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『地図帳の深読み』『地図帳の深読み 100年の変遷』 (今尾恵介)

さまざまな変化を知る地図帳の面白さ

『地図帳の深読み』『地図帳の深読み 100年の変遷』
今尾恵介(著)
中学校や高校で使う教科書のうち、学校を卒業した後も保存されるものの筆頭が地図帳ではないだろうか。世界や日本の各地で起きるニュースの発生場所を知るため、処分せずにとっておいたという人も多いだろう。長く保存しておくと現代との違いも大きくなり、それを確かめるのもまた興味深い。(『地図帳の深読み』まえがきより)
『地図帳の深読み』シリーズは、地図研究家の今尾恵介さんが、地図帳の老舗である帝国書院とタッグを組んで地図帳の魅力を伝えるオールカラー本です。

今は、インターネットで簡単に便利な地図を見ることができますが、地図帳には地図帳ならではの強みがあります。宗教や環境、言語、産業などを取り上げた「主題図」が載っていたり、名産品がイラストで示されていたり、統計資料が掲載されていたりします。

本書は、海、陸地、河川、山脈というような地形に関するトリビアから始まり、境界に注目した章、地名や国名にまつわるあれこれ、昔の地図帳との比較からわかる歴史の変遷など、多彩な話題が披露されます。ひとつひとつの事実にへええ~!と驚きながら、地図帳の楽しみ方を知ることができます。

テーマ別に構成されているので、面白そうと思う項目を拾い読みしていってもいいと思います。地理の用語がたくさん出てきますが、読み進めていけばだんだんわかってきます。

いくつか印象的な項目を紹介しましょう。ぜひ本書を手に取って地図で確認してくださいね。
こんなところにも和歌山県が -日本の飛び地あれこれ
(『地図帳の深読み』第2章 境界は語る)
奈良県と三重県の県境に挟まれているのに、実は和歌山県だという地域が2ヵ所あります。都道府県レベルで最大の飛び地です。明治の廃藩置県後、府県は複雑な統廃合を繰り返しました。2か所の飛び地のうち西側の和歌山県新宮市の飛び地は、その過程で、木材の供給地であった地域とその商圏である地域を切り離さずに同じ県にした結果、生まれたそうです。

一方、大阪府と兵庫県にまたがる大阪国際空港(伊丹)の敷地内には、大阪府池田市の中に、兵庫県伊丹市の飛び地があります。こちらは一辺が20~30mほどの三角形の土地というミニミニサイズです。
君は「ユーラン半島」を知っているか
(『地図帳の深読み』第3章 地名や国名の謎)
北欧の国デンマークのある半島は、かつては「ユトランド半島」と記されていました。私もこの名前が沁みついています。「ユトランド」というのは、ドイツ語由来の呼び名なので、帝国書院では、デンマークの人々の呼び方である「ユーラン」を採用するようになったのだそうです。現地で使われている呼称を尊重する動きが広がっていますが、その一つですね。
桑畑から精密機械工業へ
(『地図帳の深読み 100年の変遷』第6章 地図帳に人々の息吹を吹き込んだ「産業」の資料)
地図帳の強みである「主題図」は、地域の産業構造の変化をダイナミックに可視化します。長野県の諏訪湖の周囲一帯の産業を地図に落とし込んだ主題図(1928、1980、2010年の3つを並列したもの)は、桑の栽培地が広がって製糸業が栄え、そののち製糸業が衰退して精密機械工業が発展するに伴って桑畑が激減するといった様子を明瞭に表しています。

なお、諏訪湖周辺のみならず、絹織物の需要減によって、養蚕業と、蚕の餌である桑の葉の栽培は全国的に衰退します。そのため桑畑の記号は、2013年にとうとう地図記号から消えてしまったということです。

この例のように、最新情報だけでなく、さまざまな変化を知ることもできるのが地図帳の面白さですね。

私も裁縫セットと地図帳は学校で使っていたものを残してあります。私の地図帳(帝国書院ではなく二宮書店のものですが)には、今はなきソビエト連邦をクローズアップしたページがあり、時の流れを感じます。息子の地図帳も残してあるので、親子二代の新旧地図帳を比べて、この約30年でどのように変化したかを見つけるゲームをしても楽しそうです。
地図帳の深読み
今尾恵介(著)
帝国書院(2019)
学生時代に誰もが手にした懐かしの学校地図帳には、こんな楽しみ方があった!100年以上に渡り地図帳を出版し続けてきた帝国書院と地図研究家の今尾恵介氏がタッグを組み、海面下の土地、中央分水界、飛び地、地名や国名、経緯度や主題図など「地図帳」ならではの情報を、スマホ地図ではできない「深読み」をする!家の奥に眠るあの地図帳、今もう一度繙いてみませんか。 出典:amazon
地図帳の深読み 100年の変遷
今尾恵介(著)
帝国書院 (2021)
地図帳の老舗・帝国書院と地図研究家・今尾恵介氏がタッグを組んだ『地図帳の深読み』 待望の第2弾!今回のテーマは、ズバリ「昔の地図帳」。100年以上の歴史を持つ帝国書院の書庫に眠る大正や戦前戦後の地図帳を、今回も今尾氏ならではの軽妙洒脱な筆致で「深読み」します! 出典:amazon
profile
橋本 信子
同志社大学嘱託講師/関西大学非常勤講師

同志社大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程単位取得退学。同志社大学嘱託講師、関西大学非常勤講師。政治学、ロシア東欧地域研究等を担当。2011~18年度は、大阪商業大学、流通科学大学において、初年次教育、アカデミック・ライティング、読書指導のプログラム開発に従事。共著に『アカデミック・ライティングの基礎』(晃洋書房 2017年)。
BLOG:http://chekosan.exblog.jp/
Facebook:nobuko.hashimoto.566
⇒関西ウーマンインタビュー(アカデミック編)記事はこちら



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