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おしまいのデート(瀬尾まいこ)

温かくてちょっと悲しい物語

おしまいのデート
瀬尾まいこ(著)
『おしまいのデート』は、「最後の」デートにまつわる5つのお話が収められた短編集です。

タイトルをご紹介しましょう。
・おしまいのデート
・ランクアップ丼
・ファーストラブ
・ドッグシェア
・デートまでの道のり
(瀬尾まいこ さん『おしまいのデート』の目次を引用)
その中から、全体のタイトルにもなっている「おしまいのデート」をご紹介します。
毎月第一土曜日に彗子は じいちゃんと会う。両親が離婚し母と共に暮らすことになった彗子は、最初は月に一度、父親と会っていた。しかし、父が再婚した時から、待ち合わせ場所には じいちゃんが来るようになったのだ。

じいちゃんは元漁師で今は年金暮らし。彗子と会う日は、例え真冬でも、まずはソフトクリームを奢ってくれるのが じいちゃん お決まりのコースだった。

せっかくのソフトクリームだが、いつまで経っても じいちゃんは彗子の好みを覚えてくれない。今日も手渡されたのはチョコとバニラのミックス。あれほどミックスは嫌いだと言っているのに。いつも「次はちゃんと買ってくる」というくせに。

そしてもう「次」は なくなる。彗子の母も再婚することに決まったから。今日が じいちゃんとの「おしまいのデート」だ。
(瀬尾まいこ さん『おしまいのデート』の第一話「おしまいのデート」の出だしを私なりにご紹介しました)
主人公の彗子は中学生です。いろいろ感じるところはあっても、両親それぞれの再婚について反対したりすることはありません。

月に一度の面会についても、自分の役回りというか、取るべき態度をわかっているような感じの女の子です。

ですから、今回で父方のおじいちゃんとの面会が終わりであることは、義務から解放されたようで晴れ晴れする気持ちと、「じいちゃん」ともう会えないという寂しさの両方を感じています。

おじいちゃんの「元漁師」という設定が面白いんです。海に出れば命の危機に瀕することもあったのでしょう。キッパリさっぱりしているおじいちゃん。ものの考え方も独特です。

車の運転も荒っぽく、彗子が乗り物酔いすると
「漁師の娘が情けない」
「根性の問題。『兄弟船』を歌えば、乗り物酔いなどしないはずだ」
と、謎の理論を展開します。

私は子どもの頃、車で移動すると大抵酔いました。酔わないおまじないは何種類も知っています。歌っていれば乗り物酔いしないというのも聞きました。だから歌ってみたけど、やっぱり酔いましたよ。おそらく『兄弟船』を歌っても酔うと思うなぁ。きっと「じいちゃん」は しけた海で歌っていたんでしょうけどね。

彗子にはこのユニークなおじいちゃんの血が流れているわけで、おそらく彗子は月に一度おじいちゃんと会うたびに、そのことを実感していたのではないでしょうか。そして無茶をいう「じいちゃん」のことを彗子はきっと好きだったのだと思います。

離婚した両親の現在の生活圏は割と狭く、彗子の母の再婚相手について「じいちゃん」もよく知っています。そして彗子の今の気持ちもわかってくれていて、的を射た言葉をくれるのでした。

だけど、会うのはこれが最後。今後「じいちゃん」のアドバイスをもらう機会はないのかもしれません。いつもは次に会う日の約束をして別れるのだけれど、今日は必要ありません。帰ろうとする彗子におじいちゃんがかけた言葉が深いです。
「またな」
じいちゃんが言った。
「またな?」
「生きてればどんなことにも次はある」

そりゃそうだ。こうやって会うのが最後なだけで、じいちゃんと私にはこの先嫌っていうほど次がある。じいちゃんはクラクションを三回鳴らした。センチメンタルになって、得することは何もない。じいちゃんの口癖を思い出しながら、私は勢いよく手を振った。
(瀬尾まいこ さん『おしまいのデート』P28より引用)
じいちゃんの口癖
「センチメンタルになって、得することは何もない」
は、私もこの先の人生を歩むに際して、覚えておきたい名言です。

ところで「これから読むのにラストシーンをバラさないで!」とお怒りになっている方がおられるかもしれません。ところが、これがラストシーンではないのです。

ラストシーンは彗子の将来が明るいことを暗示していて、じいちゃんとの別れを和らげてくれます。

人生には別れはつきものだけれど、別れの後にはまた別の出会いや喜びがあることを感じさせてくれる瀬尾まいこさんの『おしまいのデート』でした。
stand.fm
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【パーソナリティ千波留の読書ダイアリー】
この記事とはちょっと違うことをお話ししています。
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おしまいのデート
瀬尾まいこ(著)
集英社文庫
中学三年生の彗子は両親の離婚後、月に一度、父の代わりに祖父と会っていた。公園でソフトクリームを食べ、海の見える岬まで軽トラを走らせるのがお決まりのコース。そんな一風変わったデートを楽しむ二人だったが、母の再婚を機に会うことをやめることになり…。表題作のほか、元不良と教師、バツイチOLと大学生、園児と保育士など、暖かくも切ない5つのデートを瑞々しく描いた短編集。 出典:楽天
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池田 千波留
パーソナリティ・ライター

コミュニティエフエムのパーソナリティ、司会、ナレーション、アナウンス、 そしてライターとさまざまな形でいろいろな情報を発信しています。
BROG:「茶々吉24時ー着物と歌劇とわんにゃんとー」

パーソナリティ千波留の
『読書ダイアリー』

ヒトが好き、まちが好き、生きていることが好き。だからすべてが詰まった本の世界はもっと好き。私の視点で好き勝手なことを書いていますが、ベースにあるのは本を愛する気持ち。 この気持ちが同じく本好きの心に触れて共振しますように。⇒販売HPAmazon

 



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