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クリティカル進化(シンカー)論(道田泰司・宮本博章)

正しい情報を見抜き、きちんと考える。

クリティカル進化(シンカー)論
「OL進化論」で学ぶ思考の技法
道田泰司・宮本博章(著)秋月りす(漫画)
今月は、クリティカルシンキング、略して「クリシン」を学ぶのに最適な入門書、私のとっておき、激推しの一冊です。

30年以上に渡って連載されている秋月りすさんの人気漫画『OL進化論』を素材に、心理学者が、ものの見方・考え方をやさしく説く本です。

もう十年以上前になりますが、大学の初年次教育のプログラムを作る仕事に注力していたころ、この本に出会いました。

もともと私は秋月さんのマンガが大好きで、『OL進化論』も全部揃えて愛読していました。本書『クリティカル進化論』を見つけたときには、『OL進化論』とクリシンが合体!?と飛びつくように買って読みました。

それ以来、ずっと教育の、そして自分自身がものを考えるさいの指針にしています。

クリティカルシンキングとは、直訳すれば「批判的思考」ですが、何かを否定的に考えたり非難したりすることではありません。ものごとを自分できちんと考えて判断することです。

『OL進化論』には、私たちが陥りがちな、クリティカルでない思考方法を、日常の場面に即して露わにしてくれるという面白さがあります。

そうした中から選ばれた四コマまんがたちを事例にして、クリシンの実際をおもしろおかしく解説してくれるのが本書です。

いくつか紹介しましょう。
飲み会で男性陣から「どんなブランドの服をもっているの?」と聞かれた美奈子さんたちOLは、口々に「ラルフローレンにカルバンクライン」「DKNYとかー、バーバリーとかー」などと答えます。

すると男性は「やっぱOLってリッチなんだね」と言います。

家に帰った美奈子さんは、独り言で次のように言います。

「8割がた無名ブランドで覚えてないだけじゃ」。
この項のタイトルは、「偏ったサンプルが誤った印象をつくり出す」。

語られていないもの、見落としているものがどれくらいあるのかを考えないことによって生じる誤りの例です。
課長さんがOLのジュンちゃんたちに向かって「土曜にパソコンの講習会があるから出るように」と命じます。

「えーっ!?」「休みなのにー」とみんな不満の声。

すると課長さんは「講師の吉田くんは本社勤務のバリバリエリート、28才独身」「将来有望な若手だ」と言います。

ジュンちゃんたちは「キョーミあるよね」「ちょっと楽しみー」と一転。

当日、OLらの前にあらわれた講師は女性だった、というオチです。
まんがのタイトルは「はかられた!」。

でも課長さんは嘘を言ってません。ジュンちゃんたちが勝手に男性だと決めつけていたのです。

本項のタイトルは「人を見るときのスキーマに気づこう」。

ここでは性役割スキーマ(暗黙のうちに特定の性別に期待する役割のイメージ)が働いていたという話です。
「××っておかしいよね、だって、ふつー、○○だよね」と自分の習慣や嗜好(志向)だけを基準にものごとを語っていないか。

「エライ人が言ってたから」正しいのか。

「大阪の人はみんなたこ焼きが好きだ」というのは本当か。

事件を起こした犯人の職業、嗜好、出身地、年齢などをことさらに強調して、「○○の人は××だ」などと「過度の一般化」をしてしまっていないか。

私たちは、未知のことに不安を抱きます。そこで、自分の既知の範囲で理解しようとしたり、ものごとを単純化することで納得しようとしたりする傾向があります。

しかし、そうしたかたくなで狭いものの見方・考え方は、対人関係や社会におけるさまざまな問題を解決するどころか、こじれさせるおそれがあります。

こういう考え方もあるかもしれない、なにか事情があるかもしれない、という柔軟な思考をすることで、困難な状況を乗り越える智恵もまた出やすくなるのではないでしょうか。

まさにいま私たちは、正しい情報を見抜き、きちんと考えるべき時機にあります。

『クリティカル進化(シンカー)論』で、めざせ、クリティカル・シンカー!

※ critical thinker=クリティカルに思考する人
同じ北大路書房の「心理学ジュニアライブラリ」シリーズから、吉田寿夫 『人についての思い込みⅠ 悪役の人は悪人?』 『人についての思い込みⅡ A型の人は神経質?』もおすすめです。
クリティカル進化(シンカー)論
「OL進化論」で学ぶ思考の技法
道田泰司・宮本博章(著)秋月りす(漫画)
北大路書房 1999年
自分のまわりにいる人のことや、身近な問題について、正確にきちんと理解し、自分の力で考え、適切な判断ができたらどんなにいいことだろう。自分のまわりにいる人に、自分の意見がきちんと言え、有意義な提案がどんどんしていけたらどんなにいいことだろう。この本は、そんなあなたに「クリティカルシンカー」になってもらうための本だ。 出典:amazon
profile
橋本 信子
同志社大学嘱託講師/関西大学非常勤講師

同志社大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程単位取得退学。同志社大学嘱託講師、関西大学非常勤講師。政治学、ロシア東欧地域研究等を担当。2011~18年度は、大阪商業大学、流通科学大学において、初年次教育、アカデミック・ライティング、読書指導のプログラム開発に従事。共著に『アカデミック・ライティングの基礎』(晃洋書房 2017年)。
BLOG:http://chekosan.exblog.jp/
Facebook:nobuko.hashimoto.566
⇒関西ウーマンインタビュー(アカデミック編)記事はこちら



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