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藤田 由布
産婦人科専門医 レディースクリニック サンタクルス ザ シンサイバシ

婦人科医が言いたいこと 医療・ヘルシーライフ 2025-04-03
「低用量ピル」ってなに? その① 〜ピルのかんたん基本情報〜

近年の日本はオンライン診療などの普及もあり、低用量ピル(OC:Oral Contraceptive 直訳では避妊薬)を服用する女性が増えつつあります。

低用量ピルによって高い避妊効果が期待できるし、また、副効能として日常生活における月経に伴う不快感を軽減してくれます。

そして、低用量ピルを内服することにより経血量が減り、月経日数も4日間くらいですむようになり、また、月経周期を整えて月経不順をも改善してくれます。

*世界で最初に承認されたピルEnvoid 
経口避妊薬として低用量ピルが世界で初めて承認されたのは、1960年にアメリカで発売された「Enovid」という名前のピルです。※1)

日本では1999年にピルが初めて承認されました。※2)

事実、日本は世界から40年も遅れたのです。
世界での低用量ピルの服用率を国連人口部の統計(2022年版)からみると、婚姻・同棲関係にある15〜49歳の女性のうち避妊法として低用量ピルを服用している割合は、2015年時点でたったの0.9%です。

先進国29カ国における低用量ピルの平均服用率は22.4%です。

一方、日本のピル服用率は2018年時点で2.9%と極めて低い服用率です。※3)

このように日本では低用量ピルの社会実装が進んでいない中、2019年以降の市場データによるピルの推定服用率は以下のとおり少しずつ増えてきました。

2019年3.7%
2020年4.5%
2022年6.1%

このように、5年未満の間に約2倍に増加しています。※4)
女性アスリートの月経周期に伴う体調の変化は個人差が大きいです。

そして、生理周期ごとのコンディションの変化は、スポーツパフォーマンスにも多岐に影響を与えることが分かっています。

女性アスリートにおいては、月経随伴症状に対する治療のみならず、長期的な月経周期調節目的でピルを服用するケースは多いです。

低用量ピルや黄体ホルモン製剤はドーピング禁止物質に該当しないと明記されています。※5)
OCとLEP(Low dose Estrogen Progestin)について

*月経困難症治療薬ピルの「ドロエチ」
Oral Contraceptive 「OC」(低用量ピルの中でも避妊薬として位置付けられるもの)の主たる使用目的は「避妊」です。

長期にわたる研究から、OCには月経困難症軽減をはじめとする副効用が明らかにされました。

*月経困難症治療薬のフリウェル
アメリカ産婦人科学会(ACOG)はガイドラインの中で避妊以外のたくさんの良い効用を挙げています。

日本においては使用目的を避妊ではなく月経困難症の治療とするLEP製剤(低用量ピルの中で月経困難症治療薬に位置付けられるもの)が2008年に初めて保険薬として登場した経緯があります。

*経口避妊薬(避妊ピル)のファボワール
OC(経口避妊薬の低用量ピル)は避妊を目的として自費診療で処方します。

一方、LEPは月経困難症や子宮内膜症に伴う頭痛など疾患の治療目的として保険診療で用いる薬剤です。保険診療で処方するので3割負担となります。

両者は概念としては異なるものの実質的には同一の薬剤ですが(※6))、海外では一括してOCとして使用されています。

中身が同じですので、早い話が、避妊薬のOCも月経困難症治療薬のLEPも効果は同じです。
ピルは太りません!
ピルはコワイ!太る!なんてことは決してありません。

また、ピルを飲んでいたら将来的に妊娠しにくい身体になるなんてことも全くのウソです。

むしろ、ピルを内服していると、子宮と卵巣が良い状態で保てるので、将来的に妊娠しやすい身体になります。

低用量ピルをずっと飲んでいれば、全く飲んでいなかった人に比べて、同じ30歳になったときの卵巣の機能がより良い状態のことが多く、多くの女性が「妊活がスムーズにうまくいった」と言います。

長期間にわたりピルを内服しても全く問題ありませんし、むしろ早くからピルで子宮と卵巣を労ってあげる方が、後々にとっても良いのです。

その2「ピルの種類について」へ続く
 
【参考文献】
※1:Elizabeth S Watkins. ‘How the pill become to lifestyle drug’: the pharmaceutical industry and birth control in the United States since 1960. American journal of public health. 2012. 102. 8. 1462-1472.
※2:厚生労働省「低用量経口避妊薬(ピル)の承認を可とする中央薬事審議会答申について’」厚生労働省HP
※3:United Nations, World Contraceptive Use 2022. United Nations HP
※4:PILL FACTBOOK, 2014 IQVIA JPM2018〜2022年12月低用量ピル月次売上より
※5:女性アスリートヘルスケアに関する管理指針 日本産婦人科学会/日本女性医学学会(P37)
※6:公益社団法人 日本産婦人科学会 / 一般社団法人 日本女性医学学会「OC・LEPガイドライン2020年度版」
profile
全国で展開する「婦人科漫談セミナー」は100回を超えました。生理痛は我慢しないでほしいこと、更年期障害は保険適応でいろんな安価な治療が存在すること、婦人科がん検診のこと、HPVワクチンのこと、婦人科のカーテンの向こう側のこと、女性の健康にとって大事なこと&役に立つことを中心にお伝えします。
藤田 由布
産婦人科専門医
レディースクリニック サンタクルス ザ シンサイバシ 院長

大学でメディア制作を学び、青年海外協力隊でアフリカのニジェールへ赴任。1997年からギニアワームという寄生虫感染症の活動でアフリカ未開の奥地などで約10年間活動。猿を肩に乗せて馬で通勤し、猿とはハウサ語で会話し、一夫多妻制のアフリカの文化で青春時代を過ごした。

飼っていた愛犬が狂犬病にかかり、仲良かったはずの飼っていた猿に最後はガブっと噛まれるフィナーレで日本に帰国し、アメリカ財団やJICA専門家などの仕事を経て、37歳でようやくヨーロッパで医師となり、日本でも医師免許を取得し、ようやく日本定住。日本人で一番ハウサ語を操ることができますが、日本でハウサ語が役に立ったことはまだ一度もない。

女性が安心してかかれる婦人科を常に意識して女性の健康を守りたい、単純に本気で強く思っています。

⇒藤田由布さんのインタビュー記事はこちら
FB:https://www.facebook.com/fujitayu
レディースクリニック サンタクルス ザ シンサイバシ
〒542-0085 大阪府大阪市中央区心斎橋1-8-3 心斎橋パルコ10F
TEL:06-6253-1188(代表)
https://shinsaibashi.santacruz.or.jp/

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