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あみ りょうこ
版画家 ninjacco

AMIのAMIGO アート・芸術 2021-02-22
Vol.33 タマーレスのこととスピード感のこと 、の巻

オラー、こんにちは。あみりょうこです。一月は行く、二月は逃げる、三月は去る、とはよく言ったもので、年が明けてからもビュンビュンと日々が過ぎていくような気持ちです。

気が付けば節分も過ぎてスーパーマーケットではチョコレートを見かけます。

先月、「ロスカ」のパンについて書きました。なので、今月はその続き(そう、まだ続きがあるのです)を書こうと思っていました。

ロスカで、ベイビージーザスの人形を引き当てた人が2月2日にタマーレスをみんなにごちそうする、というくだりです。

タマーレス(単数形ではタマル)は、トウモロコシの粉(マサ)を使って作られた食べ物で、「ちまき」のようなものだと想像してもらえればいいと思います。
みどりのがバナナの皮で、黄土色のがトウモロコシの皮です。
マサ(トウモロコシの粉)をトウモロコシの皮の上に広げて、具を詰めます。
これはタマーレスづくりのワークショップに参加したものなので、外でつくったので薪をくべて調理しましたが、もちろん家の中でつくる人もいます。
出来立てのタマーレス。

マサの中に様々な具が入っていて、それをトウモロコシの皮やバナナの皮で包んで蒸されてできた食べ物です。野菜や肉が入ったおかずタマーレスや、レーズンや練乳などが入った甘いスナック感覚タマーレスもあります。地域的やつくる人によって特徴があるので、ところ変わればいろんなタマーレスがある、というかなり文化的な食べ物の印象があります。

簡潔に話すとそんな感じです。おお、たった1段落で書けてしまいました。これをいつもの通りうじゃうじゃと書くつもりだったのですが、ある日1通のメッセージがWhatsapp(ワッツアップ)というアプリに届いて、結構衝撃的な後味を残していったので、急遽そちらを書くことにします。

日本では圧倒的にLINEがメッセージアプリとしては強いですが、メヒコではこのWhatsappを使っている人が多かったので私も使っていました。

ピコーンとなるので誰かなと思えば、いつも空港に行くときにお世話になっていたタクシーの運転手さんでした。まだ日が出ていない朝早くでも、毎回遅れずにやってきてくれて、道中身の上話などをしていた信頼の運転手さんです。
メヒコのタクシー事情ですが、3つのパターンが考えられます。一つ目は街の中でたまに見かけるタクシーステーションから乗車する、二つ目は流しのタクシーを道でつかまえる、そして三つ目は知っているタクシー運転手の携帯に連絡して予約する、です。

メキシコシティなどでは、最近では流しのタクシーよりもUber(ウーバー)の利用が多い印象を受けます。(車内でお金のやり取りがないのが安心だからですかね。)

こちらが利用したい時に連絡することは会っても、運転手さんの方からメッセージが来ることはまずないので、「なんだろう?」と不思議に思いながらメッセージを開くと、

「いついつに、○○(場所)から○○(場所)まで日本人が乗車した際に、カバンとパスポートをタクシーの中に置き忘れた模様。誰か心当たりがあったら知らせてください。」

という内容で、タクシー運転手の連絡先が書かれてありました。同じ時刻くらいにまた別の知り合いからメッセージが届き、開くと同じ内容でした。
そちらのメッセージにはパスポートの写真が添付されてあり(パスポート番号などは隠されていましたが)、まぎれもなく日本のパスポートで、おそらく二人は「オアハカみたいな小さな町だから、日本人同士はお互いを知っているだろう、あるいは、人づてに話が行くだろう」ということで私に転送してきたのだと思います。

もちろん私がその日本人を知るわけはないのですが、「あの人なら知っているかも!」というオアハカでお世話になった友だちの顔がポーンと思い浮かび、深く考えずとりあえずそのメッセージを転送しました。

すると、すぐさま折り返しのメッセージがあり、「その日本人見つかって、無事に本人のもとにパスポートも返ったみたいよ!」という内容で、「おお~!よかったなぁ!その人!」を胸をなでおろしました。

そして、「なんか知らんか?!」とメッセージをくれた2人にも「どうやら見つかったみたいですよ」と返信しました。最初のメッセージをもらってから、わずか15分くらいの間の出来事です。

オアハカでは、あまりうれしいことではありませんが、デモやストの活動の中で「ブロケオ」と呼ばれる、いわゆる道を封鎖してしまうということがしばしば起こります。

なので、渋滞が発生したりバスやタクシーが大幅に遅れたりするということもあり、そういう交通情報をシェアするためのwhatsappやFacebookのグループが存在するようです。

そして、手続きなどはのんびりとやたら時間がかかるというイメージのメヒコなのですが、携帯のメッセージの返信はめちゃくちゃに早い人が多いという印象があります。

MEME(メメ、英語ではミーム。この場合はニュースなどをパロディにして面白おかしく、模倣してネタみたいにされた画像のことを指します。)なども無限に存在して、それをリツイートしまくっているといるというイメージを持っているのですが、とにかくその速さと数が驚きなのです。何が言いたいかというと、インターネットを使った拡散力がものすごいということです。

whatsapp自分たちで情報をシェアして問題を回避するというという姿勢と、抜群の拡散力、そして「困ってる外国人に早くパスポートを返してあげないと!」というオアハカならではの人情により、「日本人、オアハカでパスポートをなくすの巻」は解決されたわけです。

しかしまぁ、あとで落ち着いてからよくよく考えると、パスポートの顔写真ページがネット上に出回ったのは良くないのでは?!安全の問題とかプライバシーとかあるしな……と情報の扱い方について本当に良かったのか??という疑問と不安のようなものがわいてきてぐるぐると考えてはいるのですが、もし自分がパスポートを忘れた身に成り代わってみると、オアハカという日本大使館もない小さな町でパスポートを紛失するなんて絶望の極みのような気持ちになるだろうな、と思います。

そして、もしそれが出てこなければどこかで悪用されているのでは……と不安でたまらなくなるはずです。だから、それが返ってきたことは本当に奇跡的でありがたい気持ちになると思います。それと同時に、インターネットすごいなぁ、と舌を巻きます。

何でもできるというのは逆に怖いことでもあるのですが、みんなでうまく使えばこんなに効果的な結果をもたらしてくれるのだというのを見たような、そんな気持ちです。

それと、海外で貴重品を落として無事に帰ってくるのは本当にラッキーなケースだと思います。この人も、オアハカ以外のところで同じようにパスポートをなくしていたら、手元に戻ってきたかどうかはわからないと思うので、本当に安心したことでしょう……。

おせっかいと優しさと、テクノロジーとプライバシーの、というようにいろんなものの正しいボーダーが考えるほどよくわからなくなってきますが、私は「ビバオアハカ!(オアハカ万歳!)」というあたたかい気持ちになっています。

このエピソードを読んだ率直な感想が気になるところです。

それでは、春はもうすぐな予感を感じさせる日々ですね。とはいっても季節の変わり目。あたたかくお過ごしくださいね。
*写真はすべて昨年度以前のものです。
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profile
あみ りょうこ
版画家

1982年大阪生まれ、兵庫育ち。メキシコのオアハカ州での暮らしを経て、2020年から日本に。 ものつくりが好きで、オアハカで版画に出会い制作を続けている。
HP:https://amiryoko.wordpress.com/
instagram:ninjacco
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