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池田 千波留 パーソナリティ、ライター 香のん
(←プロフィールは写真をクリック)宝塚歌劇の魅力にぐいぐい迫っていきます!
タカラジェンヌ歳時記 趣味・カルチャー 2014-09-19
「舞台は生き方を映す鏡」元月組トップ娘役 麻乃佳世さんインタビュー
宝塚歌劇ファン究極の夢は、ご贔屓の相手役になることかも知れません。
その夢を実現したのが元月組トップ娘役 麻乃佳世さん。
宝塚音楽学校に合格するだけでも夢のようなお話なのに
大好きだったスター涼風真世さんの相手役としてトップ娘役となる…
今月は、タカラヅカドリームを実現した麻乃さんにお話をお聞きしました。

幼いころテレビ中継で見た『ベルサイユのばら』で
宝塚歌劇という別世界があることを知った麻乃さん。
中学生のとき、熱心な宝塚ファンだった姉につれられて
東京宝塚劇場へ行ったのがきっかけで一気にはまりました。
その頃麻乃さんのお気に入りの組は大地真央率いる月組。
中でも可愛らしい男役 涼風真世に夢中になったものの
学校の成績が下がったことで宝塚通いを禁止されたのでした。
しかし、目を盗むようにして観劇していた麻乃さんは
ついにファンクラブから「スタッフになりませんか?」とお誘いをうけるほど
熱心な涼風真世ファンになっていました。

高校2年生になり、進路決定を迫られた時、宝塚音楽学校受験を思い立ち、
受験のラストチャンスの高校卒業時にみごと一回で合格した麻乃さん。
さぞや猛特訓をして挑んだのかと思いきや、意外や意外…。

「大学に合格しなければ宝塚を受験しません、と母に約束させられていたので
高校3年生の2月まで、普通に受験生生活を送っていたんです。
そして一応、大学には合格したんですけど、母が納得する大学ではなかったので
内緒で宝塚音楽学校を受験するしかありませんでした。
そのため受験料を払うためにアルバイトをしなくてはならず
ますますレッスンの時間がなくなって…。
それでもお金が足りなくて、2次試験の旅費は姉に借金したんですヨ」

元々特に習い事をしていたわけではなく、バレエも声楽も初心者。
宝塚音楽学校受験直前に、歌の課題曲は高校の音楽の先生に見てもらい、
バレエは創作舞踊クラブのバレエ経験者に教えてもらっただけ。
ただしファンとして食い入るように見ていた舞台で、
イメージトレーニングだけは完璧でした。
他の受験生は幼いころからバレエなどを習っているうえ
受験対策スクールから団体で受けにきており
その様子にまずは驚き、ひるみそうになったという麻乃さん。

「ああ、みんなこんなふうにグループで受けにくるんだ、と衝撃を受けました。
でも『気持ちで負けちゃダメ!私は平気よ!』と
見かけだけでも冷静を装いましたね。
面接では、合否にかかわらず、ここに来られただけで幸せという気持ちと
宝塚歌劇のことを こんなにも好きなんだ!!という情熱を
受け止めていただいたんじゃないかと思います」

宝塚音楽学校卒業時の成績が3番という好成績だったことについては
「基礎ができている同期にまじって、何もかも大変だったんですけど、つらくはなかったです。
むしろ大変なのが嬉しいくらいで。
成績が良かったのはね、なりきってたんですヨ。"役"に。
たとえば声楽のときには『私はオペラ歌手よ』、
バレエの時には『私はプリマドンナなの!』
日本舞踊では『私は今 名取さん』と思ってやっていました。
そしたら、なんだか成績が良くなって」と笑う麻乃さんです。

大好きだった月組に配属、研究科四年生(入団4年目)の春に
涼風真世のトップスター就任に伴い相手役に選ばれたことを
「一生の運を使い果たしたみたいな出来事」と喜ぶ一方、
自分自身がファンだっただけに
「涼風さんのファンの方に『あんな子が相手役なの?!許せない!』
と思われるのが怖かったです。
カナメさん(涼風真世)はくちでは何もおっしゃいませんでしたが
ふだんから行動を共にするようはからって下さり、
舞台についてもいろいろとご指導下さいました。
おかげで最後には、カナメさんファンのかたから
『カナメさんの相手役はヨシコちゃん(麻乃佳世)でなくては』と
おっしゃっていただけて、本当に嬉しかったです」

涼風真世、天海祐希という二人の人気トップスターの相手役を勤めての退団。
在団期間は7年間と、決して長くありません。
しかし、100周年の今年、振り返ってみると
「カナメさんのトップお披露目の『ベルサイユのばら』、
80周年記念の年には天海さんのバトラーで『風と共に去りぬ』と
ファンとして見ていた素晴らしい作品にトップ娘役という立場で出演できて
なんて幸せなだったんだろうと思います。
特に『風と共に去りぬ』は大好きだった遥くららさんの時と同じバージョンで
嬉しかったですねぇ。
もちろんあて書きの作品も私の大事な宝物ですが
名作の再演には何とも言えない重みがありました」と
宝塚の伝統をかみしめる麻乃さんです。
 
宝塚歌劇団を卒業するとき思ったことは
「もっとお芝居がしたい、私はお芝居が好き!」。
退団後、女優として活動する道を選んだ麻乃さんは
毎回違うメンバーで作り上げることに
宝塚歌劇団時代とはまた違った喜びを感じると言います。

テレビにせよ舞台にせよ、通常、役とは一期一会。
一つの仕事が終われば、その役とはお別れです。
が、麻乃さんには、不思議な縁を感じる役があるとか。
それは『忠臣蔵』浅野内匠頭の妻・瑶泉院。
最初はテレビドラマで、大石内蔵助は北大路欣也さん。
二度目は五木ひろしさんの舞台で演じることになりました。

当時麻乃さんは赤穂浪士が眠る泉岳寺の近くに住んでいて、
漢字は違うけれど、芸名が「アサノ」。
そして浅野内匠頭の屋敷跡は、麻乃さんが産まれた聖路加病院というのですから
偶然にしては出来過ぎています。

史実をもとにした芝居の前に、関係者の墓参をするのは日本ではよく聞く話。
麻乃さんももちろん、泉岳寺にお参りに行きました。
四十七士の墓に線香をたむけるとき、無意識に
「ようやってくれた」
「ほんに、ありがとう」と
一人ひとりに、ねぎらいの言葉が口をついて出てきたと言います。
そして、浅野内匠頭の墓前で「殿…」と呼びかけた自分の頬を
涙が伝っていることに初めて気が付いたと言います。
まるで瑶泉院の魂が自分の中に生きているように感じた、と。
そんな役に巡り合えるなんて俳優冥利につきるのではないでしょうか。

もう一人、麻乃さんにとって特別な役があります。
それはカナダケベック州で生まれた作品「ブックショップ」のジェーン。
 
***
幼いころから本が大好きなジェーン。
夢がかなって古い本屋さんのオーナーになったものの、そこには幽霊が住んでいたのでした。
彼は大事な本をなくしてしまい、それを見つけないと天国に行けないとい言うのです。
そこに、隣のチョコレート屋のサミュエルが訪れ、ジェーンはパニックに。
実はジェーンはサミュエルのことが好きなのに告白できないでいるのです。
そんなジェーンに幽霊が「好きと言葉で伝えなくては。実は僕は…」
ジェーンはサミュエルに好きだという気持ちを伝えられるのでしょうか。
幽霊は天国に行けるのでしょうか?
***
ストレートプレイでありながら、ミュージカルを思わせるタッチの作品「ブックショップ」。
本場ケベックで見たプロデューサーが
「この芝居を日本でするなら麻乃佳世しかいない」と即決、
すぐにオファーしたと言います。
「台本も手元になく、おおまかなストーリーさえわからない状態でしたが
ぜひ私にとおっしゃってくださったことで、お話をお受けしました。
そして初めて出演者がそろって読み合わせをしたときに
『ああ、上質な作品に出演させていただけるんだ』と確信できたんです」

プロデューサーの予想は的中し、
2009年に上演された「ブックショップ」は、好評を受け
2010年、2012年に再演されました。
そして、宝塚歌劇100周年の今年、麻乃さんはジェーンとして
心の故郷宝塚のバウホールに再び帰ってくることになりました。
共演者には月組の先輩である旺なつきさんがいます。
旺さんと麻乃さんの在団期間は重複していませんが、
月組は代々の先輩が卒業後も「組」を大切に思う伝統があるため、
学年が離れていても交流はあったとのこと。
そんな先輩と共演できることがとても嬉しいそうです。

「ブックショップ」の登場人物はジェーンを含めて4人。
共演者は上演のたびに変わることもありましたが
麻乃さんは常にジェーンとして出演してきました。
もしかしたらこの先もずっと演じていくことになる大切な役かもしれません。
ジェーンは、舞台上で3歳から大人まで成長していきます。
「オファーをいただけるなら
(3歳の役が)もう痛々しくて見ていられないからおやめなさい、
と言われるまで頑張ってみようと思っています」と笑う麻乃さん。
"ジェーンは麻乃佳世で"と指名される自分自身のイメージを
体型も含めて「意地でも維持しますヨ!」。

実は麻乃さんにはもう一つ、意気に感じる出来事がありました。
2003年に上演された『ジャックブレルは今日もパリに生きて歌っている』。
4人の出演者がシャンソン歌手ジャック・ブレルの歌30曲ほどを歌い継ぐ作品です。
当初出演予定だった、元花組トップスター安奈淳が稽古中に怪我をしてしまったのでした。
翌日が初日という切羽詰まった状況で、代役を依頼されたのが麻乃さんでした。

「この作品は何度か上演されていて、私は過去に出演したことがあったんです。
それもあって声をかけていただいたんでしょうが、
『今、舞台稽古をしているんですが、すぐに来ていただけますか?』と言われ、
行ってみると、過去の出演時に歌っていない曲もある、
そもそも安奈さんとはキーが違う、
何より、一夜明けたら舞台に立たなくてはならない…と、かなり過酷な状況でした。
でも、こんな大変な時に『麻乃ならできる』と思っていただいたんだ、
重大な局面に呼んでいただけたことは光栄なことなんだ、と
自分を奮い立たせました」

翌日からの2日間の公演を無事勤めあげた麻乃さんは、共演者をして
「1カ月稽古してきた私たちの立場は?」と言わしめる出来栄えでした。
しかし麻乃さん本人には、その公演の2日間・48時間の記憶が全くないそうです。

「本当に、思い出そうとしても何も思い出せません。
ただ、この経験は"麻乃佳世"として存在することについて
一つの大きな自信を与えてくれました。」

そして、いつでも「これを麻乃佳世で」と言っていただくためには
普段の生活が大事だと麻乃さんは確信しています。

「365日毎日、誠心誠意舞台に向けて積み重ねていくことで芯ができて行きます。
舞台はごまかしのきかない場所、自分の生きざまが全て現れる場所なんです」

ここ数年、麻乃さんは改めてバレエを始めました。
「基礎の基礎からバレエを学び直していると、宝塚音楽学校時代を思い出します。
あのとき必死すぎてわからなかったことが、今はよくわかって楽しいんです」

今年8月2日、NHK大阪ホールで行われた桂由美さんのブライダルショーでは
宝塚歌劇100周年にちなんで、30人の元タカラジェンヌが出演しました。
麻乃さんもその一人。
またテレビや舞台だけではなく、ライブ活動なども行っています。

「これからも、どんなことにも挑戦していきたいです。
でも、今はともかくジェーンとして、共演者の皆さんと
『ブックショップ』の世界を作り上げていきます」

『ブックショップ』が宝塚バウホールで上演されるのは くしくも
宝塚歌劇団月組が宝塚大劇場公演『PUCK(パック)』初日を迎えた翌日から。
『PUCK』は1992年、演出家 小池修一郎氏が、シェークスピア『真夏の夜の夢』をモチーフに
涼風真世・麻乃佳世トップコンビのため書き下ろしたミュージカルです。
麻乃さんのことを今でも、その時の役名"ハーミア"と呼ぶ人いるほどの当たり役です。

最後に麻乃さんから ひと言。
「『ブックショップ』と『PUCK』を連続して見られるように
開演時間は宝塚大劇場公演とずらして設定されています。
宝塚公演をごらんになるかたはぜひ
『ブックショップ』と『PUCK』をパックでご覧ください。
劇場でお待ちしています」

この秋はぜひ、老若男女楽しめる作品『ブックショップ』で
麻乃佳世=ジェーンとお会いになってください。

『ブックショップ』
さいたま公演:2014年9月24日(水) 彩の国さいたま芸術劇場
宝塚公演 :2014年9月27日(土)・28日(日) 宝塚バウホール
東京公演 :2014年10月11日(土)~13日(月・祝)赤坂区民センター区民ホール
詳細は『ブックショップ』ホームページ、Facebookをご参照ください。

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