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あみ りょうこ
版画家 ninjacco

AMIのAMIGO アート・芸術 2020-12-21
Vol.31 ポンチェが恋しい、の巻

オラー、こんにちは。あみりょうこです。天気が良く小春日和も続いていたので日本の秋、最高!と薄着で過ごしていたのですが、12月も半ばに来て寒さが急に増してきました。

オアハカでは、寒い時期は年末から年始にかけてくらいだったのですが、朝晩や陰にいると寒いという感じでした。ぶるぶる震えるような、あるいはしんから冷えてくるような寒さではなかったので、北風のぴゅーぴゅーという音を聞いて戦々恐々としているわけです。
最近、オアハカが非常に恋しいです。

会いたい人がいるとか、行きたいお店があるとかを抜きにしてその理由を述べるなら、私は「日本は歩くのが面白くない」という点をあげたいです。街中や繁華街を歩けばお店や裏路地があったりで面白いのですが、家周辺の道路を歩いたとて何というか、想定内のことしか起こらないという種類の面白みのなさです。
小雨が降り始めたらどこからともなく傘やかっぱを売り歩くおばちゃんが出現したり、定刻になるとホットドックの屋台を引っ張る青年たちが列をなして現場に向かってぞろぞろ歩いてきたり、小腹がすいたなぁと顔をあげるとフライドポテトの屋台があったり、だみ声の鳥の鳴き声みたいなのが聞こえてきたと思うとビニール製の取りのおもちゃがバサバサと羽を動かし飛んできて、そのそばのおじさんがにやけながら鳥の声を出せるおもちゃを吹いていたり、あるいはお姉さんに肩をたたかれてストールいらんかね?と声をかけられたり、というようなことが日本の道路では歩いていて起こらないのです。
せいぜい目にするといったら、自転車をふらふらこぐような人がいたり、宅急便のお兄さんがせわしなく走っていたりといった光景くらいのものです。

オアハカという町は町の中心がとても小さく、歩いてどこにでもたどり着けるので車を持たないものには本当に優しいというか、住みやすい町でした。

そして、○○屋さんという小さな商店があるので、何かが必要な時、あるいは見てみたい時は歩いて行って実際に品を見せてもらったり手に取ったり、お店の人の説明を聞くことだってできたのです。

「すぐそこやから」の感覚で歩き回って一日の終わりに携帯の歩数計を確認すると一万歩を超えている日はざらでした。(あの無駄に歩き回る日々は今思うと健康的でした……。しみじみ。)
目的地に向かって黙々と歩こうと思っても、道路の向かいで、あるいは前方から、あらゆるところでいろんなことが起こっています。それを横目にさっそうと歩いたり、たまに釘づけになって足を止めたり、または自らがそこに向かって行ったり、とまぁ、にぎやかなのです。

私が一番最初にメヒコに行った時に、大きな市場に行った時に高々と積み上げられた果物や、ものを買う人々、とにかく人も物も激しく動いるのをみて衝撃を受けました。

「生きているなぁ~」「LIVEやなぁ」とその色であったり鮮度であったり人間であったりの生命力や土に根付いた感じが五感を通して自分の中に押し寄せてくる感じがしたのです。
市場だけではなくて、メヒコの町はそういう風にいろんな光景が目の前に現れるのですごく面白くて、突っ込み気質の強い関西人は突っ込みたくなる瞬間の連続かもしれませんが、最強に面白いと感じるのが、そのような出来事が「起こっている状況がある」ということです。いいとかだめで分けたり判断するのではなく、「存在している」「ある」。
日本にはそれがあまり感じられないと最近思います。家にテレビがないので、欠けている情報もあるかもしれませんが、なんかこうこぞって「正しくない」ものを見つけてそれをぼこ殴りにするような、そういう印象を受けます。

なんか知らんけどいろいろなことがある状況を許している(あるいはその威力がすごすぎて制御不能なのでしょうか?!)というのは、ある意味でとても寛容で、メヒコの懐の深さはそういうところにあるのかもしれません。

なんかめちゃくちゃであり得へん状況が目の前にあるのを見ると、「あり得へん」とは所詮自分たちが勝手に決めつけたというか、予想した考えでしかないと思い知らされます。だから「ある」を「あらせている」ってすごいなぁ、と思うのです。そんな存在を許容した社会にはやはりたくましさを感じます。
このコラムでもいつも書いているように、帰ってきて久しぶりにすむ日本はやっぱり美しくそして便利で、ああ~、自分の国でよかったなぁと誇らしく思います。

その一方で遠くになってしまったメヒコに対しての深い愛情を再確認している自分がいるのにも気が付きます。やっぱり、離れてみないとわからないことはありますね。そして、そのあとだからこそ近くにいる人がより大切に感じたりできていることに感謝です。

書き進めているうちに郷愁の念のようになってしまったので、無理やり軌道修正です。最初に書こう!と思っていたのはタイトルにもある「ポンチェ」のことです。
「ポンチェ」とは、くだものがたくさん入った冬の定番暖か飲み物です。グアバやシナモンやパイナップル、レーズン、プルーン、テホコーテ(小さいリンゴみたいな形の果物)などいろいろなものを入れてつくられていて、飲むと甘くて体があったまります。

ポンチェはクリスマスのころによく飲まれるものらしく、12月に入ったころから街を歩いていると、この「ポンチェ売り」のカートによく出くわします。
ポンチェ売りを見かけると「くだものたくさん入れてくださいね」何て言いながら、大きな鍋からお玉ですくってもらいます。こういう小さな雑談ができるのも道端で物を買う時の楽しみかもしれません。
まだ全然年末という感じがしませんが、ぼんやりしているうちにあっという間に2021年がやってきそうな予感です。

今年はコロナ一色でしたが来年は少しずつ良くなっていくといいなぁ、と願いを込めて2020年ラストのコラムといたします!

本年もお付き合いいただいてありがとうございました。どうぞみなさま、健康で良いお年をお迎えくださいね。

*写真はすべて昨年度以前のものです。
works
【今月の作品】
先月紹介した、必死のパッチで刷りまくったA4サイズに加えて、今年は卓上カレンダーもつくりました。(サイズははがきサイズです。)

まだ若干残りがありますので、購入を希望される方がいらっしゃいましたら、ryoko019@gmail.comまたは、Instagramのアカウント@ninjaccoのページへDMください。

よろしくお願いいたします。
profile
あみ りょうこ
版画家

1982年大阪生まれ、兵庫育ち。メキシコのオアハカ州での暮らしを経て、2020年から日本に。 ものつくりが好きで、オアハカで版画に出会い制作を続けている。
HP:https://amiryoko.wordpress.com/
instagram:ninjacco
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