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あみ りょうこ
版画家 ninjacco

AMIのAMIGO アート・芸術 2018-11-13
Vol.7 死者の日のおまつり、祭壇について語る、の巻き。

オラー、こんにちは!!もう今年も11月に入りました。メヒコでは、10月の終わりから11月の2日まで「Día de los muertos」(死者の日)というお祭りでした。

昨年公開された映画「リメンバーミー」の影響もあり、日本でも「死者の日」と知名度が上がってきているのではないかと思います。実際、今年は日本からの観光客もめちゃくちゃ多かったみたいです。

死者の日というのは日本のお盆のようなお祭りで、年に1度帰ってくるご先祖様を迎えるために家族で集まるというものです。

日本でも最近は空前のハロウィンブーム??のようで仮装したりする人が多いと聞きますが、メヒコも例にもれずものすごい勢いでハロウィンの雰囲気が混じってきているように感じます。

街の中や市場でセンパスチル(マリーゴールド)やクレスタデガジョ(鶏頭)の花を見かけるようになったら「ああ、死者の日が近づいているなぁ」という気持ちになります。
これらの花を使って祭壇が作られます。
これは今年初めて見た祭壇です。日本では仏壇が家にありますが、メヒコでは死者の日の期間中に特別に祭壇を設置します。

食べ物や果物、お酒類、花、パペルピカドという紙の旗などで装飾を施して、故人の写真を飾ります。写真は遺影というよりは普通のスナップショットだったりいろいろです。

ひな壇のように何段も作っているところもあれば、テーブルに布をかけただけの簡易なものもあります。また地方によってもお供え物が変わるようなので、その様式は様々です。
近づいてみるとこんな感じです。バナナやミカン、リンゴなどの見なれたものに交じって、妙なパンがあるのにお気づきでしょうか……?(というか、そもそもパンと認識されるのか?!)
じゃーん!!こちら、アップ画像です。

パンに人の顔が埋め込んであるという強烈なこのパンは”Pan de muertos”と言って死者の日のパンです。

メヒコ国内の他地域では丸いパンに十字架の模様が施された形状のものが一般的に流通しているみたいですが、オアハカではこのように顔が埋め込まれたものや、人型のパンであったりとかなり独特です。

死者の日のパンは、祭壇に飾られますが、もちろん食べることもできるので死者の日が近づくとパン屋さんではこのパンで占領されている様子も見受けられます。
しかもサイズもいろいろ!きれいに整頓されて、なんだかすでにただのパンとは思えない愛着感がわいてきますね。パンを並べるだけの係がいるというくらいにどんどこ焼きあがってきます。
こちらは、ご近所さんにいただいた死者の日パン。ご近所さんの実家は少し離れた村だそうなのですが、このようにオアハカ州内でもところ変わればパンの形状も味も変わるのでおもしろいです。

メヒコは民芸品にも言えることですが、パッと見ただけでは気づかないけれど見れば見るほど実はディテールにこだわりがあったり、その割には作りが甘かったりで本当に愛くるしいというか憎めない代物がたくさんあります。

死者の日の祭壇も、公共の場に設置されているものから個人で各家庭に設置されているものと本当に様々でいろいろな工夫が凝らしてあるので本当にみていて飽きません。

もちろん、やみくもに飾っているわけではなくセンパスチルの花弁は死者が帰ってくるときに迷わないように、とか、お水を置くのは帰ってきた死者たちがのどの渇きをいやすように、などそれぞれに意味もあります。

それを踏まえたうえでさらにウィットにとんだユーモアを足してくるあたりにメヒコ人の死生観を垣間見られるような気がします。
市場の中で見かけた祭壇。たくさん並べられたガイコツの女の子が、もはやひな人形の三人官女に見えてきますね……。
これはホテルの前に設置された祭壇。オアハカをテーマにしているのだそうです。
ガイコツが祭壇の中で墓参りをしている図、というかなりシュールな光景は見ているとふっと笑ってしまいます。(しかも写真撮影してる?!)

メヒコでは、「死」も人生の一部だと考えられているところがこういう形でユーモアとしてあらわされていて、こんな感じでお墓も飾り付けられて家族がお参りにくるのだから、最初観た時はさすがにめんくらいました。

お墓にガイコツを飾るなんて、日本の墓場では考えたこともなかったですし、他人の墓石の上にどっかり座っておしゃべりしている様子などは、ご、ご、ご先祖様にばちが当たらへんのか?!?!といらぬ心配をしてしまったものでした。

でもこうして家族に大切に覚えてもらって、一緒に過ごすという時間を持つ習慣が日本から遠く離れたこのメヒコにもあるということにいつも不思議な気持ちになります。

文化や風土が変わればこんなにも表現の方法が変わりますが、根底にあるものが同じだということにとてつもない親近感を覚えます。
もちろんおまつりなので、町中にガイコツのメイク人があふれたり、コンパルサとよばれる仮装行列などをいたるところで見かけたり、そのユニークさとフォトジェニックさゆえたくさんの観光客が訪れてものすごいお祭り騒ぎになります。

たぶん、そういう情報はたくさんあると思ったので、今回は「祭壇」に注目するという写真の華やかな色とは対照的な渋めのオアハカを紹介してみました。

死者の日が過ぎて、街を飾っていたこれらの祭壇もさっさと姿を消してしまいました。

死者の日の期間中に街の中に漂っていたあの熱気のようなそわそわした感じは、やっぱりご先祖たちが帰ってきていたのだなぁ、とすっかり静かになった街を歩きながら思うのでした。

それではまた来月お会いしましょう!!
works
【今月の作品】
死者の日の期間中、今年はFeria Gráfica Oaxaca(フェリアグラフィカオアハカ)というグラフィックフェスティバルに参加しました。

さすが、版画王国オアハカ。たくさんのかっこいい版画家やアーティストがオアハカやメヒコ国内から参加していて、展示・販売・ワークショップと盛りだくさんの2日間でした。

死者の日で町を訪れていたたくさんの海外の方にも来ていただいて、とても楽しかったです!!オアハカではこのような文化・アート系のイベントもたくさんあるので、来られた方はそちらのチェックもお忘れず!!
profile
あみ りょうこ
版画家

1982年大阪生まれ、兵庫育ち。メキシコのオアハカ州での暮らしを経て、2020年から日本に。 ものつくりが好きで、オアハカで版画に出会い制作を続けている。
HP:https://amiryoko.wordpress.com/
instagram:ninjacco
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