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池田 千波留
パーソナリティ、ライター 香のん

タカラジェンヌ歳時記 趣味・カルチャー 2014-02-21
元宝塚歌劇団 立ともみさんにお聞きする「宝塚メイク」

宝塚歌劇の舞台化粧は独特です。

おそらく、代表的な歌「すみれの花咲くころ」、舞台装置の大階段、

トップスターの証ともいえる大きな背負い羽根とならんで、宝塚歌劇の象徴でしょう。

一方で、宝塚歌劇をご覧になる以前に

「あの化粧が嫌だ」と敬遠する方もいらっしゃるでしょう。

ところが最近、その風潮が少し変わってきたように思います。

おととし、宝塚OGが指導するメイクアップ体験講座が開催されると、

多くの参加希望者が集まり、舞台に立つわけではない一般の人たちが、

男役・娘役のメイクを楽しんだのです。

先日、3回目となる宝塚メイクの体験講座があり、

私も初めて、宝塚メイクを体験することになりました。

今回のコラムでは私の体験も交えながら、宝塚メイクについて掘り下げてみましょう。

 

受講前に、メイクアップ体験講座の初回から講師を担当されている

元宝塚歌劇団 立ともみさんにお話をお聞きしました。

 

まずは宝塚メイクの必然性について。

「宝塚メイクは大きな劇場の一番端に座ったお客様にも

表情を見ていただくためのものです。

2階席の一番後ろの列に座った方にも見えるようにということですね。

また、強いスポットライトを浴びると、

少々のメイクではハレーションを起こしたように

顔がのっぺり真っ白に見えるので、自然と濃いメイクになります。

逆に言うと、全国ツアーなどで会場の大きさ、スポットライトの強さが変われば

メイクも合わせて変えていかなくてはなりません」

宝塚メイクのもう一つの大事な役割は、

夢の世界・虚構の世界を構築する手段の一つだということ。

「宝塚歌劇の夢のようなストーリー、きらびやかな衣装は現実世界とはかけ離れたもの。

普段の顔ではなく造りこんだ顔になることで夢の世界に生きることができるのです。」

 

宝塚歌劇団にはメイク担当の特別スタッフはおらず、出演者はみな、自分でメイクをしています。

宝塚音楽学校を卒業し、宝塚歌劇団に入団する前に、

すでに舞台を踏んでいる上級生たちが指導をする

単発のメイク講習会があるのみで、あとは日々、自分で工夫するしかありません。

基本的に、芝居では自分が演じる役の国籍や時代などを考慮に入れたメイクを、

ショーでは華やかで美しいメイクを心がけます。

「もちろん、より美しく見せるためのメイクですから

自分の顔を研究し、もっと輝けるように工夫しなくてはいけません」

所属する組のトップスターや上級生を参考にすることが多いため、

メイクにもその組の個性がでることはあるとか。

また極端に太い眉毛が流行した時期などもあり、

宝塚メイクも一般社会とリンクした変化をしています。

 

立ともみさんが在団中にメイクに関して印象に残る公演は

『オクラホマ』と『ベルサイユのばら』とのこと。

ミュージカル『オクラホマ』はオクラホマ州の農村を舞台に繰り広げられる、

カウボーイと娘の恋物語。

これまでの男役メイクでは土の匂いがするような男性に見えないということで、

男役はつけまつげを付けないことになったのでした。

この手法はミュージカル『ウエストサイド物語』初演でも生かされたといいます。

その正反対の意味で驚いたのが『ベルサイユのばら』でのメイク。

池田理代子の漫画が原作の『ベルサイユのばら』は

初日の幕があくまでは原作ファンから「夢を壊す」といった反発も受けていました。

 

「私は続演の際に出演したのですが、メイクがあまりにも劇画的なので驚きました。

原作漫画をできるだけ忠実に再現するためのメイクは、

これまでにしたことがないようなもの。

初演月組、特に主役のオスカルを演じられた榛名由梨さんが、

どれほど研究を重ねられたことかと思ったものです」

リアルさから劇画調まで幅広い宝塚メイク。

共通して一番大切なポイントは何なのでしょう。

「地色です。地色が汚いと、どんなポイントメイクも映えません」

 

さて宝塚メイクについてレクチャーしていただいた後、

いよいよ「宝塚OGが指導するメイクアップ体験 ~男役・娘役のメイクアップ」を

実体験しました。

 


「宝塚OGが指導するメイクアップ体験 ~男役・娘役のメイクアップ」

会場は宝塚文化創造館。

平成10年まで宝塚音楽学校の校舎だった宝塚文化創造館は

一部改装されているものの、かつての面影を残しています。

メイクアップ体験はバレエ教室として使われていた部屋で行われました。

宝塚ファンにとっては音楽学校生のかつての学び舎に入るだけでも嬉しくなるというもの。

受講生はそれぞれ男役・娘役どちらかを選択し、

立ともみさんの指導に従って自分でメイクしていきます。

 

地色やアイシャドウの色に差はあるものの、男役・娘役とも工程はほぼ同じ。

下地をつける、ドーランを塗る、鼻筋の強調、粉をはたく、パンケーキを塗る、

ハイライト、チーク、アイシャドウ、アイライン、つけまつ毛、眉毛、口紅…と、

12段階で仕上げていきます。

その間、男役のもみあげは芝居とショーでは描き方が違うことや、

パンケーキを重ねて塗るのは汗で化粧が崩れないようにするため、など

小さな情報が満載で、次に舞台を見るときの注目ポイントができました。

およそ2時間かけて仕上げたたメイク。

これを現役のタカラジェンヌは15分から30分程度で仕上げるのかと改めて感心しました。

 

現在はコンサートホールになっているかつての講堂にはベルサイユ宮殿が浮かび上がり、

衣装を持参した受講生の記念撮影が行われました。

夢の世界の住人になるためのメイク、という言葉はやはり本当で、

メイクが完成すると、ポーズも自然と決まってきますね。


アニメのコスプレが日本文化として世界で認められている現代。

宝塚メイクによる変身もより身近なものになったのかもしれません。

 

「宝塚歌劇のメイクは確かに濃いです。

 でも無理に変えていく必要はないのだと思います。

 他の演劇では見られないメイク、それは宝塚らしさの一部。

 夢の世界に入り込んでうっとりとご覧いただけるか、 引いてしまわれるか、

 お客さまの感じ方におまかせします」と立ともみさん。

 

宝塚ファンはもちろん、宝塚歌劇をまだご覧になったことがないかたも、

このコラムで宝塚メイクに少しでも親しみを持っていただけたら幸いです。

次はぜひ、実際に劇場でご覧ください。

 

■取材ご協力

公益財団法人 宝塚市文化財団様

元宝塚歌劇団 立ともみ様

「メイクアップ体験」受講生の皆様



 


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