HOME コラム 前のページへ戻る

藤田 由布
婦人科医 医療法人 大生會 さくま診療所(婦人科)

婦人科医が言いたいこと 医療・ヘルシーライフ 2021-02-18
女性医師が増えると、婦人科診療はもっと変わる

初っ端から、今回のコラムのタイトルから脱線。たまには、こんな話もしてみたい。

女性蔑視の言動や態度の輩にやたらと敏感に反応してしまう。アカンと分かっていても物申したくてイライラする、学習しないアホな私。

石器時代かのごとく男尊女卑が甚だしい日本社会に定住して、はや6年。随分と慣れてきたと自負しているが、2020年は2回キレた。2回で済んで上出来だ、とさえ思えて薄ら笑みさえでてくる。

1回目のキレた事件というか事故の対象は、飲み屋で隣に座った初老の男性。白髪混じりで賢そうな口ぶりで楽しく陽気に話しかけてきた。会話は理論的で建設的だったのだが、ことあるごとに「日本というのはどうせこうなんだよ」「日本は、こういうもんなんだよ」と口癖のように言う。

ちょっと横入りした私も悪いのだが、思わず「どうせこうなんだ、で議論を片付けることは同意していることにもなりますね。」と茶々を入れてしまった。

するとその初老男性は、「なんだ女のくせに偉そうに。」ときたもんだ。

人生の半分以上を海外で生活してきた私には、受け入れようのないセリフが飛び込んできた。「女のくせに」なんて言われる筋合いはない。
そこから先の展開はご想像にお任せします。私もその初老も、その飲み屋を出禁となってしまったのは言うまでもない。かたじけない。

2回目にキレた事故の対象も、初老の同僚男性。詳細は省くが、突然に声を荒げて「偉そうな口を利くな」ときたもんだ。

日本の初老男性は、女性に真っ向から意見をぶつけられることに慣れていないのだろう。議論が劣勢になると、論争を放棄して「うるさい、女は黙れ!」と一方的に強制終了してくるのだ。

喧嘩をせずして議論を交わす術を習得したいものだが、ここで大変役に立つのが昔に読んだ上野千鶴子の本。正確には遙洋子著「東大で上野千鶴子にケンカを学ぶ」。
上野千鶴子氏は言う。「相手にとどめを刺しちゃいけません。あなたはとどめを刺すやり方を覚えるのでなく、相手をもてあそぶやり方を覚えて帰りなさい。そうすれば、勝負は聴衆が決めてくれます」と。

ほんまモンのケンカは違う。

上野千鶴子氏が話題になった最近の出来事といえば、2019年4月に行われた東大入学式での祝辞である。

上野氏は東京医大の入試で女子学生が減点されていた例の件を挙げて、「がんばってもそれが公正に報われない社会」があり、女性差別が社会に蔓延る現実をのべた。

上野氏の議論の展開は、不公正の羅列で終わらず、「がんばったら報われると思えること自体が本人の努力の成果ではなく環境のおかげであり、恵まれた環境と恵まれた能力とを、自分が勝ち抜くためだけに使わないで。」と、続くのである。
上野千鶴子氏、女性医学学会に参上
2020年の女性医学学会の講演会プログラムが発表されてから、これはライブで拝みに行かねば、と数ヶ月前から「絶対見に行く印」を付けていた。上野千鶴子氏の講演会は、私にとっては聴講というよりフェスのライブを見に行く感覚だった。

上野千鶴子氏の歯に衣着せぬ話が実にオモシロく、そして爽快なのである。彼女は別に何も新しいことは言ってないのだが、しゃべりに迫力がある。なぜなら、産婦人科医が口籠ってる事をハッキリ言語化してくれるからだ。

女性医師が増えると、

月経対策が変わる
更年期対策が変わる
避妊法・中絶法が変わる
出産法が変わる
不妊治療が変わる


・・・これだけのことが変わるのだ。

いや、私はもっと変わると思っている。「もっと早くに発見して治療すれば良かった」という現状も改善される。

婦人科で女性医師が増えると、女性が婦人科へ行きやすくなり、効果ある治療がより多くの女性に届くのである。
婦人科に女性医師が増えると、婦人科医療が変わる
産婦人科の領域は、もちろん男性医師が活躍する現場でもある。診療する側の人間からハッキリ言える。素晴らしい医師は男女関係なく沢山いる。

さて、患者さんからの視点ではどうだろう。

実際に、少なく見積もっても9割以上の女性が、婦人科に行く時は女性医師がいる婦人科をネットで探しているのだ。しかも必死に。

女性が、緊張を鎮めて安心して通える婦人科は、誰がなんと言おうと女性医師のいる婦人科だ。なぜに?なんて愚問である。

そりゃそうだろ。医師だろうが異性の前で、何の抵抗もなく大股広げて陰部を曝け出せる女性は、私は一人も知らない。

婦人科って、なんか敷居が高いのよね。

この言葉の裏には、女性の羞恥心や屈辱感や恐怖心や煩雑な心理状態など、色な意味が込められている。
もし、近所の婦人科が感じの良い女性医師だったならば、我慢の限界まで月経痛やオシモのトラブルを放置せずに早期治療していたかもしれない。

もし、近所の婦人科が話しやすい女性医師だったならば、更年期障害を放置せず、早くに治療開始してもっと活き活きとした生活を送っていたかもしれない。

日本の医師達が、本気で女性の生活の質を向上しようと努力していたならば、日本の婦人科領域は女性医師がもっと増えていただろう。

女性が安心して通える婦人科は、女性医師でなくてはダメと言っている訳ではない。そして、誤解のないよう何度も言うが、男性の婦人科医がダメなんじゃない。

しかしハッキリ言えるのは、女性医師が増えると、多くの女性がもっと婦人科へ通いやすくなることは動きようのない事実ということ。
月経対策も変わっていきます
最近、若い女性が生理痛を放置して、いつの間にか重症な子宮内膜症を発症しているという症例を多くみかける。毎月のように生理痛に悩まされ、イブやバファリンなどの鎮痛薬でなんとか凌いでいるという女子生徒さん、痛み止め薬だけでは根本的な解決は何も出来ていないのだ。

また、女性は自分の月経量が多いか少ないか考えたことがなく、「月経量なんて他人と比べたこと無いから多いなんて思ってもみなかった」と言う貧血気味の過多月経女性が多い。

現代女性の10分の1が子宮内膜症にかかってしまうと言われる昨今、今のうちに月経量をきちんとコントロールしておかないと、将来的に不妊症や卵巣癌のリスクを抱えることになる。

また、生理が止まってしまったり、周期がバラバラの生理不順も決して放置してはならない。放置すると、疲労骨折や不妊症のリスクとなるのだ。現に今、不妊治療の現場では内膜症や生理不順を放置した女性が多く占めている。

でも、婦人科って、なんか怖い・・・何されるんだろう・・・男の先生だったら恥ずかしい・・・と不安になる気持ちがあるかもしれない。

でも、今は女性医師だけで対応している婦人科クリニックも増えてきている。

そして、生理のしくみ、簡単な治療のこと、婦人科の病気のことを分かりやすく説明してくれるスタッフも増えてきている。

問診で必要と判断した場合は、内診検査をすることもある。診察上で不安なことなどは前もってスタッフに言っておくと、ちゃんと女性の味方として真摯に対応する婦人科も多くなってきている。
保健体育の先生、保健室の先生へ
若年層で問題になっている子宮内膜症や月経困難症や子宮筋腫などの疾患について知りたい方は、私まで個人的に是非ご連絡ください。

ピルのこと、避妊薬は月経を軽くするので女性の味方であること、おしものトラブルのこと、なんでもござれです。

ご希望があれば、いろんな婦人科疾患についてなどを分かりやすく解説します。もちろん私のボランティア活動の一環ですので、いつでも大歓迎です(なるべくお互い都合の良い時間を作るようにしますね)。  
「氷河期世代の女性へ」これからは更年期対策も変わります
更年期症状で我慢してる女性の力になりたい、と最近心底思います。

昭和40年代後半生まれは、最も人口が多い年齢層です。更年期障害を放置することは経済損失に換算しても想像を絶するほどでしょう。

最近、私どもの婦人科外来では氷河期世代の我慢を強いられてきた女性の患者様が、限界を超えた状態で診療にいらっしゃるようになりました。

1970年代生まれの女性の皆さま、もう十分に我慢してきたはずです。

これ以上、もう我慢しないで下さい…。全ての女性に訪れる更年期。とはいえ、皆んな同じ症状ではありません。千差万別、更年期はいろんな形で訪れます。

急激に女性ホルモン(エストロゲン)が減少していくのですから、自律神経が乱れたり、体調を崩したり、集中力が落ちたり、精神的に参ってしまったりするのは当然のことです。決して自身のせいではないので、自分を責めたりしないで下さい。

40代後半で生理がどんどん重たくキツくなる方も、放置せずに婦人科にいらして下さい。最近は、どんどんと新しい治療方法が出てきてます。

世界一の長寿となった日本女性。平均寿命87歳。

この長い人生を自分らしく健康に過ごすため、女性にとって有益な情報と知恵を、是非たくさん知って欲しいです。

女性による女性のための女性のミカタの診療、もっと広がって欲しいです。
緊急避妊ピルは、いつでもどこでも入手可能にするべき
日本政府は2020年10月7日、「緊急避妊薬」について、医師の処方がなくても薬局で購入できるようにする方針を固めました。これは、性暴力を含め、望まない妊娠を防ぐ目的です。

日本でも、やっと、です。皆さんはご存知でしたでしょうか。欧州やアジアなど世界の86カ国では、この「緊急避妊薬」は医師の診察なしで購入することができ、日本では国際的な遅れがずっと前から指摘されていました。

緊急避妊薬のノルレボは、禁忌や副作用は少なく安全な薬であり、WHOやアメリカ産婦人科学会でも産婦人科の診察は不要だとしています。

WHOでは、「緊急避妊ピル 」は必要とする全ての女性がアクセスできるようにするべき薬だとしています。

ここで次の写真を見てください。某テレビ番組でのショッキングな映像です。

ここでは私見を控えます。この写真にあるコメントを見て、どう思うか、どう感じるか、考えてみて欲しいのです。
日本の産婦人科を牽引するお偉い男性医師の先生方の見識が、2021年現在もこの程度なのです。
日本産婦人科学会代議員 女性医師たったの6%
日本の産婦人科学会の代議員の先生方のリストが毎年公表されています。ドン引きされることを覚悟で言いますが、私は毎年数えているのです、女性医師の数を。

毎年選出される代議員の総数は368~370名。そのうち女性医師の数は、2018年度は29名、2019年度は30名、2020年度は23名。

学会における代議員の女性医師の割合は6%。要するに日本の女性診療は94%は男性医師に牽引されているのである。

世界で最も女性の医師が少ない国、日本。女性医師の割合は、OECDで日本は最下位です。
数年前に「医学部入試で女子生徒だけ点数を引かれていた事件」は、皆さんの記憶に新しいと思います。

世界最大のシンクタンクとも言われる国際機関であるOECD(欧州経済協力機構)で勤める私の友人は、女子生徒が点数を引かれた事件がニュースになった時に、同僚たちに「これって日本のエイプリルフールの下手なジョークか?」と言われたそうです。

女性医師を増やす、こんな当たり前の事が進まない日本。しかし、問題は一筋縄でもいかず、意識改善で解決する問題ではない。医師の過重労働を解決するには、個別の人事から組織マネージメントまで指揮をとる経営頭脳が必須となってくるでしょう。

実際の現場では、こんな声もあります。

『男性優遇は仕方ないと思う。 今の働き方で女性が過半数になれば医療は崩壊する。 子供のいる女性医師は17時帰り、男性医師がその分働いて埋めている。それが当然の雰囲気になってしまっている。 結婚出産しても男性医師と同じ量働くという女医の決意が育たなければ、無理もないかなと思う。』

現状は、残念ながら殆どがこの通りです。 限られた人材資源で、業務ルーティンを回し、緊急事態にも備えなければならない。当たり前のことですが、女性も男性もどちらも活躍できる世の中にすることは、どちらもが譲歩しあうことが必要となります。
政治においても、女性リーダーの存在が大きく注目されました。
英国のリバプール大学とレディング大学の研究者らが行った論文が世に出て、「コロナ対策に成功した国々、共通点は女性リーダーの存在」を科学的に裏付けるものです。

女性リーダーは同等の立場にいる男性リーダーと比較して、新型コロナウイルス流行の初期段階での対応が優れていたのだというのです。

また、最近は、新型コロナウイルスによる社会不安や経済危機を受けて、若者の間にも政治への関心が高まってきている。

フィンランドや他の国々のように、日本でも若者や女性が政治家として活躍しやすくするためにはどうしたらいいのだろうか。

そんなことを考えながら、婦人科領域も全く同様だと思いを巡らすのである。

女性医師が増えると婦人科診療も変わる。改善される。そして、多くの女性にとって婦人科がもっと身近になり、診療の敷居が下がり、女性の生活の質が向上する。

よし、頑張るぞ。
profile
全国で展開する「婦人科漫談セミナー」は100回を超えました。生理痛は我慢しないでほしいこと、更年期障害は保険適応でいろんな安価な治療が存在すること、婦人科がん検診のこと、HPVワクチンのこと、婦人科のカーテンの向こう側のこと、女性の健康にとって大事なこと&役に立つことを中心にお伝えします。
藤田 由布
婦人科医

大学でメディア制作を学び、青年海外協力隊でアフリカのニジェールへ赴任。1997年からギニアワームという寄生虫感染症の活動でアフリカ未開の奥地などで約10年間活動。猿を肩に乗せて馬で通勤し、猿とはハウサ語で会話し、一夫多妻制のアフリカの文化で青春時代を過ごした。

飼っていた愛犬が狂犬病にかかり、仲良かったはずの飼っていた猿に最後はガブっと噛まれるフィナーレで日本に帰国し、アメリカ財団やJICA専門家などの仕事を経て、37歳でようやくヨーロッパで医師となり、日本でも医師免許を取得し、ようやく日本定住。日本人で一番ハウサ語を操ることができますが、日本でハウサ語が役に立ったことはまだ一度もない。

女性が安心してかかれる婦人科を常に意識して女性の健康を守りたい、単純に本気で強く思っています。

⇒藤田由布さんのインタビュー記事はこちら
FB:https://www.facebook.com/fujitayu
医療法人 大生會 さくま診療所(婦人科)
〒542-0083 大阪府大阪市中央区東心斎橋1-14-14 T・Kビル2F
TEL : 06-6241-5814
https://www.sakumaclinic.com/

Twitterでバズった「ミレーナ」 医療・ヘルシーライフ 藤田 由布婦人科医
女性医師が増えると、婦人科診療はもっと変わる 医療・ヘルシーライフ 藤田 由布婦人科医
婦人科を閉じるということ 医療・ヘルシーライフ 藤田 由布婦人科医
おすすめのコラム
オーラルフレイルを予防しよう 医療・ヘルシーライフ 阿部 純子歯科医師
歯石は自分で取れる? 医療・ヘルシーライフ 阿部 純子歯科医師
歯がキーンとしみたら 医療・ヘルシーライフ 阿部 純子歯科医師
コラムのジャンル一覧