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ユリゴコロ(沼田まほかる)

この本を読む前と後では、世界が違って見える

ユリゴコロ
沼田まほかる(著)
この本を読み終えた時、何とも言えない、もやっとした気持ちになりました。森に立ち込める霧が、どんどん深くなるような…。

まず、“ユリゴコロ”って何だろう?と疑問に思いながらページをめくりましたが、読み進めるうちに、親子関係における“よりどころ”だと気付きました。

4歳の娘が、人と話さないことを心配に思った母親。相談に行った病院で医師が発した、「よりどころ」と言う言葉を「ユリゴコロ」、と聞き違えたまま大人になります。

何によりどころを見出したのか―

(本文よりp.17)
ユリゴコロ

私のように平気で人を殺す人間は、脳の仕組みがどこか普通とちがうのでしょうか。

最近では精神分裂病なども薬でかなり抑えられるようになったと、本で読みました。…

もし現実にそのような薬ができたなら、やはり私も飲んでみると思います。

殺したいから殺すというだけで、罪悪感など持たない私ですが、それでも人殺しが止まるというのなら、やっぱり飲んでみたいものです。どうしてなのか、我ながら不思議です。
ある日、虫を殺して得た快感が脳の奥深くに刻まれ、“よりどころ”になってしまった少女。その後、次々と殺人を犯してしまいます。

物語はこの少女が大人になって、子どもを産み、ある事故で亡くなった後、その息子によって見つけられた4冊の告白ノートを中心に展開されます。

自分の体験全てを記したノート。

母が書いたらしいノートを見つけた息子は、これは作り話なのか、或いは真実なのかを問いながら、震える心で読み進めます。

殺人を心のよりどころにするなんて、あまりにも常軌を逸する行為です。

しかし、その様子があまりにも自然で、本当に何とも言いようがないのですが、改めて、「人の心って目に見えないんだ」と知らされたようでした。

理解しがたい凶悪事件を知った時、異物に触れたような不快感を覚えることがありますが、その違和感の原因は、かなり根が深いところにあるのかもしれません。

この本を読む前と後では、世界が違って見えるでしょう。
ユリゴコロ
沼田まほかる(著)
双葉社
暗黒の欲望にとり憑かれ、さまよう魂。運命は、たったひとつの愛と出会わせた。沼田まほかるの小説は、身も心もからめとる―。おそるべき筆力で描ききった衝撃の恋愛ミステリー。出典:amazon

植木 美帆
チェリスト

兵庫県出身。チェリスト。大阪音楽大学音楽学部卒業。同大学教育助手を経てドイツ、ミュンヘンに留学。帰国後は演奏活動と共に、大阪音楽大学音楽院の講師として後進の指導にあたっている。「クラシックをより身近に!」との思いより、自らの言葉で語りかけるコンサートは多くの反響を呼んでいる。
HP:http://www.mihoueki.com
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