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あみ りょうこ
版画家 ninjacco

AMIのAMIGO アート・芸術 2019-03-12
Vol.11 ある食堂、の巻

こんにちは。最近はすっかり暑くなっているオアハカです。

日本は7月・8月の夏のころが暑いので、世界的に暑いのはその時期だと思いがちですが、オアハカが一番暑くなるのは3月・4月・5月くらいなのです。

ところが、今年はなんだか例年よりも暑くなるのがはやいような……、すでに灼熱の日中です。

日本の湿気を含んでまとわりつくような暑さとは違い、乾燥していて強い日差しがじりじりと焦げ付くような暑さです。

石造りの建物の中や陰に入ると、冷房なしでもひんやりとした空気を感じられるので、湿気の暑さよりもましかもしれません。

メヒコはカトリック大国なので、セマナサンタ(イースター、復活祭)が近づいてきていて、関連の行事もちらほらと始まっているようです。

オアハカ郊外の村ではカーニバルがかなり大々的に行われているところがあり、オアハカの知名度が上がるにつれて、それらの伝統的なお祝いは観光客などにも人気のようです。

足を運んだ友達の話では、そのフォトジェニックな画を求めてたくさんのカメラマンが世界中からきていたということでした。

そんなことはつゆ知らず、新しく引っ越した家でどうやって印刷をする環境を整えるか、などということばかり考えていた、カーニバルとは程遠い私の暮らしぶりです。知っていれば、このコラムのネタにでもなったのに、と悔しがっても後の祭り。

ということで、いっそそれらのネタとは対極のことを書いてみようと思いついた次第です。おそらくどこにも取り上げられていないであろう食堂の話をしたいと思います。

私がたまに行くカフェまでの道に、めちゃくちゃ細い入り口(幅1メートルもないくらい)の建物があります。

よく見ると、食べ物を提供しているらしく奥に向かって矢印があり、メニューらしきものもかかっていて、いつもものすごく気になっていました。

怪しいというよりも、こんなところにお店の入り口があるなんて、という感じなのです。
先日友達とぶらぶら歩いていた時に、お昼ご飯はどうしようという話になりました。ちょうどその小さな入り口の「店」を通り過ぎたところで、冗談半分でそれが候補に挙がりました。

その友達というのは日本人なのですが、逆にメヒコ人の友だちと歩いていたとしても「入ろう」とはならなかったような気がします。物好きな友達は持っておくべきだな、と感謝しつつ、その細い入り口に初潜入です。
人一人が何とか通れるような通路を歩いていくと、突き当りには「PASE USTED AL FONDO(奥までお入りください)」の看板が。それならば、と突き進み折れ曲がってみます。
てっきり、奥には大きな食堂のようなスペースが広がっているのかと思っていたら、まさかのドア。

しかも真っ赤で、閉じられているのです。もはや、ちょっと怪しいから完全に怪しい、という雰囲気が漂っていますが、ここまで来て引き返すなんてだめだ、と恐る恐る近づいて、

「こんにちは~!」

と声をかけてみると、

「Voy!(ボーーーーーーイ:今行きますの意)」

と若干低めのおばちゃんの声が返ってきました。しばらくシーンとした後、おばちゃんが来忙しそうに出てきました。

「ここで食べることはできますか??」

と、もはや「NO」といわれる覚悟で聞いてみると、「いらっしゃい~、ちょっと入って。」と赤い扉を開けてくれました。
小さな机に椅子がぽつんとあるだけで、食堂の雰囲気はここへきても漂ってきません。案内されるがままに椅子に腰かけて忙しそうに動き回るおばちゃんを見守りました。

エプロンを外して、カギをもって、

「ちょっと、配達に行ってくるから、メニューみて待ってて。すぐに戻ってくるから!」

と言い残して出て行ってしまったのです。おばちゃんはこの商売で自ら配達業務まで行っていて、そして、初めて来た外国人2人を残して出て行ってしまう、この感じはまぎれもなくメヒコ。

観光客の数が増えるにしたがって、ヒップスターたちが好きそうな洒落たカフェやお店が増える一方で、この感じが自然に存在している感じは、本当に面白いよな、と思わずにやにやとしてしまいます。

おばちゃんが出て行ってしまった後、ほかのお客と思しき青年がやってきて、おばちゃんは配達に行ってしまったみたい、と告げると、

「わかった。じゃあ、おばちゃんの携帯に直接連絡してみる」

とのこと。おばちゃんは携帯でも注文を受けているのでしょうか?! おばちゃんがが帰ってきたら聞きたい事まみれです。
とりあえずは、手渡されたメニューを見ながら時間をつぶしました。店の名前は”el rincón del sabor”(味の角)、日本語で言うならば角にあるから「かどや」的な名前でしょうか。
しばらくするとおばちゃんが「お待たせ~」とか言いながら帰ってきて、青年が来たことを伝えました。すると、もう電話がかかってきてしっかりとオーダーを受けてきたとのことでした。たくましい。

そして、キッチンの目の前にちょこんとあるカウンター席に案内しなおされました。お店というよりは家です。なんだか知らない家に遊びに来てご飯を食べることになったかのような感じです。

おばちゃんいわく、そこは朝7時から昼の2時くらいまで朝ご飯や軽食を提供しているお店なのでした。

主に近所のオフィスなどからの注文を受けているので、ほとんどは持ち帰りで、おばちゃん自らが配達したり、電話で注文を受けてお客さんが出来上がったころに取りに来てくれるシステムなのだそうです。日本のお弁当屋さんの朝食バージョン、という感じのようです。
私は、オレンジジュースとエントマターダというトマトソースに揚げたトルティージャが浸かっているというものです。オレンジジュースに関しては、注文してから作ってくれました。ちょうどオレンジが切れていたのに、

「あ!でも今配達に行った時にオレンジ売りのトラックとすれ違ったからちょっとひとっ走り買ってくる!!」

と再び店に我々二人を残してわざわざオレンジを買いにいってくれてから絞ってくれたスペシャルなオレンジジュースになりました。

おばちゃんは、オアハカの郊外の町の出身らしいのですが、何十年か前に町の中心に家を買い、今はこうして簡易食堂をしたり、部屋を学生さんに貸したりしているそうです。

食事は家庭の味で食べるとほっこりとしておいしかったですが、おばちゃんとああでもない、こうでもないと話しながら過ごした時間は、町のレストランでは味わえない、とてもゆるくて素敵な時間だったな、と思うのです。

それ以来、その細い入り口の前を通るたびに、おばちゃん、今日も元気に食堂を切り盛りしているかな、と思いをはせています。

こういう人間味が溢れていて、なんか一生懸命で真っ直ぐで働き者のメヒコ人に出会うたびに、本当に素敵な国だなぁ、と思うのです。

それでは、また来月お会いしましょう!!
works
【今月の作品】
Tシャツです。EL BORRACHO(酔っ払い)Tシャツのコーヒーバージョンをつくりました。

酔っ払いも多いけれど、コーヒー屋さんが乱立している今日この頃のオアハカ。メヒコでもコーヒー豆が栽培されているのをご存知でしたか??

オアハカに来たらぜひとも特産のコーヒーやチョコラテを楽しんでみてくださいね。
profile
あみ りょうこ
版画家

1982年大阪生まれ、兵庫育ち。メキシコのオアハカ州での暮らしを経て、2020年から日本に。 ものつくりが好きで、オアハカで版画に出会い制作を続けている。
HP:https://amiryoko.wordpress.com/
instagram:ninjacco
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