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藤田 由布
産婦人科医 レディースクリニック サンタクルス ザ シンサイバシ

婦人科医が言いたいこと 医療・ヘルシーライフ 2025-01-09
海外では「緊急避妊ピル」が無料の国もたくさんあります

まず冒頭に言いたいのは、望まない妊娠を回避するのは、女性の当たり前の権利であるということ。避妊は人権です。日本ではその当たり前の権利でさえ女性に与えられていないという事実を、皆に知ってほしいのです。

女性が、薬局で緊急避妊薬に購入できない国は、日本だけです(2024年現在、国内145店舗で試験販売中、大阪府下ではたった6店舗)。
緊急避妊ピルは、「アフターピル」とか「モーニングピル」とも呼ばれています。

緊急避妊ピルは3日(72時間)以内の性行為後の緊急措置として行う内服(1錠を1回のみ)の避妊方法です。1日1錠ずつ毎日内服する一般の「避妊ピル」とは違います。

・コンドームが破れてしまった
・レイプ被害を受けた
・避妊に失敗した

といった非常時に、女性が婦人科を受診して緊急避妊ピルを服用することで、約85〜90%以上の妊娠を回避することができます。

避妊が失敗した時点から早く内服すればするほど、効果は高いです。
どんなに注意しても、避妊に失敗することは誰にでも起こり得ます。

毎日のように顔面蒼白で焦った女性たちが藁をも縋る思いで婦人科へやってきます。

「避妊に失敗してしまった、ごめんなさい」と。

謝らないでください。

まずは、緊急避妊ピルの存在を知っていてくれて、ありがとう、よく気付いて来院してくれましたね。

それよりも、日本国内において、どこの薬局でもすぐに緊急避妊ピルにアクセスできないこの現状を、私たち医療者側が謝りたい気持ちです。
事実、コンドームでさえ85%程度の避妊効果です。

つまり、ちゃんとコンドームを使っていたとしても、100人中15人は妊娠するのです。

望まない妊娠をどんなに頑張って避妊していたとしても、妊娠する時は妊娠するのです。

つまり、全ての女性が、すぐにいち早く「緊急避妊ピル」にアクセスできることは、女性の当たり前の権利として男女共に認識すべきことなのです。
成分や作用とは?
緊急避妊ピルのうち、日本で広く使われているのは「レボノルゲストレル錠1.5mg」です。

この薬の成分は、黄体ホルモン薬です。
経口避妊薬のトリキュラーやアンジュ、ラベルフィーユ、ジェミーナ(月経困難治療薬)に含有されている黄体ホルモンも、レボノルゲストレルです。

例えば、低用量ピルのジェミーナに含有されているレボノルゲストレルは0.09mgです。

一方、「緊急避妊ピル」のレボノルゲストレルは1.5mgなので、やや強めのピルの成分の一部です。

緊急避妊ピルは、一般の低用量ピルの約15倍ほどの黄体ホルモンを一度に内服して体内での作用を高めているということです。だからと言って身体に害があるわけではありません。
WHO(世界保健機構)は「緊急避妊ピルを内服してはいけない年代などない。安全なピルである。」と断言しています。

緊急避妊ピルは短期間で排卵を遅らせ、子宮内膜(受精卵が着床する部分)の状態を変化させ、精液が動きにくい粘液に変化させて、妊娠の成立を防ぎます。

ここで大事なのは、緊急避妊ピルはあくまでも緊急的に用いるもの、ということです。

普段の避妊法には向きません。日常的に毎日1日1回内服して避妊するのは「低用量ピル」です。

「アフターピルがあるから普段から避妊をしなくて大丈夫」ということでは決してありません。
また、コンドームの使用は、蔓延するクラミジアや淋菌など性感染症を予防するために大変重要です。

ここで困った問題は、日本のアフターピルは世界では類を見ないほど高額ということ。

日本で認可されている緊急避妊ピルは、レボノルゲストレルのみです。

ネットで販売しているマドンナ(タイ製)などの緊急避妊ピルは日本では認可外のピルです。
日本だけ、なぜ緊急避妊ピルが入手しにくいの?!
緊急避妊ピルは全国どこの婦人科でも処方してもらえますが、女性にとって敷居はまだまだ高いのが現状です。

日本政府は2020年10月7日、「緊急避妊薬」について医師の処方箋がなくても薬局で購入できるようにする方針を固めましたが、一転してこの決議は頓挫してしまいました。

2022年4月28日の厚生労働省の会議では結論が出ず、またも議論は棚上げ持ち越し。

多くの政治家や医師から「医師の処方箋なしで緊急避妊ピルが薬局ですぐに入手できるのは時期尚早だ!」と、反対があったからです。

この国は地獄か・・・・その時、私はこう思いました。
この男性の政治家たちの得意げな顔を見てください。

誰が反対しているのか。

誰が女性の人権を迫害しているのか。

緊急避妊ピルは、性暴力被害を含めた「望まない妊娠を回避する」のが目的です。

望まない妊娠を回避することは、女性の基本的人権です。

これは世界共通なはずです。

日本では、この当たり前の権利が同じ国の昔の異性によって侵されているのです。
ようやく試験的に薬局販売を開始
小さな一歩ですが、やっとです。

2023年11月28日、全国のたった145店舗の薬局で、緊急避妊ポルの試験的販売が開始されました。

医師の処方箋なく店頭で適正に販売できるか、という試験導入です。

全国でたったの145店舗で導入したとて、何が変わるのだろうかという疑問が残ります。

大阪府下でたったの6店舗。当初はGoogle検索しても情報がヒットせず、正確な情報にありつけるまでの道のりが困難、これは一体だれのためのシステムなのだと感じざるを得ませんでした。

実際に私のクリニックに来院される患者さんに言われたことが刺さります。

「どこの薬局が調べてもよく分からないし、たったの数店舗で販売してると言われても、、、こっちは急がなきゃならないし・・・」

ごもっともです。
皆さんはご存知でしたでしょうか。

欧州やアジアなど世界の86カ国では、この「緊急避妊薬」は医師の診察なしで購入することができます。

日本の遅れがずっと前から指摘されていましたが、国内にいる日本の女性たちは「自己の権利」について知る由もなかったわけです。

それもそのはず、知らされてなかったのですから。

緊急避妊薬のノルレボは、禁忌や副作用は少なく安全な薬であり、WHOやアメリカ産婦人科学会でも産婦人科の診察は不要だとしています。

WHOでは、「緊急避妊ピル 」は必要とする全ての女性がアクセスできるようにするべき薬とも言っています。
日本のアフターピルの相場は約1万円
緊急避妊は、保健適応ではないので自費診療となります。

保健適応だと3割負担ですが、自費診療だとやはり高めです。婦人科クリニックによりけりですが、相場は8000〜13000円くらいです。正規品からジェネリックのものもあります。

高額ですよね。
私は来院された女性に「避妊は当たり前の権利、海外では無料の国もたくさんあります、日本ではいまだに婦人科まで来てもらわなければならない現状に申し訳なく思っています」と伝えます。

妊娠を回避するだけで、こんな高額を強いられる国に情けなく思います。

現状がなかなか変わらないなら、普段からピルを内服しておくのが賢明かもしれません。一般の経口避妊ピルなら、1ヶ月の費用はだいたい2000円前後です。

今ではオンライン診療も普及してきましたが、毎日たくさんの女性からオンラインで相談があります。

日本でも多くの女性がピルにアクセスしたい、と思っているのです。
アクシデントから72時間以内は効果あり
緊急避妊ピルは、1回1錠飲みきりタイプが殆どです。
処方してもらったら、できる限り速やかに服用してください。

性交後72時間以内に服用しても完全に妊娠を阻止できない場合もあります。

また、服用後2時間以内は、大量の飲酒などで嘔吐しないように注意してください。嘔吐によってお薬の吸収が十分にできない場合があります。

早い方で3~4日、通常7~10日後に生理のような出血が数日間あれば、今回の妊娠は回避されたことになります(ただし着床出血の場合もあるので不安な場合は必ず婦人科を受診してください)。

ただし、2週間経っても生理のような出血がない場合は受診をご検討下さい。尿検査や経腟式エコー検査で、妊娠の有無や状態を確認します。

緊急避妊ピルを一度でも服用すると、生理の周期が乱れる場合があります。また、生理不順が継続する場合もあるので、そういった場合は、かかりつけの婦人科でご相談ください。

困った時は、私のようなオバチャン医師の所に安心して来て下さい。どんなことがあっても、私はあなたの味方です。
緊急避妊ピルの副作用はあるの?
緊急避妊ピルの副作用は、吐き気や嘔吐、頭痛などがおこる場合があります。

一時的なものですが、心配な時は、吐き気止めを一緒に処方してもらいましょう(市販薬の制吐剤でも大丈夫です)。

緊急避妊ピルの服用後2時間以内に吐いてしまった場合、かならず医師に相談して下さい。ピル服用後2時間を経過してからであれば大丈夫です。

緊急避妊薬(アフターピル)は、胎児奇形や、殆どの場合は将来の不妊の原因にはなりません。

避妊に失敗したまま放置し、望まない妊娠が成立してしまうと、子宮内操作を伴う中絶手術をせねばなりません。

服用後に避妊のない性行為をすれば、妊娠の可能性はあります。

緊急避妊ピルの服用後、避妊の成功が確認できるまで、コンドームを使うなどの避妊法をちゃんと行うのが大事です。
人工妊娠中絶は、いまだに「手術」が主流だが・・・
2023年4月に内服薬(経口薬)による中絶方法も日本で承認されました。

この経口中絶薬は「メフィーゴパック」という薬で、妊娠およそ9週までなら使用できます。

海外の先進国では10年以上前から認可され運用されています。

内服方法としては、できるだけ早くに1錠目の「ミフェプリストン」を内服し、その36〜48時間後に「ミソプロストール」4錠を左右の歯茎と頬の間に30分入れて口腔内で溶かします。

作用としては簡単にいうと、ミフェプリストンで妊娠維持に必要な黄体ホルモンを抑制し、その次にミソプロストールで子宮を収縮させて胎嚢を排出させます。

後半で内服するミソプロストールは、下腹部の痛みがやや強くなります。胎嚢が子宮から排出される際に最も強くなりますが、排出後は痛みが軽快します。
ただし、痛みには個体差があります。胎嚢が排出されてからも数時間の痛みが持続することもあります。

胎嚢が排出されるまでの間、入院せねばなりません。

内服薬といえども価格は10万円ほど(フランスでは人工妊娠中絶内服薬は無料です)。

この内服方法による人工中絶を選択する場合も、手術と同様あるいはそれ以上の費用がかかります(フランスは無料です)。
もし、内服方法で胎嚢排出がうまく成功しない場合は、手術を施行せざるをえません。その場合は手術費用も上乗せされるので、約2倍の費用がかかってしまいます。

「内服でうまく中絶できなかった場合は手術を施行しますので倍額となります」と説明をうけるため、「では日帰りで出来る手術を選択します」と殆どの女性がいいます。
中絶手術は、手術後に感染が起こったり、子宮を傷つけて子宮穿刺(子宮に穴があくこと)や腹膜炎などを起こさなければ、将来の妊娠に影響ありません。

とはいえ、やはり妊娠中絶の手術は、子宮や母体にどうしても負担をかけてしまうものです。

手術がきちんと終われば子宮も元の状態に戻ります。ただし、中絶手術の精神的なストレスからホルモンバランスが乱れたりして、卵巣機能に異常が出る可能性は完全否定できません。
普段からの避妊は大事
「緊急避妊ピルで妊娠を回避できた」、という安堵の次は、経口避妊薬を服用するようお勧めします。

経口避妊薬(低用量ピル、避妊ピル、OCとも呼ばれる)は女性が自ら自分の身を守ることができる確実な避妊方法です。正しく服用していれば、ほぼ100%の避妊効果を継続します。
日本で認可されている経口避妊薬には、マーベロン(ファボワール)、トリキュラー、シンフェーズ、ラベルフィーユ、アンジュがあります。

また、月経困難治療薬(保健適応)は、ドロエチ(ヤーズの後発品)、ヤーズフレックス、ジェミーナ、フリウェルなどがあります。

経口避妊薬も月経困難治療薬も、呼び名は違えど全て低用量ピルで避妊効果があります。どれも作用機序は同じ、それもそのはず、中身がみんな同じですから。
低用量ピルについてはこちらもご覧ください
→今さら聞けない、ピルって本当に安全なの?

ただし、ピルは性感染症の予防にはなりませんし、子宮頸がんの予防にもなりません。

定期的な子宮頸がん検診は大変重要です。

過去2年以内に子宮頸がん検査をしていない人は、婦人科で「頸がん検査していないです!」とご相談くださいね。
パートナーが避妊に協力してくれない・・・という時は?
まず、そんなポンコツ野郎は捨ててしまいましょう。

ポンコツ野郎に比しないほど、あなたの存在は数百倍以上の価値があります。

大事なことは、イヤなのに性的なことを無理やりしたり、避妊に協力しないことは「暴力」ということを知っておいてください(海外では当たり前の認識です)。

我慢しなくてよいのです。しかるべき医療機関や民間団体にいつでも相談できます。

覚えておいて下さい。避妊の協力を拒否する行為そのものが「性暴力=犯罪」ということ。
避妊は女性の当然の権利です
世界保健機構(WHO)は、こう断言しています。

「緊急避妊ピルは、服用できない医学上の病態はなく、服用できない年齢もない」と。

また、ちゃんと緊急避妊ピルの安全性を明言しており、以下のように勧告しています(2018年)。

「意図しない妊娠のリスクを抱えたすべての女性および少女には、緊急避妊にアクセスする権利があり、緊急避妊の複数の手段は国内のあらゆる家族計画プログラムに常に含まれねばならない」と。
いいですか、全ての女性には避妊する権利があり、避妊ピルは私たち全ての女性が簡単にアクセスできるべきものなのです。

避妊のことなどちゃんと知りたい時は、私たち産婦人科医がしっかりお伝えします(日本の学校教育ではまともな性教育が未だほぼ皆無なのも残念です)。

初めてだからちょっと不安だなぁ、、、と感じるのは当然のことですので、婦人科では対面でちゃんと説明致します。どうぞ安心してお気軽に婦人科をお訪ねくださいね。
profile
全国で展開する「婦人科漫談セミナー」は100回を超えました。生理痛は我慢しないでほしいこと、更年期障害は保険適応でいろんな安価な治療が存在すること、婦人科がん検診のこと、HPVワクチンのこと、婦人科のカーテンの向こう側のこと、女性の健康にとって大事なこと&役に立つことを中心にお伝えします。
藤田 由布
産婦人科医
レディースクリニック サンタクルス ザ シンサイバシ 院長

大学でメディア制作を学び、青年海外協力隊でアフリカのニジェールへ赴任。1997年からギニアワームという寄生虫感染症の活動でアフリカ未開の奥地などで約10年間活動。猿を肩に乗せて馬で通勤し、猿とはハウサ語で会話し、一夫多妻制のアフリカの文化で青春時代を過ごした。

飼っていた愛犬が狂犬病にかかり、仲良かったはずの飼っていた猿に最後はガブっと噛まれるフィナーレで日本に帰国し、アメリカ財団やJICA専門家などの仕事を経て、37歳でようやくヨーロッパで医師となり、日本でも医師免許を取得し、ようやく日本定住。日本人で一番ハウサ語を操ることができますが、日本でハウサ語が役に立ったことはまだ一度もない。

女性が安心してかかれる婦人科を常に意識して女性の健康を守りたい、単純に本気で強く思っています。

⇒藤田由布さんのインタビュー記事はこちら
FB:https://www.facebook.com/fujitayu
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