーはその売り上げを片思いの女性に貢いでしまい、困窮のなか、ひっそりと亡くなります。

ルソーの人柄、絵を描くことへの真摯な態度、作品の先進性、独特な感性に心底惚れているのであろう岡谷さんの熱い筆致も、原田さんの小説以上にドラマティックです。

ところで、ピカソ主催の夜会をテーマにした「アンリ・ルソーの夜会」展が1985年に開催され、私も滋賀県立近代美術館で観ました。たいへん面白い展覧会で、ルソーにすっかりハートをつかまれた一番古い記憶だったのですが、今回、書評を書くにあたって実家にあった図録を確認したところ、監修と執筆が、まさに岡谷公二さんだったのでした! 

Youtubeで楽しくわかりやすい絵画の解説をされている山田五郎さんも、ルソーを4回にわたって取り上げられています。こちらもおすすめです。
最後に、プラハで再会したルソーの自画像を。

*アンリ・ルソー「私自身、風景=肖像画」プラハ国立美術館で2023/8/29筆者撮影
楽園のカンヴァス
原田 マハ (著)
新潮文庫 2014年
ニューヨーク近代美術館のキュレーター、ティム・ブラウンはある日スイスの大邸宅に招かれる。そこで見たのは巨匠ルソーの名作「夢」に酷似した絵。持ち主は正しく真贋判定した者にこの絵を譲ると告げ、手がかりとなる謎の古書を読ませる。リミットは7日間。ライバルは日本人研究者・早川織絵。ルソーとピカソ、二人の天才がカンヴァスに篭めた想いとは―。山本周五郎賞受賞作。 出典:amazon

アンリ・ルソー 楽園の謎
岡谷 公二 (著)
平凡社 2006年
ゴーギャンなどの画家、ジャリやアポリネールらの詩人、そしてシュルレアリストたちに見出された画家ルソー。死後ますます評価の高まるその幻視のリアルティは、彼の絵をみた者に忘れがたい強烈な印象を残す。美術史が位置づける素朴派という軛から解放し、世の無理解にあい不遇のうちに逝った天才の謎にみちた生涯と作品の秘密に迫る傑作評伝。 出典:amazon
profile
橋本 信子
大阪経済大学経営学部准教授

同志社大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程単位取得退学。専門は政治学、ロシア東欧地域研究。2003年から初年次教育、アカデミック・ライティング、読書指導のプログラム開発にも従事。共著に『アカデミック・ライティングの基礎』(晃洋書房 2017年)。
BLOG:http://chekosan.exblog.jp/
Facebook:nobuko.hashimoto.566
⇒関西ウーマンインタビュー(アカデミック編)記事はこちら



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