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綾瀬はるか「戦争」を聞く(TBSテレビ『NEWS23』取材班)

「いま残しておかねば」という覚悟と思いが胸に迫る

綾瀬はるか「戦争」を聞く
綾瀬はるか「戦争」を聞くⅡ
TBSテレビ『NEWS23』取材班編
女優の綾瀬はるかさんは、TBSテレビ『NEWS23』の企画で、広島・長崎の被爆者や沖縄戦の関係者に話を聞く活動を2010年から続けてこられました。

原爆で孤児となった人、疎開船・対馬丸で教え子を引率していた先生、友人や先生を目の前で喪った沖縄ひめゆり学徒隊の生存者、婚約者や夫を亡くした人たち、みんな大切な人を失った心の傷をずっと負いながら生きてこられました。

壮絶な情景を目の当たりにした人たちは、戦後数十年、その経験を誰にも話せないでいました。

しかし、戦争終結から70余年が経ち、戦争を経験した人びとが高齢化するなかで、いま伝えておかなくては、あの惨禍が忘れられてしまうという切迫感から、つらい記憶を出して語られました。貴重な証言集です。

綾瀬さんも、広島出身で、祖母の姉が原爆で亡くなられています。証言は祖母から始まります。
“「もう誰にも言わん思うとった、この原爆の話はね」 「もう私も長く生きとらんから、あんた忘れんようにね、戦争なんか起こさんように、女性がしっかりせにゃダメなんよ。ね。女性の力で戦争を起こさんように。まあ、よう聞いてくださってありがとう。まあ、もう話さんからね。よう覚えておいてね」 「つらい話はもう終わりよ」“
広島で被爆して重傷を負った男性は、友人ふたりと町の外へ逃げます。三か月後、友人ふたりは亡くなりました。男性は戦後50年間、このときの話はしませんでした。しかし最近、こう感じるようになったと言います。
“「『お前何しよるんや、わしら死んどるのをお前が証言をしっかりして、もう戦争を起こさんようにしっかり言うとかにゃあ』って、柳田や西久保が思いよるんじゃないか思うてね。」”
当時17歳だった別の男性は、校舎の下敷きになった学童を救出しきれなかったことを、戦後40年間、語ることができませんでした。
“「原爆がどんなに、日本人、一般市民を悲惨な目に合わせたかを、語り継ぐことが敵を取ることだと思う。今は、そう思っていますよ。」”
婚約者を真珠湾攻撃で亡くした女性とはハワイを訪ねました。女性は、ハワイに着いてから、アメリカ人が憎い、と何度も口にしました。

しかし、日本軍の奇襲攻撃によるハワイの被害を知った女性は、「憎らしい」という気持ちから「悲しい」という気持ちに変わっていきます。

そして、博物館で婚約者の遺品に再会し、現地のお寺で慰霊名簿を見て、現地の歴史家に撃墜現場に案内してもらいます。いつか遺骨を収集して日本にお返ししたいという歴史家の言葉に、女性は感謝の祈りをささげたのでした。

綾瀬さんは証言者に寄り添います。時間をかけて、じっくりと関係を築きます。綾瀬さんは証言者から見ると孫の世代です。戦争を孫の世代に伝えておかねばならないという気持ちにかられて、証言者たちは、とつとつと辛い記憶を振り絞るように話します。

綾瀬さんにとっても、これは他の取材とは違い、神経が張り詰める、特別な心の準備のいるものだそうです。

爆心直下で奇跡的に生き残ったある女性は、はじめ証言を拒んでいましたが、綾瀬さんに少しずつ心を開き、やがて話をしはじめました。綾瀬さんは、今も世界で戦争が無くならないことをどう考えるかと、その女性に尋ねました。
“「あくまで腹を割って話し合えばいいんよ相手と。腹かき割りゃええんよ。話し合うこと。とことん話し合うこと。」「戦争しちゃならんぞ。誰かが『戦争する』言うなら止めにゃいけんぞ、絶対。話すんよ。とことん話すんよ、な」”
証言者の方々の「これが最後」「いま残しておかねば」という覚悟と思いが胸に迫る2冊です。
綾瀬はるか 「戦争」を聞く
岩波ジュニア新書
TBSテレビ『NEWS23』取材班編
岩波書店
爆心地で奇跡的に一命を取り留め67年ぶりに再会を果たした幼なじみ、惨状を目の当たりにして呆然とする女性、救えなかった命の重みを思い続ける男性…。広島出身の女優・綾瀬はるかが被爆者や沖縄戦の関係者のもとを訪ねます。今まで語ることのできなかった辛い戦争の記憶。今、語り継いでいきたい大切な記録。 出典:amazon
綾瀬はるか 「戦争」を聞く II
岩波ジュニア新書
TBSテレビ『NEWS23』取材班編
岩波書店
爆心直下で被爆しながら奇跡的に命をつないだ人々、被爆直後の惨状の中で生まれた命、原爆症の父を支え続けた娘…。戦争体験者の言葉を通して平和の意味を考えます。大きな反響を呼んだNEWS23「綾瀬はるか『戦争』を聞く」シリーズの書籍化第2弾。 出典:amazon
profile
橋本 信子
同志社大学嘱託講師/関西大学非常勤講師

同志社大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程単位取得退学。同志社大学嘱託講師、関西大学非常勤講師。政治学、ロシア東欧地域研究等を担当。2011~18年度は、大阪商業大学、流通科学大学において、初年次教育、アカデミック・ライティング、読書指導のプログラム開発に従事。共著に『アカデミック・ライティングの基礎』(晃洋書房 2017年)。
BLOG:http://chekosan.exblog.jp/
Facebook:nobuko.hashimoto.566
⇒関西ウーマンインタビュー(アカデミック編)記事はこちら



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