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池田 千波留 パーソナリティ、ライター 香のん
(←プロフィールは写真をクリック)宝塚歌劇の魅力にぐいぐい迫っていきます!
タカラジェンヌ歳時記 趣味・カルチャー 2015-04-17
春爛漫 初舞台
桜の季節、宝塚音楽学校の卒業生が、
宝塚歌劇団に入団し初舞台を踏みます。
2年間の厳しいレッスンを頑張り抜くことができるのも
宝塚の舞台に立つのだという明確な目標があるからこそ。
今月のコラムは、宝塚歌劇の初舞台に注目します。

初舞台生のお披露目は毎年、
春の宝塚大劇場公演で行われます。
今年初舞台を踏むのは101期生。
4月24日(金)が初日の月組公演
『1789 -バスティーユの恋人たち-』がお披露目となります。
公演内容によって若干の変化はありますが、
基本的に初舞台生の出番は
開演に先立っての披露口上と、ショーの中でのラインダンスです。

通常、披露口上での初舞台生は
宝塚歌劇のシンボルの一つ「緑の袴」と黒紋付姿で登場します。
創始者小林一三の手跡「清く 正しく 美しく」をバックに、
舞台上手から下手まで、ずらりと並んだ初舞台生。
その中から3人が代表として手前に立ち、
割科白で口上を述べます。
その3人は、日替わりのローテーションで変わります。
誰がいつ口上を担当するのかはあらかじめ発表されます。
また、公演中、ロビーに飾られている初舞台生の顔写真パネルには
当日、口上を述べる生徒に目印の赤い花がつけられます。

年によって少しずつ違う口上の科白。
基本的なものをご紹介しましょう。
A「わたくしたち⚪︎⚪︎期生⚪︎⚪︎名はこの⚪︎組公演より
宝塚歌劇団生として初舞台を踏ませていただくことになりました。」
B「こうして夢にまで見た憧れの大劇場の舞台に立つことができました以上
一日も早く立派な歌劇団の団員として恥ずかしくない舞台人になりたいと
心も新たにしております」
C「まだまだ西も東もわからぬ未熟者ではございますが
栄えある宝塚のモットーである『清く正しく美しく』の教えを守り、
立派な舞台人として厳しい修練に励みたいと決意いたしております」
A「どうかわたくしたち⚪︎⚪︎名を末永く、よろしく」
全員「お願いいたします」

ちなみに舞台では、客席から向かって右を上手、左を下手と呼びますが
上手を東、下手を西と呼ぶ習慣もあります。
口上で述べられる「まだまだ西も東もわからぬ未熟者」という科白は
「まだまだ舞台人としての基礎も十分ではありません」という
へりくだった表現なのです。

科白が終わると同時に、前奏が始まり、
初舞台生による『宝塚歌劇団歌』の合唱が披露されます。
長年のファンはすでに歌詞もメロディーも覚えてしまい
心の中で一緒に歌っているのではないでしょうか。
キリリとした黒紋付緑の袴姿の初々しい初舞台生の姿。
歌の盛り上がりもあいまって、非常に感動的な場面です。
お辞儀の角度、手の位置などがピシッと揃っているのも
お稽古の成果です。
ぜひご注目を。

初舞台生のもう一つの出番、ラインダンス。
ロケットダンスとも呼ばれます。
振りが揃うのはもちろん、足上げの高さ、角度、
手の動き、首の傾け方まで、
とにかく全員が揃うラインダンスは公演の見どころの一つ。
初舞台の後、花月雪星宙の5組に分かれて配属されるため
同期が揃うのは最初で最後。
踊る方も、見る方も、気持ちが入ります。

このあとは、現在ヘア&メイクアップアーティストとしてご活躍されている
宝塚歌劇団OG CHIHARUさんの初舞台の思い出をご紹介します。
CHIHARUさんは矢吹翔の芸名で活躍された第72期生の男役さん。
星組『レビュー交響楽』が初舞台の同期45名の中には
香寿たつきさん、紫吹淳さんがおられます。

(文中*印には著者の注がつきます。)
⚫︎稽古の思い出
初日があいたあとは、とにかく舞台に立てることが嬉しくて嬉しくて。
本当に「楽しい、嬉しい」だけの毎日でした。
でも、そこに至るまでの稽古は、それはそれは厳しかったです。

2月に開催される宝塚音楽学校の文化祭が終わったころから
始まって、約1ヶ月半みっちりです。

私たちのラインダンスの振り付けは、
厳しいので有名な喜多弘先生(故人)でした。
とにかく、怖いの。
振りを間違えたり、一人でも揃っていないと、
怒鳴られる、灰皿が飛んでくる…
お稽古場に足を踏み入れるだけで、ブルブル震えがくるくらい怖かったです。
宝塚歌劇団では上下関係は絶対で、
先生方、上級生のおっしゃることに初舞台生が「違う」なんて言えません。
誰か一人が間違えたら「全体の責任」と言われる。
「え?どうして?」なんて言葉にするどころか顔色にも出してはいけないんです。
「はい、全員やりなおし!」
何がつらいといって、自分のせいで叱られて同期に迷惑をかけるのが辛い。
だから必死です。
お稽古が終わって帰宅するときには、毎日、全身が筋肉痛でこわばっていました。

また伝統的に、初舞台生のラインダンスのお稽古には上級生のサポートがあります。
初舞台生を何人かごとにグループ分けして、
グループごとに仕上げてから全員で合わせるのですけど
各グループに一人、上級生がついてくださるんです。
ご自分の出番でもないのに(初舞台生の)振り付けを全部覚えて
指導してくださるんですよ。本当にありがたいことです。
私たちのグループについてくださったのは第67期生の愛甲充さん。
すごく優しい方でした。
私たちの仕上がりが悪いと、愛甲さんにも迷惑がかかる…
そう思うと一層、気が抜けませんでした。

もちろん、厳しかった喜多先生も上級生も、根底にあるのは愛情で
初めて45人、息の揃ったラインダンスが仕上がった時には、
本当に喜んでくださいました。

口上のお稽古を付けてくださったのはハルウマさん(*1)でした。
発声から丁寧に教えていただいた記憶があります。

*1 ハルウマさんは第22期生 美吉左久子の愛称。
月、雪、花、星組の組長を歴任。名脇役としても活躍。
2010年に故人となられた。


⚫︎初舞台の思い出
家族をはじめ、周囲の方たちが喜んでくださったのが印象に残っています。
もちろん、私自身も嬉しかったんですけど、それ以上に喜んでくださっていて
「ああ、この人たちが応援してくださるから初舞台に立てたんだ」と思いました。

楽屋はすごく窮屈でした(笑)。
口上からラインダンスまでの間、出番がないものだから
大部屋に同期45人がひしめき合っていたんです。
化粧前(化粧台のこと)も、二人で一つの人もいてね。
そこに上級生が、差し入れのおすそ分けをくださるんです。
「これ、お食べなさい」って。
お一人だけではなくて、入れ替わり立ち替わり
毎日いただくものだから、
私たちは楽屋ではいつも何かモグモグ食べていた気がします。
楽屋はそんな調子だし、舞台で踊ってお客様から拍手をいただく毎日、
本当に楽しくて楽しくて仕方がなかったですね。

舞台では、フィナーレの大階段が揺れるものだと知りました。
大階段は作りつけの固定ではないので、
大勢が乗って歩いたり踊ったりすると、ゆーらゆーら揺れるのです。
怖いですよ。
怖いといえば、お芝居の一場面で、
私たちが、天井から吊り下げられたパイプのようなものに
掴まって降りてくる演出がありました。
かなり高い位置にぶら下げられて怖かったですねぇ。

もう一つ、ラインダンスで鮮明に覚えていることがあります。
『レビュー交響楽』では上級生をまじえて、合計126人が
ラインダンスを踊ったのです。(*2)
そのあと、私たち初舞台生だけのラインダンスもあったのですけどね。
126名ということで、かなりの上級生も
ダルマの衣装(*3)を着てロケットガールをされました。
その中で特に、日向薫さんと紫苑ゆうさん(*4)のスタイルが素晴らしくて!
「なんて長い脚!なんて細くて美しいんだろう!」と驚きました。
今もはっきりと思い出せます。
本当におきれいでした。

*2 ラインダンス最多人数記録
『レビュー交響楽』でのラインダンス人数126人は宝塚歌劇史上最多記録。

*3 ダルマの衣装
ワンピース型の水着のようなデザインで、腕や脚を出している衣装。
羽飾りやスカートなどの装飾が施されていることが多い。
名前の由来は、衣装に「手も足も付いていない」こと。

*4 日向薫、紫苑ゆう
日向薫は第62期生、紫苑ゆうは第64期生。
当時それぞれ研究科10年生、研究科8年生だった二人は
どちらも後に星組トップスターとなる。
研究科⚪︎年生とは初舞台を踏んで何年かということで
通常は研10というように略される。


⚫︎初舞台を含め、宝塚歌劇団での経験が今に生きていますか?
人間、何事も経験です。
無駄なことなど何一つないと思っています。
宝塚での経験が今に「生きている」というより
これまで体験したことを全て
「今に生かしていく」べきだと思っています。
本当に貴重な体験ばかりですから、生かさないとダメでしょう。


⚫︎これから初舞台を踏む後輩たちに
初日があくまでの稽古は本当にしんどいと思います。
多分、人生でこんなに苦しいことはないと思うぐらいに。
体力的にきついだけではなく、
納得がいかないこと、理不尽だと思うことも多いはず。
でも、全てをネガティブにとらえず、
自分を成長させてくれるんだと考えなくては。
注意していただけるから直せる、
悔しいから頑張れるんです。
どんなに苦しいと思っても、大きな目で見ればたった1ヶ月ほどのこと。
長い人生の中で考えたらあっという間のことですよ。

それから、初舞台は真の意味でのスタートだということを忘れないで。
「初舞台おめでとうございます」と皆さんにおっしゃっていただくでしょうが
浮かれていてはいけません。
宝塚歌劇では1ヶ月間同じ出し物が続きます。
日々新鮮であることがどれほど大変なことか。
体調を含め、自分がどんな状態であっても
毎日、同じ演目を水準以上のクオリティを保ちながら演じることの難しさ。
実際に舞台に立って初めてわかるはずです。

同期全員が揃う最初で最後の日々を悔いなく過ごしてください。
現状に満足せず、早く芸名の自分になれるようにね。
日々、精進だと思って頑張って下さい。



ヘア&メイクアップアーティストとしてご活躍のCHIHARUさんは
昨年、プロのメイク技を一般の方にわかりやすく解説した
「CHIHARU式美顔造形メイク」(幻冬舎)を出版されました。
雑誌やWEBでも美容情報を発信されています。
その一方で、宝塚歌劇団のポスターや写真集で
後輩のメイクを担当されることも。
退団後も、メイクを通して宝塚歌劇を盛り上げておられるCHIHARUさんに
初舞台の思い出を教えていただきました。
ありがとうございました。

【参考資料】
宝塚歌劇団公認 宝塚歌劇検定公式基礎ガイド

【取材ご協力・アーティスト写真ご提供】
ヘア&メイクアップアーティスト CHIHARU様
(元宝塚歌劇団 矢吹翔様)

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