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項羽と劉邦(司馬遼太郎)

時代を知らずとも引き込まれる人物描写

項羽と劉邦
司馬遼太郎 (著)
今から約2200年前、秦の始皇帝により中国が統一されます。

「皇帝」という言葉をはじめて使ったのがこの人でした。

新しい言葉に力はなく、「皇帝」の文字だけが独り歩きしていたため、その権威を知らしめるために始皇帝は巡業します。

広大な土地に住む多くの民族。

一つの国として「法律」に縛られる生活は不満の元凶となりました。

そこに二人の英雄があらわれます。

「項羽と劉邦」は、まさにこの二人の武将の名前なのです。

将軍の血をひく項羽(こうう)は腕力をもつ大男。

戦は負け知らず、圧倒的なカリスマ性で楚軍(そぐん)を率います。

方や、農民出身で定職もなく「ならずもの」と呼ばれる劉邦(りゅうほう)。

当然、項羽を相手に苦戦します。

しかし、周知のとおり最後は劉邦が勝ち、漢王朝を築きます。

小さな村の百姓にすぎない劉邦(りゅうほう)が、なぜ勝ったのか。

また、どんな人物だったのでしょう。

(本文より)
『劉家は、ごくありきたりな農家といっていい。「劉」(りゅう)という姓を持つだけで、その家族たちは名前らしいものをもっていない。当の劉邦でさえ、邦というのは名であるのかどうか。

「パン(邦)」は、にいちゃんという方言で、ときにねえちゃんというときも、パンという。劉邦とは、「劉あにい」ということであった。
劉邦のおもしろさは、いっぱしの存在になってからも名を変えず、『あにい』のまま押し通したことである。結局、それが名前になった。それどころか、中国史上最大の名になってしまった。』

一方、項羽(こうう)は幼い頃に父親をなくし、叔父に育てられました。

一言えば十、理解するような「カン」のよさを見せます。

「このまま育てば歴史に名を残す逸材になる。」と、周りに思わす風格がありました。

時代が進むとともに、二人は少しずつ仲間を増やし、いつしか大きな勢力となりぶつかります。

ここで浮かぶ音楽は…。

ラヴェル作曲「ボレロ」です。

ラヴェル(1875-1937)はフランスを代表する作曲家です。

その作品の中でも、特に有名な「ボレロ」は、オーケストラによるバレエ音楽。

きっと誰もが耳にしたことがある曲でしょう。

スペインのとある酒場で踊りだしたダンサー。

客は見向きもしませんが、次第に魅了され、夢中になり一緒に踊りはじめます。

小太鼓のソロから始まり、ボレロのリズムにのせて、一つまた一つ…、と楽器が加わります。

そして徐々にヒートアップし、熱狂の渦に巻きこんでいく。

まさに、「項羽と劉邦」が仲間を引き連れ、大陸を闊歩する場面が目に浮かびます。

ラストシーン、戦いに敗れ、いよいよ身動きが取れない項羽(こうう)に自国である「楚」(そ)の歌が聞こえる―

四面楚歌の場面が描かれます。

(本文より)
『あれは楚歌(そか)ではないか

項羽は跳ね起きた。武装をして城楼にのぼってみると、地に満ちた篝火(かがりび)が、そのまま満点の星につらなっている。

歌は、この城内の者がうたっているのではなく、すべて城外の野から湧きあがっているのである。…(中略)

しかも四面(しめん)ことごとく楚歌であった。

―わが兵が、こうもおびただしく漢に味方したか。

とおもったとき、楚人の大王としての項羽は自分の命運の尽きたことを知った。』
劉邦は「何も入っていない大きな袋」とあります。

その懐の深さに、様々な能力をもった男が集まってきたのは事実です。

混乱の時代が求めたのは、そんな「人材たち」が活躍できる国を作る劉邦だったのか、と考えずにはいられません。

この時代を知らずとも自然に引き込まれたのは、司馬遼太郎のわかり易い説明と、身近にかんじる人物描写の賜物に思います。
ラヴェル/ボレロ
クリュイタンス指揮・パリ音楽院管弦楽団
言葉では表現できないほどの美しい音色、 爽やかなパリの風を感じる歴史的名演奏です。
項羽と劉邦
司馬遼太郎 (著)
新潮社
紀元前3世紀末、秦の始皇帝は中国史上初の統一帝国を創出し戦国時代に終止符をうった。しかし彼の死後、秦の統制力は弱まり、陳勝・呉広の一揆がおこると、天下は再び大乱の時代に入る。――これは、沛のごろつき上がりの劉邦が、楚の猛将・項羽と天下を争って、百敗しつつもついに楚を破り漢帝国を樹立するまでをとおし、天下を制する“人望"とは何かをきわめつくした物語である。 出典:amazon
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植木 美帆
チェリスト

兵庫県出身。チェリスト。大阪音楽大学音楽学部卒業。同大学教育助手を経てドイツ、ミュンヘンに留学。帰国後は演奏活動と共に、大阪音楽大学音楽院の講師として後進の指導にあたっている。「クラシックをより身近に!」との思いより、自らの言葉で語りかけるコンサートは多くの反響を呼んでいる。
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