関西で働く女性のライフスタイルマガジン［関西ウーマン］

私のベットの左横の壁には一つの小さな絵がかかっています。絵といっても正確にはそのポストカードに合わせてマウントと額縁を専門店で作ってもらった30センチ四方ほどの小さな額に入ったポストカードです。

約30年も前になるでしょうか、スイスのとある街を歩いていてふっと入ったのがその文房具屋さん。昔から文房具や紙が大好きだったので、まだよく知らない街の文房具屋さんにはさぞかしワクワクしながら入って行ったのでしょう。文房具さん、特にヨーロッパのそこには特別な雰囲気が漂っているような気がします。やや薄暗いのは文房具屋に限らず、古い石造の建物の中にあるせいでしょう。

そのアーティストの手描きの一枚のカードは、深いベルベットのような赤紫色といぶした金色の二色がハーモニーを奏でています。水彩絵の具のつくる紫の陰影のバックグランドに、いぶした金属のような深い輝きの金色が中央から光を放っているのか、逆に光は中央に向かって吸い込まれているのか、小さいながらとても立体的で宇宙的とも言えるエネルギーをそこに感じて、当時、きっとわずか、数フラン、日本円にして数百円でこの不思議なポストカードを手に入れました。

その後そのカードの中のいぶした金属色と同じ色の額縁を、そのポストカードの数倍もの金額を払って作ってもらったことを覚えています。それ以来、私の住む家は転々と変わりましたが、ずっといつもどこかに飾っているのです。

たまにふとその額を見ると不思議な思いにつつまれます。大部分は記憶の奥で眠っていて思い出せないませんが、このポストカードを見た瞬間の感情がよみがえります。30年前の私も同じように「この色」が好きだったんだ、というような単純な思いから、この絵の宇宙的なエネルギーに魅かれた当時の動機に不思議な感じすらするのです。

故 スティーブ・ジョブズ氏のかの有名な「点と点を結ぶ」スピーチに感銘を受けられた方は多いと思います。そこでも言われているように、人生で会う出来事は出会う時点で「点」に過ぎずそれは無数でしょう。その無数の点をどうやってつなげるか。

実際のところ、点と点を結ぶことなんていちいち考えて人生で経験する出来事を消化しているわけではないでしょう。ただ感じることは、後になって振り返ると、実は点と点の意味が確実に今につながっているということ。時には感激するほどパーフェクトなタイミングで。まるでドラマのように今の現実の伏線になっていたんだと思えることすら存在すると思えることです。

それは幼少のころに少し立ち止まった「点」のような興味や、異国の文房具屋であった紫色の絵葉書の「点」から放たれるエネルギー。ふっとよぎった思いを元に行動に移すとそこでも一つ一つの新しい「点」としての出来事が未来に向かって始まるようでもあります。

ある日聴いた曲のパッセージがきっかけで書いたメールが何かをつなげてくれたりすることもあるでしょう。ふっと立ち寄ったウェブサイトの情報から、人生哲学を語れるような出会いにつながるかもしれません。

点の意味を考えず、それでも前を向いて歩いていると、ある日、点同士が自然に意味を持ちつながり始めることすらあります。そうやって生まれたものが時には消えたようにも見え、消えたように見えるものの中からまた何かが生まれながら確実に点と点は線となり、線は円を描きながら進んでいくようです。

円には終わりがないように点と点をつなげる作業にも終わりはないのかもしれません。そんな思いは、点の意味をあえて知ろうとするのではなく、一つ一つの行動に意図を込めて自分に正直に進むことを私に後押ししてくれているようです。