HOME  前のページへ戻る

池田 千波留 パーソナリティ、ライター 香のん
(←プロフィールは写真をクリック)宝塚歌劇の魅力にぐいぐい迫っていきます!
タカラジェンヌ歳時記 趣味・カルチャー 2014-08-15
娘役のカツラ 今むかし
キラキラ光るスパンコール、
大きく広がった裾のドレス、
歩くたびにたなびく大きな羽根など、
場面ごとに変わる衣装の豪華さは
宝塚歌劇の魅力の一つです。

そしてほとんどのタカラジェンヌは、その衣装に合わせて、
アクセサリだけではなく髪型や化粧も変化させています。
特に娘役のヘアアレンジは必見。
自毛のアレンジでは時間がかかりすぎるため
ほとんどはカツラを付け替えることで対応しています。

宝塚歌劇団のカツラは、日本物の場合は床山さんの担当。
洋物のお芝居やショーの場合、スポンサー提供や
舞台上の全員が同じカツラをかぶるような場合をのぞいて
基本的には出演者が個々にカツラを用意します。
とは言え稽古に忙殺されるタカラジェンヌが
自分で一からカツラをつくるわけではなく
美容院に製作を依頼するのです。


今月は、宝塚歌劇の洋かつらを製作しておられる
コワフル FANFANのご協力を得て
娘役のカツラ今むかしについてお話しましょう。
まずは宝塚歌劇のカツラに携わって40年の
店長 和田好弘さんにお話をお聞きしました。

「僕はもともと東京の美容院に勤めていて
お客様の中には宝塚歌劇団のかたもおられてネ。
その人たちのカットやカラーリングなどヘアスタイルのお世話をしていました」

やがて独立することを決めた和田さんはお店を退職。
しかし、独立の気持ちがあっただけで
店を構える場所など具体的なことは全く決めていなかったそうで、
さあ、どうすればいいかなァ、お茶でも飲んで考えよう…と
青山にあるカフェに入ったら、先客の中にいたのが
いつも髪の毛のお世話をしていた宝塚歌劇のスターAさん。
和田さんが、独立するものの、どこで開業するか迷っていると聞いたAさんは
「じゃぁ宝塚に来て!私たちを手伝って!」
これも運命と、和田さんは東京から宝塚市に移り、
昭和47年(1972年)コワフルFAN FANを立ち上げたのでした。

「その頃、宝塚歌劇の舞台で使われる洋かつらは
和物の素材で作られていたんだよ。
当時宝塚歌劇の洋カツラを製作した人たちは
大変なご苦労をされたと思うよ。
だって日本の演劇で、西洋人を演じるなんてなかなかないわけでしょ?
お手本もない中、和物のカツラの材料で
なんとか洋風のヘアスタイルを作っておられたわけだからね」

そんなご苦労の末に作られた洋かつらではあったものの
実際に舞台に立つタカラジェンヌ達には悩みがあったそうです。
それは髪の毛に自然な動きがないこと。

和田さんのところに来るタカラジェンヌ達がくちぐちに
「もっと自然なカツラがあればいいのに」
「ふわふわっとしたカツラが欲しい」
動きにつれて自然にはねたり、
顔を傾ければサラサラと顔にかかってくるような
そんなカツラを作ってほしいという要望を聞いて和田さんは
素材探しから始めることになりました。

「宝塚歌劇のカツラっていうのは特殊ですよ。
洋物のお芝居なら栗色や金色だけで済むけれど
ショーなんかでは赤やクリーム色、紫や緑…
今でこそ、一般の人の中にもそんな髪の色の人はいるけれど
当時は、どんな舞台を見に行ってもそんな色のカツラはなかった。
需要がないものだからメーカーにもない。
メーカーと相談して、一から作り上げてねェ」

これがナチュラルな洋かつらの黎明となりました。

カツラ製作にあたって工夫されるポイントを伺ったところ
「カツラを付ける人に合わせること。
カツラが出来上がったところが終点じゃなくて
かぶってその人に似合うところが終点なの。
そういう意味で、一番大変だった記憶があるのは
『Non,Non,Non』だなぁ」

演出家 草野旦の作品『Non,Non,Non』は
昭和51年(1976年)に雪組で上演されました。
トップコンビ以外のほとんどの役は妖精という
ファンタスティックなショーでした。
どのような髪型が妖精らしいのか、
宝塚歌劇団の衣装デザイン担当の任田幾英さんと相談し
肩までの長さで、非常に細かいウェーブがかかった
ふわふわのカツラに決定したのでした。
そのころナチュラルな洋かつらを手掛ける美容院が
FANFAN以外になかったこともあり、
男役女役を問わず、妖精役のほぼ全員がFANFANに依頼、
約70個ものカツラを作りあげることになりました。

「この時は皆 同じ種族(妖精)ということで
見た目が同じ髪型にする必要があったのだけど
同じ形のカツラをかぶっても
みんな同じには見えないんだよね。
後頭部の曲線、面長か丸顔か、
一人ひとりの特徴があるから。
一旦かぶって見せてもらってから
カツラの内側に工夫をしたり、長さをカットしたりして
結果的に全員同じ髪型に見えるように手直しなくちゃならない」

公演に向けての稽古が終わるとカツラ合わせにやってきた雪組生たち。
美容師総出で対応しても、一人ひとりのチェックに時間がかかり
お店の前で何人も待つことになったそう。

「タカラジェンヌは努力家だよ。
自分の番が来るまでボーっと待っているのがもったいないって
店の前の空き地で場面ごとの振付をおさらいし始めたんだよね。
踊りながら順番を待ってくれて、最後の一人が終わったときは
もう真夜中だったねぇ」


一方、芝居でのカツラづくりにも様々に工夫が必要です。
時代考証、役の身分、場面の雰囲気、照明の色などを考慮したうえで
役のキャラクターにあった髪型を考えていかなくてはなりません。
「ベルサイユのばら」に例をとれば、
当時の女性のカツラの高さは身分の高さに比例していたので
舞台でも当然、王族や貴族役の娘役のカツラは大きく、高く作らねばなりません。
しかし、肖像画などに描かれているようなカツラをまともに作ってしまうと
重くなりすぎて、それをかぶって舞台に出て、踊り歌い芝居することは
危険すら伴います。
そこで和田さんは、カツラの芯に発泡スチロールを使い、
表面にだけ髪の毛を盛りつける方法を考えつきました。

また踊ったり芝居をしたりするときに
相手役や周囲の邪魔にならないような配慮も必要だとのこと。
肖像画などは参考にはなっても、そのまま再現するわけにはいかないのです。

「どんな生徒も舞台で美しく華やかに!」という気持ちで
40年カツラ製作に携わってこられた和田さんは
現在 宝塚店と東京店を行き来するため
カツラ製作からは離れました。

これまでを振り返って和田さんは、こう語ってくれました。
「普段のサロンワークにも もちろん喜びはありますよ。
でも、端的に言うと、洗ったらおしまい。
自分の作り上げたヘアスタイルっていうのはそこで消えてしまう。
宝塚歌劇のカツラは映像などで残るんだよね。
でも何よりも良かったなと思うのは
夢の一部に参加できたことだな。
舞台って、出演している人だけじゃない、
関わった人間 誰一人欠けても成立しないものなんだよ。
だから、舞台の成功はもちろん、反省も皆で分かち合わなきゃね」

このあとは、現在FAN FANでカツラ製作を担当されている
吉川美和子さんと平田佳織さんのお話をご紹介します。
宝塚歌劇の洋かつらを作るようになって
吉川さんが24年、平田さんが20年のベテランです。

お二人とも主に娘役のカツラを作っておられます。

まず担当する生徒さんの次回作品がわかると
原作ドラマや映画がある場合は、それを見て雰囲気をつかむそうです。
とは言っても原作と全く同じヘアスタイルのカツラを作るわけにはいきません。
数分もてば良し、もし髪が乱れてもカットごとに整えられる映画やテレビとは違い、
舞台はノンストップだからです。
ただし、原作のファンをがっかりさせることがないように
雰囲気を再現することを心がけているそうです。

次に、芝居であれば、担当する生徒さんが演じる役の
年齢や社会的地位、性格などを考慮、
ショーであれば、どんなイメージの場面なのか考え、
ご本人と相談もして、髪型を決めていきます。
演出家からの意見は生徒さんを通じて伝えられます。
その際、衣装がわかればなお、イメージがわくそうです。

カツラの数は、出番の多いトップ娘役にもなると
ひと公演につき10個以上になるといいます。
それぞれ違う印象に仕上げるのはもちろんのこと、
全てを舞台稽古までに作り上げなくてはいけません。

そして迎える舞台稽古では、カツラを担当した美容師さん達も
宝塚歌劇団のスタッフとともに
かたずをのんで見守ることになります。
というのも、イメージを膨らませて作ったカツラなのに
実際に舞台に出ると「何か違う!」ということがあるからです。
その理由はさまざまで、実際にメイクをし衣装を付け
ライトを浴びた状態で動いたところを見ないと わからないことがあるのだとか。
もし舞台稽古で「これではだめだ」となった場合、
徹夜してでも初日に間に合わせなくてはなりません。

肉体的にもしんどい思いをして出来たカツラについて
どんなときに喜びを感じるか吉川さんにお聞きしました。

「私はあんまりしんどいとは思わないんです。
むしろ、ああしたい、これはどうだろうと、
良い意味でおもしろがって作っています。
でも、駅で公演ポスターを見て、自分の作ったカツラだと
『わー!大きく引き伸ばされるとアラが見えちゃう!』と
一人で恥ずかしがったりしていますね。
それから、初演の作品で自分が手がけたカツラの形が
再演、再々演などでずっと引き継がれていくのを見たりすると
作品が独り歩きしているようで、感慨深いです」

一方、平田さんは しかけのあるカツラを作ることも多いそう。
たとえば、ラブシーンでの仕掛けの場合、
結いあげた娘役の髪の毛がはらりと ほどけてロングヘアーに変化、
そこから恋人役とのダンスが展開される、といった具合に
場面に貢献する大事な役割を担うことになります。

「結いあげた髪がバサッと一気に崩れてしまうと、ムードがありません。
髪の毛が落ちきるまで、微妙に時間がかかった方がドラマティックに見えるんです。
かといって続くダンスシーンに影響が出てはだめで
ちょうどいいタイミングで髪の毛が落ちていくように考えます。
それから利き手が左右どちらなのか、
仕掛けを抜くときに手が相手役さんに当たらないような角度になるようにと
いろんな条件を考えながら仕掛けの場所を決めていかないと。
でもそれ以上に難しいのは、髪をとめてあった仕掛けの道具を
どう始末するかという問題かも知れません。
男役さんの衣装なら上着やパンツのポケットに隠せますけど、
娘役さんには隠す場所がほとんどありませんから。」

確かに、私も仕掛けのあるカツラを見たことは何度かありますが
仕掛けのピンなどの行方を意識したことはありませんでした。
もし今後、機会があれば解明してみたいものです。


世はSNSの時代。
初日があくやいなや、さまざまな評判がネット上に飛び交うことになります。
吉川さんも平田さんも、ご自分が手がけたカツラに関する意見には
目を通し、一喜一憂することもあるそうです。
そして、時には驚かされることも。

「私たち、カツラを作ることを
単なる仕事だとは思っていないんです。
こだわりや思い入れを持って作っています」

だから、客席からはきっと見えないであろう
襟足や陰になる部分であっても
小さな三つ編みを編み込んでみたり、
おしゃれなアクセサリで飾ってみることもあるそう。

「絶対誰も気が付かないだろうと思っていたのに
ツイッターで 『●●ちゃんの 襟足の三つ編みが可愛かった』なんて
つぶやいているお客様を発見すると、びっくりします」
「隠しアイテムを見つけてもらったようで、嬉しいです」

そして、日常生活で使うもの、たとえばお箸などを見ても
「かんざしに使えるかも!」と思うのは もはや職業病かもしれないと
笑うお二人でした。


最後に公演中のカツラについて。
公演中のカツラの管理は、生徒自身が行っています。

短い時間に衣装やアクセサリ、靴、そしてカツラと
頭の先から足の先まで装いを変える娘役。
経験を積んだ娘役ほど、カツラをとめるピンの数は少ないそう。
ここさえ止めていれば、踊ってもカツラが飛ばないというポイントは
経験と研究でそれぞれが会得していくものだそうですよ。

次に公演をご覧になる時は、
ぜひ娘役さんのかつらにもご注目ください。


■取材ご協力
コワフル FANFAN
 和田 好弘様
 吉川 美和子様
 平田 佳織様

池田 千波留  タカラジェンヌ歳時記  コラム一覧>>
趣味・カルチャー
娘役のカツラ 今むかし
おすすめのコラム
趣味・カルチャー
春はあけぼの。星は昴。
樋口 陽子
星空案内人
yoppie sty…
趣味・カルチャー
立春の頃の恋人達
樋口 陽子
星空案内人
yoppie sty…
趣味・カルチャー
冬のダイヤモンド
樋口 陽子
星空案内人
yoppie sty…
コラムのジャンル一覧



@kansaiwoman

参加者募集中
イベント&セミナー一覧
関西ウーマンたちの
コラム一覧
BookReview
千波留の本棚
チェリスト植木美帆の
[心に響く本]
橋本信子先生の
[おすすめの一冊]
絵本専門士 谷津いくこの
[大人も楽しめる洋書の絵本]
小さな絵本屋さんRiRE
[女性におすすめの絵本]
手紙を書こう!
『おてがみぃと』
本好きトークの会
『ブックカフェ』
絵本好きトークの会
『絵本カフェ』
手紙の小箱
海外暮らしの関西ウーマン(メキシコ)
海外暮らしの関西ウーマン(台湾)
海外暮らしの関西ウーマン(イタリア)
関西の企業で働く
「キャリア女性インタビュー」
関西ウーマンインタビュー
(社会事業家編)
関西ウーマンインタビュー
(ドクター編)
関西ウーマンインタビュー
(女性経営者編)
関西ウーマンインタビュー
(アカデミック編)
関西ウーマンインタビュー
(女性士業編)
関西ウーマンインタビュー
(農業編)
関西ウーマンインタビュー
(アーティスト編)
関西ウーマンインタビュー
(美術・芸術編)
関西ウーマンインタビュー
(ものづくり職人編)
関西ウーマンインタビュー
(クリエイター編)
関西ウーマンインタビュー
(女性起業家編)
関西ウーマンインタビュー
(作家編)
関西ウーマンインタビュー
(リトルプレス発行人編)
関西ウーマンインタビュー
(寺社仏閣編)
関西ウーマンインタビュー
(スポーツ編)
関西ウーマンインタビュー
(学芸員編)
先輩ウーマンインタビュー
お教室&レッスン
先生インタビュー
「私のサロン」
オーナーインタビュー
「私のお店」
オーナーインタビュー
なかむらのり子の
関西の舞台芸術を彩る女性たち
なかむらのり子の
関西マスコミ・広報女史インタビュー
中村純の出会った
関西出版界に生きる女性たち
中島未月の
関西・祈りをめぐる物語
まえだ真悠子の
関西のウェディング業界で輝く女性たち
シネマカフェ
知りたかった健康のお話
『こころカラダ茶論』
取材&執筆にチャレンジ
「わたし企画」募集
関西女性のブログ
最新記事一覧
instagram
facebook
関西ウーマン
PRO検索

■ご利用ガイド




HOME