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藤田 由布
産婦人科医 レディースクリニック サンタクルス ザ シンサイバシ

婦人科医が言いたいこと 医療・ヘルシーライフ 2024-12-12
「ブルマ」って、なんだったんだ?!

あの屈辱的で滑稽なフォルムのパンツ型体操着。

今から思い返しても「あれ、一体なんだったんだ?」と思わずにいられない。

ブルマはいつの間にか絶滅したが、1990年より前に生まれた日本の女性たちにとっては「当たり前に着ていた」体操着である。

あの当時、誰もが「なんか変だけど、まあ、決まりだし・・・みんな着てるし・・・」と思っていたが、国民全体が一種の催眠術にかけられていたかのような状態だった。
このコラムで述べることは、あくまでも個人の感想である。

「やっぱオカシイよね」と皆んなが感じていた事象を、あたかもオモシロ珍歴史かのように葬るのは、泣き寝入りのような後味悪い敗北感のような感覚に陥る。

アハハと笑って「そんな時代もあったよねー」で済ましていいのか。

戦争だって人種差別だって、過去の事実を無きものとして隠蔽していいわけがない。

あの陵辱的なブルマによって、無抵抗に傷つけられた少女たちがいたはず。

笑って済ましていいわけがない。

大袈裟なのは百も承知である。

思春期の日本人女子全員がブルマを履いていた黒歴史を、私はちょっとだけ紐解いてみたいと思ったのである。
ブルマは、日本独特の女子の体操着
80年代〜90年代当時の私は、ブルマは当たり前の体操着と思っていたし、世界中どこの国でも女子の体操着はブルマだと信じていた。

はみパン。

ブルマ世代の女子なら皆んな一度は経験したパンツがブルマからはみ出てしまう不名誉な事象。

はみケツ。

臀部の一部がブルマからはみ出てしまう雪辱的な事象。

恥部から陰毛が飛び出すなんて、汗顔の至りである。

お尻ラインは当然のごとく露わになり、思春期の女子なら当たり前に隠したい太ももは足の付け根から全て露わになる。

生理の時は地獄そのもの。ナプキンの形や経血漏れが気になって体育の授業どころじゃない。
体育の授業以外でも、制服スカートの中は四六時中ブルマを履いて過ごした青春時代。

ずっとブルマを履いて鼠蹊部を締め付けていたせいで、お股ラインのゴム跡が刺青のごとく黒ずんでいる。

我々ブルマ世代の女子は、思春期まっさかりの大勢の男性の目前で、尻も股も太腿も露わに下半身を曝け出していたのだ。

男子生徒や男子教師から性的な声掛けがあっても、堪えて耐えてきた。

あの当時、アメリカから日本の高校に1年間留学にきていた女子生徒が言ったことが忘れられない。

「こんな卑猥な格好、私には出来ない」と。

彼女の一言で初めて知らされた。

女子生徒の体操着「ブルマ」は日本固有のもので、かつ、変な衣装なのだ、と。
ブルマはなぜ消えたのか?
なんでもっとはやくに絶滅しなかったのだ、の声が聞こえてくる。

2024年の今でこそ、インターネットでブルマを検索したら、性的用途を対象としたページしか出てこない。

昔から、そういう視線が向けられる代物であったに違いない。
「ブルセラ」を覚えているだろうか。

女性が着用したブルマやセーラー服を、性的好奇心の対象として、日本の変態らがこぞって高額払って手に入れようとしていた時代があった(今も高額販売があるそうだ)。

性暴力という犯罪は世界中どこの国においても一律存在する。

しかし、痴漢や変態においては日本が圧倒的に多いという論文を見た。

それもそのはず、日本の全ての女性の半数以上が痴漢被害を受けた経験をもつ。

使用済みのブルマやセーラー服が平然と販売されていたことは、変態を育成してしまう土壌が日本に教育現場にも許容されていた、ということなのだろうか。

2000年代にはいって、やっと、ようやく、ブルマが絶滅して男女ともに体操着は短パンに統一された。

言い方変えれば、ブルマという女子体操着は、約50年近くにわたって学校教育内で君臨していたということだ。

露出を強制されたブルマ時代、今なら露出し過ぎたからお前は痴漢に遭うんだと叱られる時代。

昔も今も、日本の女性はことごとく抑圧されているのだ。
「女性解放」という名目のブルマ
いつからブルマが日本の教育現場に出現したのだろうか。

ブルマが女子生徒の体操着として日本の導入されたのは、1900年代初頭に遡る。

もともと、1800年代中期にアメリカ人女性のアメリア・J・ブルーマー夫人によって、女性や子供が動きやすい衣服として開発されたパンツである。

その当時の女性の衣服は、コルセットで腹を締め付けるような拘束型の下着の上に大きなスカートを纏うのが慣わしであった。

これでは動きにくいとして、女性が運動しやすい服装に開発され、ブルマーが浸透していった背景がある。
女性が動きやすい格好でスポーツできるようになれる、という「女性解放運動」のシンボル的な衣装が、ブルマなのだ。

その当時、日本の女性は袴(はかま)を着る習慣があり、足首まで布で覆われた姿では運動するには不向きとされていた。

そこで「アメリカの女性が履いているブルマなら動きやすくなるだろう!」、と導入されたのだ。

膝下まで膨らんだニッカポッカ風のブルマが採用され、その後、1960年代にかけて次第に丈が短くなって尻を包み込む「ちょうちんブルマ」が定番となった。

ちょうちんスタイルがあっという間に密着型ブルマに姿を変えた。

このオカシな密着型ブルマが30年間も日本の教育現場で君臨したわけである。

いやいやいや、何故なんだ、なぜあっという間に密着型に変貌を遂げたんだ・・・

しかも、なぜ女子生徒だけが、あんな露出の激しい卑猥な格好を強いられ続けたのだろうか。
「オカシイ」、に長年なぜ気付けなかったのか
長年の間、教育現場においてブルマという体操着が女性を苦しめていたことになぜ気付けなかったのだろうか。

教育現場に携わっていた大人達が、少女たちを守るためにずっと声をあげなかったのは、なぜなのだろうか。

ブルマだけではない。

いまだに、日本のおかしな校則は学校内に蔓延っている。

生徒たちが首を傾げる「なんで?」に対して、納得いく理由を説明できているだろうか。

「校則だからダメなものはダメ」と言われ続けた若者は、同じことを次の世代に言って逃れるのが習慣となり、社会のため人の幸せのために動ける人間を育成できるのだろうか。

学校内も、家庭内も、組織内も、そしてあらゆる人間社会においても、理不尽で不透明な古い秩序や慣習を、人が幸せになるために変えていける力をつけることって、どんな教科より大事なことなんじゃないのだろうか。

朝の登校時に校門前で、
下着チェックする必要ある?
眉毛整えた子を別室授業にする必要ある?
靴下は白一色である必要ある?
リップクリームにうっすら色が付いてる生徒を殴る必要ある?
男子生徒は丸刈りにする必要ある?

(私は姉の古いお下がりの薄ピンクの印がついた靴下を履いていたら、先生にテニスコートに連れて行かれて大勢の前で首を掴まれて平手ビンタ2回とグーで頭を3回殴られた。裕福でない私は靴下を何枚も持っておらず、その日はその靴下しか無かった背景など言える隙もなかった。テニス部顧問のK先生、覚えていますか)

「規則は規則だから」という逃げ腰文句で変化を棚上げにする時代は、もう終わりにしませんか。
日本にいる学校の先生は計何名いるのか。
数十万人はいるはずだ。

誰か声をあげた教員はいたのか?
人間を育む教育現場において、保守派も革新派も関係ない。

誰かが声をあげることによって、学校の理不尽な校則を少しはマトモに向上できたはずだ。
制服を着たい人、私服を着たい人、選択権がある意義
あの当時、自認の性と生物学的な性の不一致で苦しんでいた子供達にとっても、とても残酷だったに違いない。

最近の研究で明らかになっていることとして、制服自体が生徒を不幸にしているという症例が多々あり、社会的に悩ましいジレンマがいまだにある。

性別違和(昔は性同一性障害といった)で悩む若者の診療に携わる者として、数々の症例を目の当たりにし、配慮に欠ける制服をみるたびに「女子はリボン」とかいうインセンシティブな現状には心が痛くなる。

制服が生徒を苦しめる事象がいち早く改められるよう心から願います。

制服を選択制にするだけで、若者の自殺を減らせる可能性があります。

どうか、1人でも多くの学校関係者にこの事実を知って頂きたいです。

最近は男子も女子も、スカートかズボンか好きな方を選択できる学校が増えてきたそうですね。

そこで、選択制を考慮してあげて下さい。

制服を着たい人は着る、私服が良い人は私服、誰も傷つけない選択権があるだけで苦しむ若者が減ります。

教育に携わる大人たちに考えて声をあげてほしい。

誠実に自分がやるべき仕事(教育)、それが誰かの幸せにつながっていることこそが、仕事(教育)の本質であるということを。
profile
全国で展開する「婦人科漫談セミナー」は100回を超えました。生理痛は我慢しないでほしいこと、更年期障害は保険適応でいろんな安価な治療が存在すること、婦人科がん検診のこと、HPVワクチンのこと、婦人科のカーテンの向こう側のこと、女性の健康にとって大事なこと&役に立つことを中心にお伝えします。
藤田 由布
産婦人科医
レディースクリニック サンタクルス ザ シンサイバシ 院長

大学でメディア制作を学び、青年海外協力隊でアフリカのニジェールへ赴任。1997年からギニアワームという寄生虫感染症の活動でアフリカ未開の奥地などで約10年間活動。猿を肩に乗せて馬で通勤し、猿とはハウサ語で会話し、一夫多妻制のアフリカの文化で青春時代を過ごした。

飼っていた愛犬が狂犬病にかかり、仲良かったはずの飼っていた猿に最後はガブっと噛まれるフィナーレで日本に帰国し、アメリカ財団やJICA専門家などの仕事を経て、37歳でようやくヨーロッパで医師となり、日本でも医師免許を取得し、ようやく日本定住。日本人で一番ハウサ語を操ることができますが、日本でハウサ語が役に立ったことはまだ一度もない。

女性が安心してかかれる婦人科を常に意識して女性の健康を守りたい、単純に本気で強く思っています。

⇒藤田由布さんのインタビュー記事はこちら
FB:https://www.facebook.com/fujitayu
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